ここがポイント!学校現場の人材育成
ここがポイント!学校現場の人材育成[最終回]学校における人材育成のポイント
学校マネジメント
2020.05.29
ここがポイント!
学校現場の人材育成
[最終回]学校における人材育成のポイント
明海大学副学長
高野敬三
(『学校教育・実践ライブラリ』Vol.12 2020年4月)
●本稿のめあて●
学校現場の人材育成について、最終回となる本稿では、これまで取り上げてきた制度的な視点からではなく、教員の自己改革や管理職の働きかけなどから人材育成のポイントをみていきます。
これまで本連載では、「学校現場の人材育成」について、新任教員、先輩教員、学校管理職や指導主事に焦点を当ててみてきました。学校現場には、様々な年齢や経験が異なる教員が集まっています。こうした多様な教員集団が学校現場にあるというのは、今に始まったことではありません。
多様化・複雑化した教員集団
年齢や経験だけではなく、公立学校の場合は、教員や管理職の異動も定期的に行われていますので、多様でありながらも、常に一定の教員集団の状態が長く続くことは極めて稀なことです。つまり、人事異動によって、その多様な教員集団がさらに複雑化していくことも起きます。
こうしたことに加えて、主幹教諭、指導教諭、副校長という職層を学校現場に導入して教員集団をライン・スタッフ化した学校現場の変化も見逃せません。この変化は、校長のガバナンス機能の強化と教員の学校経営の参画にその意義を求めることはできますが、年齢や経験に裏打ちされた教員がこうした職層に就くことが何よりも肝心なことであり、もしそうでないと、ただでさえ多様化・複雑化した教員集団を束ねることができなくなります。
このようにみてくると、学校というところは、企業とあまり変わらないではないかと言う方もあろうかと思います。ただ、学校が企業と根本的に異なっていることは、特に小学校以外の学校では、複数の教員が一人の子供の教育に当たるところにあります。それも、ある場合は学級担任であるA先生が、ある場合は、英語の授業を担当するB先生、さらには、生徒指導を担当するC先生、部活動を担当するD先生といった具合で、かなり多くの年齢や経験の異なる先生方が、一人の子供を指導することになります。子供にとってみれば、多くの先生方の指導で成長していくわけですから、望ましいことです。
年齢や経験などが多様であることは、つまり、一人一人の教員の個性が多様であることとも言えます。子供の成長にとってみれば、様々な個性の教員の下で指導を受けることができる利点があります。中学校を例にしますが、一人の生徒から見れば、学ぶべき教科が九つありますので、それぞれ曜日や時間帯は異なるものの、9人の教員から授業を受けています。
個々の教員の個性は個性として尊重されるべきかと思いますが、やはり、何と言っても、こうした一人一人の教員の資質能力の向上、いわゆる人材育成が重要となってきます。このため、法令上も設置者が教員の研修計画を立て、研修を実施しているわけです。最近では、教育公務員特例法等の改正があり、各教育委員会では、「校長及び教員としての資質の向上に関する指標」を定め、それに沿った研修をしています。
長年、学校現場の教員、教育委員会の指導主事、校長を経験してきた私からみると、教育委員会で主催する研修によって、教員は育つとは思いますが、やはり、現場である学校における教員一人一人の自発的・主体的な取組と管理職の意図的・計画的な取組が、人材育成には不可欠であり、最重要視しなければならないと考えます。
教員が自己の資質能力を伸ばすポイント
(1)子供から学ぶ
教員になって1年目は初任者研修など研修の機会はあり、自己啓発はできやすい環境にありますが、その後はどうでしょうか。何とかしなければと苦悶して、様々な手法を試す時期もありますが、次第に、子供の学力が伸びないのは自分のせいではなく、そもそも子供が勉強しないからだ、子供が言うことを聞かないのは、家庭に問題があるからだなどと言って、成長できるきっかけに真摯に向き合わなくなっていきます。教員は、採用後から定年退職まで、年齢や経験年数に関わらず、その年その年に出会う子供から自己を成長させるきっかけを捉えて、自己変革の努力をしなければなりません。中堅となった、指導的立場となった、定年退職間近になったからといって、その営みを決して怠ってはいけません。
子は親の鏡とよく言われますが、同様に、子は教員の鏡とも言えます。子供をみれば、その子供の教育を担っている教員が常日頃どのような指導をしているか分かるとも言えます。ましてや、小学校の児童は、全ての教科の授業を一人の担任から受けるのですから、教員の影響力は大と言えます。
(2)教員仲間から学ぶ
昨今の教員は、職員室でも隣の教員が何をしているか全く関心をもたず、話をすることに価値を見出していないと聞いています。人は人、自分は自分といった殻に閉じこもり、子供の教育に関して「教育談義」をしない風潮があるそうです。経験豊かな教員の話の中に、自己を成長させるきっかけは無数にあるはずです。若手も、経験豊かな教員も遠慮せずどしどし意見を言うべきです。自分も、その手法を取り入れてみようと決断をして実行したときこそ、教員が成長する瞬間です。子供を惹きつける授業ができない、もっと効果的な授業のやり方はないのかと悩むのも教員の宿命かと思います。そういうときは、他の教員の授業のやり方を実際に参観して、コツを盗むべきです。あるいは、他の教員に依頼して、実際の授業を見ていただき、批評を積極的にいただくべきです。年齢や経験には関係なく、授業の達人はいます。年配の教員や経験豊かな教員でも、若手教員から学ぶべきことは多いはずです。
管理職が所属職員を育成する上でのポイント
校長、副校長・教頭は、所属職員の管理・監督の職務に全力を挙げていますが、もっと人材育成に意を用いるべきです。教員は子供を育てますが、管理職は教員の人材育成をすることが極めて大事であると肝に銘じるべきです。極論を言えば、職務の半分以上はそれに当てるべきです。教員の人材育成をする上では、まずは、仕事を与えることです。そして、やり遂げた仕事を評価して、さらに、困難な仕事を任せることが大事です。そして何よりも、その仕事の成果を褒めることです。かつては、名物校長の下で育った多くの教員が様々な学校で優秀な教員となり、そうした方々が、さらに様々な学校で優秀な教員を育てている例は少なからずありました。
Profile
明海大学副学長
高野敬三 たかの・けいぞう
昭和29年新潟県生まれ。東京都立京橋高校教諭、東京都教育庁指導部高等学校教育指導課長、都立飛鳥高等学校長、東京都教育庁指導部長、東京都教育監・東京都教職員研修センター所長を歴任。平成27年から明海大学教授(教職課程担当)、平成28年度から現職、平成30年より明海大学外国語学部長、明海大学教職課程センター長、明海大学地域学校教育センター長を兼ねる。「不登校に関する調査研究協力者会議」委員、「教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会議」委員、「中央教育審議会教員養成部会」委員(以上、文部科学省)を歴任。