講座 単元を創る

齊藤一弥

講座 単元を創る[第7回]教材単元の再構成

授業づくりと評価

2020.02.13

講座 単元を創る
[7]教材単元の再構成

島根県立大学教授
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.7 2019年11月

■summary■
資質・能力ベイスでの単元づくりでは、見方・考え方に着目して指導内容の連続性や関連性を意識したまとまりで単元枠を設定するために、従来の教材単元の枠組みを再構成する必要が生じてくる。

教材を見方・考え方でつなぐ

 これまでの連載でも、これからの単元づくりでは見方・考え方を基軸に据えることが大切あることを話題にしたが、その成長過程を意識しながら単元づくりに関わり出すと、これまでの教材単元を見方・考え方でいかにつないでいくかという課題に直面する。内容ベイスでの単元づくりでは、指導内容のまとまりで単元枠を区切っていくが、資質・能力ベイスでの単元づくりでは、見方・考え方に着目して指導内容の連続性や関連性を意識したまとまりで単元枠をくくっていく。そのため、従来の教材単元の枠組みを見直したり関連しているものを再構成したりする必要性が生じてくる。

 新しい学習指導要領に基づく授業改善では、これまで以上に単元のまとまりへの関心が高まっている。新課程における授業づくりの主旨を実現していくためにも、見方・考え方を基軸としてこれまでの内容構成をいかに見直していくかが鍵になる。

見方・考え方を基軸に据えて単元枠を見直す 小学校算数科を通して考える

 新学習指導要領では、小学校4年の算数で「簡単な場合についての割合(整数で表される場合)」が新たに取り上げられた。これは、5年で学習する「割合」の理解が難しいことから、前学年から割合の見方を体系的に指導することでつまずきをなくすことを目指している。特に、基準量と比較量、そして割合(倍)の関係については、それまでの乗除法の指導とも大きく関連していて、単に「簡単な場合についての割合」を位置付けたからといって単純に解決するようなものではない。

 そこで、今回の学習指導要領では割合の理解を確実に行うために、下図にあるように4年に3つの内容に割合の見方に関係する事柄が示された。5年の割合でのつまずきの要因を踏まえて、その改善に必要な内容を前学年および次学年の指導との接続を意識しながら位置付けられたわけである。

乗除法の意味理解の不徹底 除法の計算の指導で基準量、比較量、および倍(割合)を求める際の計算方法の理解をする(3年からのつながり)

倍の拡張と割合の指導がつがならない ⇔ 小数の意味指導において小数を用いた倍を取り上げ、倍を求める計算との関連を理解する(5年へのつながり)

倍と割合との関係が不明確 割合が整数で表される簡単な場合について取り上げ、倍を求める計算との関連を理解する(5年へのつながり)

 これまでの単元のまとまりでは、それぞれは別の指導項目に位置付けられていることから、それらは独立した教材単元として設定されてきた。しかし、それでは子供はこれらの内容をばらばらで独立したものとしてとらえてしまい、内容を深く理解していくことが難しかった。そこで、数量の関係(割合・倍)に着目して、統合的かつ発展的に考えていくという数学的な見方・考え方を基軸に据えて一つの単元のまとまりで内容を整理することで、子供が割合とこれまでの学習との連続性や関連性を確認できるようにするとともに、体系的に大切な概念、内容等を理解できるようにしたわけである。

 上図に示したのは、高知市立春野東小学校の学習指導案の一部(本単元と領域の関連)である。先述の4年の3つの内容を1つの単元のまとまりとして「倍の見方をつなげよう」という新しい単元枠を用意した。ここで注目すべきことは、3つの内容をつなぐ根拠として「大切にしたい数学的な見方・考え方」が明示されていることである。これによって教材をどのように構成したのかを読み取ることができる。また、前後の学年における学習内容との関連および系統を明確にすることによって学校組織として実践の質を高めることにも留意している。見方・考え方を基軸に据えると、学年(縦)や領域(横)を越えた教材の配列にも関心が向いていくことになる。

教材単元のまとまりを捉え直す

 内容ベイスで描かれた教材単元を見直すことは簡単なことではない。しかし、単元づくりにおいて見方・考え方を基軸に据えるとは、子どもがそれを働かせて自ら学び進む文脈を描くということであり、このことは学びの主体を子どもに戻し、子どもたち自らが主体的・対話的で深い学びに取り組むために不可欠なことである。この新学習指導要領の授業づくりの主旨を実現するためには、春野東小学校の実践研究が単元のまとまりを見方・考え方からとらえ直して教材単元の再構成を試みたように、単元づくりの基本を捉え直す必要があると言える。

 

Profile
島根県立大学教授
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥
さいとう・かずや

横浜国立大学大学院修了。横浜市教育委員会首席指導主事、指導部指導主事室長、横浜市立小学校長を経て、29年度より高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官、30年10月より現職。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員。近著に『新教育課程を活かす能力ベイスの授業づくり』。

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島根県立大学人間文化学部教授

横浜国立大学大学院修了。横浜市教育委員会首席指導主事、指導部指導主事室長、横浜市立小学校長を経て、29年度より高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官、30年10月より現職。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員。近著に『新教育課程を活かす能力ベイスの授業づくり』。

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