絶対満足できる!新しい英語授業
新教育課程実践講座Ⅰ 絶対満足できる!新しい英語授業[第9回]再度問う! 中学校英語教員を続けますか? 指導力不足と言われないために
トピック教育課題
2019.12.30
新教育課程実践講座Ⅰ
絶対満足できる!新しい英語授業
[第9回]再度問う! 中学校英語教員を続けますか?
指導力不足と言われないために
大阪樟蔭女子大学教授 菅 正隆
4月以降、全国各地の中学校、英語教育関連の学会・研究会、教科書出版会社、教科書著者、行政関係者等と交流をして見えてきたことがある。それは、新しい学習指導要領により、多くの中学校の英語教員が窮地に立たされるのではないかという不安である。本連載では何度も警鐘を鳴らしてきた。世間では、英語教育が小学校第3学年から導入されることや、高学年からの教科化が話題に上っているが、実は、中学校の英語教育が大きく変わることに中学校教員はまだ気付いていない。このままでは、中学校英語教員受難時代が到来しかねない。
そこで今回は、前回以上に具体的に何が必要で何が求められるかについて明確にしたいと思う。
英語教員には、二つの能力が必要とされている。一つは英語運用能力である。つまり、英語自体の能力、話せるか、聞けるか、読めるか、書けるかである。もう一つは英語指導力である。この2点について詳細に説明する。
1.英語運用能力
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国としては、中学校英語教員には、例えば、英検であれば準1級以上の取得を求めている。これは、教育再生実行会議からの報告からも見て取れる。このことは、既に20年ほど前から言われてきたことである。しかし、地域によっては取得率が遅々として上がらないところもある。ある県を例に出そう。この県では、数年前に、県費で英語教員に英語の試験(英検、TOEFL、TOEIC等)を悉皆で課し、県の示す合格ラインを超えたものについては県に報告させた。もし、不合格であった場合には、2回目以降は自費で受験し、合格ラインを超えたものは県に報告する義務を課した。さすがに先生方は、日々、努力したようである。その結果、合格者の割合は他府県よりも高くなった。しかし、何人かは何度やっても合格しない。担当者に尋ねた。「合格しない先生や、点数の低い先生はどうするのか」と。答えは単純である。「合格するまで勉強してもらう」と明快である。次に、「この成績を人事に活用するか」と厳しい質問を投げかけた。答えは、「そうはしないと先生方には言ってはいるが、実際は活用するだろう」と。もちろん、都道府県によって異なるであろうが、この流れは後戻りしないであろう。つまり、中学校の英語教員である以上、英語運用能力が一定のレベルまで到達できない場合は、仕事においても、悪い状況下での勤務を強いられる可能性も考えられる。
このことは(英語運用能力に課題がある教員)、様々なところにも影響する。一つには、新学習指導要領に新たに加えられた「生徒が英語に触れる機会を充実するとともに、授業を実際のコミュニケーションの場面とするため、授業は英語で行うことを基本とする。その際、生徒の理解の程度に応じた英語を用いるようにすること」である。もちろん、授業全てを英語で行え、というわけではないが、日本語での指示や説明ばかりの授業では教師の英語運用能力が低いと判断されることになる。そうならないためにも、指示(クラスルーム・イングリッシュ)やティーチャーズ・トークなどは必ず英語で行うことや、生徒の英語を使用する時間を確保するために、無駄な日本語での説明などは避けるなどの改善が必要である。また、研究会等の公開授業の指導案は、日本語ではなく英語で書くことをルールとするなど、日々の英語使用を意識して行うことである。
加えて、今後出版される新学習指導要領に基づいた教科書の存在が、大きく英語運用能力と関連してくる。既に書き示したが、中学校で修得すべき語彙数については、学習指導要領に「五つの領域別の目標を達成するために必要となる、小学校で学習した語(600〜700)に1600〜1800語程度の新語を加えた語」とある。つまり、小中合わせて、最大2500語を修得させなければならない。現在は、1200語程度の教科書を使用しているが、今後は倍増した語彙を用いた教科書を使用することになる。当然、生徒は定着がおぼつかないであろうし、教える側も指導が難しくなるであろう。時には、教科書の意味することが分からないなど大変な状況に陥ることも予想される。それは、多くの教科書の執筆者が声を揃えて、「教科書はすごく難しくなる。教えられない先生も出てくると思う」と話すことからも分かる。語彙だけの問題ではない。例えば、文法も高校の履修範囲であった仮定法や現在完了進行形などが中学校の履修範囲とされる。生徒に仮定法の概念を理解させることができるかなど、英語運用能力と指導力の問題も大きく関係してくる。
そこで、これからの英語教員として生き延びていくためには、以下のようなことが必要となろう。
①英語の資格試験を受験してみる。英検、TOEIC、TOEFLなど教育委員会等が求めている資格について、強制される前に自ら合格しておきたい。そのために、日々英語の勉強を自分に課す。
②かつて大学受験時に学習した語彙や文法等について、再度学習してみる。
③授業を英語で進めるために、とにかくチャレンジしてみる。ただし、学期の途中から授業スタイルを変えると生徒に混乱を招きかねないので、4月の授業開きから行ってみる。
2.英語指導力
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英語運用能力とあわせて、指導力も大きく問われる時代が到来する。それは、来年度から導入される全国学力・学習状況調査(学力テスト)によるものである。これを見越して、ある中学校では、指導力のある教師を中学校2年生に配置したという。これは、ある学力テストの上位県での取組と同じである。この上位県では、多くの小学校で指導力のある教師を5年生に配置している。来るべき学力テスト対策である。つまり、指導力のない教師が5年生の担任では結果が期待できず、管理職が教育委員会に呼び出されたり、周りからの締め付けが強くなることを避ける狙いでもある。とすれば、今年の中学校2年生の担当教員は責任重大である。結果が悪かったとしても生徒に責任を転嫁することではない。日ごろの指導の結果なのである。
次に、特に指導力が顕著に分かる例を具体的に示す。
(1)教科書の問題
先に示したように、今後使用される教科書は、非常に難しいものになると考えられる。特に新出語彙については、難易度、数の多さの点から大きな問題になるであろう。教科書の単元(レッスン)の数は限られている。その本文中に全ての新出語彙を埋め込むことは困難である。そこで、教科書会社はどのような秘策に出るか。予想ではあるが、本文に埋め込む新出語彙以外は、様々なアクティビティなど、本文学習後の活動に組み込まれることが考えられる。例えば、以下のようなことである。
【Activity】
例にならい、好きなタレントやスポーツ選手などについて友だちと対話しよう。
(例)
A: I like Matsumoto Jun very much.
B: Why do you like him so much?
A: Because he is cool.
Word Box
上記のように、数多くの新出語彙をword boxに埋め込み、学習指導要領で示される語彙数1600〜1800のハードルをクリアしようとするであろう。そうなれば、教師はこれら語彙を無視する訳にはいかない。なぜならば、これらの語彙も高校入試の出題範囲だからである。つまり、生徒がこれらの語彙も活用できるようにしなければならないのである。訳読中心の授業や文法説明に時間を要している暇はない。しっかりと、生徒に英語運用能力を身に付けさせなければならない。それができない教師は、保護者や生徒たちから見離されていくことになるであろう。
(2)学力テストの余波
先に述べた来年度から実施される学力テストは、結果次第では、2年時の担当者の指導力が問われる事態にまで発展しかねない。これを見込んで、ある市の教育委員会では、現在2年生担当の英語教師を全員呼び、来年度の学力テストに向けての研修を行っている。かなりの危機感を感じた結果であろう。
そこで、既に行われた予備調査を確認し、生徒には模擬テストとして経験させる、教師は学力テストの問題から分かる「求められる学力」を向上させるために、指導を改善していくことが必要である。
(3)IT活用技術
2021年から使用される教科書には、様々なところにQRコードが載せられている。これを使って、音読の練習や新出語彙の練習、リスニング問題などを行うことになる。一方、デジタル教科書を活用する場合も考えられる。
これらのように、英語授業はアナログからデジタルの授業へと転換が求められる。そのために、当然、ITの活用能力も求められる。そして、今後、IT活用能力も指導力の一つと考えられることになる。
以上のように、これからの英語教師には、今まで以上に英語運用能力と指導力の両方が求められる時代がやってくる。厳しい言い方をすれば、英語教師として生き残るためには、自ら努力し、両方の能力を日々向上させることしか術がないのである。
3.教科書をどう活用するか
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2021年度からの教科書を予想して、授業の在り方を考えてみる。特に、修得すべき2500語を想定した文章を使って、ITをいかに活用するかを考える。
(1)本文
世界の高校生はどのような教科書で英語を学んでいるのでしょうか。フランスの英語の教科書に載っている英文を読んでみましょう。
Despite a diet heavy on foie gras, creamy sauces and cheese, just 11% of French adults are obese compared with 22% in Britain and a third of Americans. So what’s their secret?
In Paris, the de Bodinat family are sitting down for lunch. Mrs. de Bodinat serves a healthy meal of white fish with a tomato and cucumber salad, with plain yoghurt. The fridge is devoid of fizzy drinks, and on the table sits a carafe of ordinary water. She says,“I am a mother of four children and I have to say that they do not have sweets, sugar or sodas ― you can open the cupboard and you will see no temptation at all.”
【新出単語】
(2)本時の学習指導案(50分)
1.単元 English Textbooks from Around the World
2.主題 フランスの教科書を読んでみよう
3.本時の目標と評価のポイント
(1)食に関する表現を知る。(知識・理解)
(2)フランスにおける食の問題点について、自分の意見を相手に伝えることができる。(思考・判断・表現)
4.使用教具・機材 タブレット、電子黒板、コンピュータ、パワーポイント
5.授業案
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Profile
大阪樟蔭女子大学教授
菅 正隆
かん・まさたか
岩手県北上市生まれ。大阪府立高校教諭、大阪府教育委員会指導主事、大阪府教育センター主任指導主事、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官並びに国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官を経て現職。調査官時代には小学校外国語活動の導入、学習指導要領作成等を行う。