講座 単元を創る
講座 単元を創る[第11回]学び手主体へのアップデート
授業づくりと評価
2020.05.11
講座 単元を創る
[第11回]学び手主体へのアップデート
島根県立大学教授
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥
(『学校教育・実践ライブラリ』Vol.11 2020年3月)
■summary■
内容ベイスに慣れていると、内容をもれなく指導していくための配列等に関心が向いてしまうが、学び手の関心や思考と教師が指導したい内容の折り合いをいかにつけていくかが肝要である。資質・能力ベイスでの学びはその両面がバランスよく釣り合う中で成立する。
単元は目指す目的や方向によって変わる
単元を創るとは、学び手と教師の双方にとって最適な学びをデザインすることである。教師が描いた単元が学び手にとって課題がある場合は、決して計画に固執することなく新たな展開をイメージして単元を描き直すことが必要になる。教師がイメージしている単元とは、そもそも過去の実践履歴がもとになって共有されているものであり、それは指導の目的や方向によって大きく変わってくる。今回の改訂のように資質・能力の育成に向けて見方・考え方を働かせた学習活動を組織することが期待される中では、これまでの内容ベイスの単元を資質・能力ベイスへいかにアップデートしていけばよいのであろうか。
単元に学びの主体はいるのか
高知県四万十市立中村中学校の理科の授業研究における単元づくりを紹介する。
図1は、授業研究に先立って行われた教材研究会で提案された単元計画(一部)である。単元は、中学校2年の「電流とその利用」で電流と磁界や電流が磁界から受ける力について取り上げている。この連載で以前にも紹介した中村中学校では、深い学びの実現に向けた学習過程の工夫を研究主題に掲げて、教科における見方・考え方を働かせた授業づくりを追究しているため、単元づくりも新学習指導要領の主旨を活かして見方・考え方を基盤に据えることを大切にしてきている。
見方・考え方で単元を描いてきたはずであったが、教材研究会では生徒にとって「電流と磁界」「電流が磁界から受ける力」、そして「誘導電流と発電」の3つの内容を学ぶことの必然と関連が話題になった。それぞれの学習には、科学的探究の視点として「量的・質的」「空間的・時間的」に事象を捉えることや「比較」「関連付け」しながら追究していく場は用意されてはいるものの、学び手である生徒が目的を明確にしながら見方・考え方を働かせていくことになるかという疑問である。生徒が、これまでの経験知や学習知を意識しながら学びの目的を明確にすることが大切であり、そのためには3つの指導内容をつなげていく「価値ある問い」を位置付けることが必要であるという結論にたどり着いた(図2参照)。
小学校理科で、「電磁石で電気が磁力を生み出すこと(5年)」「電気の力でモーターが回ること(4年)、電気が運動に変わること(6年)」、そして「電流が流れるためには回路が存在すること(3年)」などについて学んできた。しかし、それらの事象の背景にある原理や仕組みは理解していないことから、この状況を解決していくことを「価値ある問い」として位置付けていくことで、生徒がこれまでの学習で働かせた見方・考え方を活かしながら学びを押し進めることができるようになるというわけである。
学び手を主体に単元を描き直す
このような視点から学びを構成していくことは生徒にとってみれば自然なことである。内容ベイスに慣れていると、内容をもれなく指導していくための配列等に関心が向いてしまう。本来授業とは、学び手である生徒の関心や思考と教師が指導したい内容の折り合いをつけていく営みである。つまり、そのどちらもが重要であって、資質・能力ベイスでの学びはその両面がバランスよく釣り合う中で成立する。
図3は、教材研究会を受けてアップデートした単元計画(一部)である。単元の導入では、身の回りの道具に着目し、小学校での学習内容とのずれを確認する場を大切にしている。生徒の疑問や気付きを問いづくりに活かしていくという展開である。これまでに見てきた科学的な事象の背景に関心をもちながら、これまでに身に付けてきた見方・考え方を働かせながら科学的探究を推し進めていこうとしていることがわかる。
教師の授業の腕のアップデート
その後、アップデートされた単元計画で授業はスタートした。しかし、生徒主体に描いたはずの単元であっても、それどおりに授業は動かない。授業研究会の提案授業は、旧来のパターンを踏襲して終わってしまった。指導する教師にも描き直した単元の意図を授業で表出する力量のアップデートが期待されているということである。
Profile
島根県立大学教授
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥
さいとう・かずや
横浜国立大学大学院修了。横浜市教育委員会首席指導主事、指導部指導主事室長、横浜市立小学校長を経て、29年度より高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官、30年10月より現職。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員。近著に『新教育課程を活かす能力ベイスの授業づくり』。