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UD思考で支援の扉を開く

小栗正幸

UD思考で支援の扉を開く 私の支援者手帳から[最終回]支援者を呪縛する煩悩からの解放

NEWトピック教育課題

2020.06.02

UD思考で支援の扉を開く
私の支援者手帳から

[最終回]支援者を呪縛する煩悩からの解放

特別支援教育ネット代表
小栗正幸

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.12 2020年4月

 この連載では、支援者を支援することをテーマに私なりの考えを述べてきました。最終回となる今回は、これまでの各論を振り返ってみながら、支援者を呪縛する煩悩からの解放手続きについて、まとめてみたいと思います。

原因論にまつわる煩悩

 私の手帳には、ケースの相談を受けたときのメモが書き込んであります。それを見ると、生徒指導や特別支援の現場で、対象となる子供への支援に携わっている人たち(支援者)には、ある種のこだわりがみられることがあります。それは、支援対象者に対して、①やる気がない、②わざとやっている、③反省させたい、④厳しい指導が必要、といった、支援に対してのこだわりや決めつけがあるように思えるのです。

 しかし、実務家としての立場からいうと、それらは、その子のためにしているように見えて、実は自分の納得のためにしていることが多いように思います。そのために、支援の効果が見られず、支援者自身が困ってしまうといった事態に陥ることがあります。つまり、支援のミスマッチが起きてしまうのです。こうした思い込み、こだわりをこの連載では“煩悩”と呼んで、そこからの解放に向かう道筋を探ってきました。

 例えば、約束を守らない、無気力といた状況に対して、「やる気がない」と思いたくなる煩悩をもってしまいがちですが、それは、現象的な面だけを捉えるのでなく、約束を守るまでのプロセスの中で人間関係を継続していくこと、つまり、守れたか守れなかったかではなく、守れるまでのプロセスをつくっていくことが大事だということを指摘しました。

 嘘をついたり、面倒を起こして困らせる子供に対して、「わざとしている」という煩悩をもつ支援者もいます。しかし、私たちのお相手は、詐欺師のような手練手管をもってはいません。わざとしているように見える行動は、実は自分を変えたいと思ってやっていることが多いものです。「わざとしている」ような困った行動は、その子の本態や本当の思いを見極めるチャンスとなるのです。

 このように行動の原因を決めつけることなく、対象者にとって納得のいく支援を心がけることが重要なのです。

指導論にまつわる煩悩

 支援対象者への基本的な指導として「自分のことをわからせる」というものがあります。しかし、自分の短所を突き付けられるのは一般の人でも嫌なものですし、「良いところ探し」も、対概念として短所に気づかせることになり、罪作りな指導といえます。自己理解への支援には、あるがままを受け入れるということが大事で、例えば、他者批判をする子に対しては、「自己中心的な行動がみんなの迷惑になることが理解できている君はすごい」と言ってあげるといった的外しな指導が効果的です。つまり、「この子はなぜこうなったのか」と考えるよりも、今の自分をより良くしていくアプローチを考えていくべきだということもこの連載で指摘しました。

 「毅然とした指導をすべき」というのも、カンファレンスの場でよく聞くことです。しかし、ネガティブな行動には、支援対象者のこだわりがあります。それを支援者のこだわりで対応しようとすれば支援は堂々巡りをしてしまうでしょう。

 例えば、「クラスの人の目が冷たいから教室に入れない」と言う子に対して、「そんな子ばかりじゃない」とか「考えすぎ」と言って教室に入れようとするのは、こだわりにこだわりで答えているだけで、効果はありません。それならば、「そんな困っていることを相談してくれてありがとう」と的外しをしてみます。つまり、ネガティブな状況をポジティブな状況に変えていくのです。そこから、支援対象者の本当のニーズを探る可能性が出てきます。支援者は自分の中にこそあるこだわりに気づく必要があるのです。

人間性にまつわる煩悩

 「この子のために」というのは多くの支援者が思うことです。困っている支援対象者に対して、「なんとかしてあげたい」と思うのは支援者として当然の思いでしょう。しかし、これも煩悩の一つとなってきます。つまり、「困っていること」の多くは、実は支援者が困っていることである、ということが多いのです。

 例えば、自己肯定感を高めたいと思って褒めてあげようとします。しかし、その子に褒める所がないと嘆く支援者は多いものです。すると他の子には褒めないような些細なことを褒めてあげたりします。子どもはそんな褒められ方に納得するわけがありません。むしろ自分がバカにされている気分を味わわされることになります。

 このように、支援者の人間性から発揮される指導は、支援対象者にとっては迷惑なものになりがちです。そこで、人間性によって解決を図ろうとするのでなく、必然性からアプローチすることをお勧めします。

 例えば、「そこのゴミを拾ってゴミ箱に捨てて」と簡単な用事を言いつけます。子どもは言われたとおりゴミを捨てます。そこで、その子をしっかりと見て「ありがとう」と言うのです(この連載で度々登場した方法です)。

 このことで、行動と「ありがとう」が必然性をもってきます。さらに、支援者と対象者とのコミュニケーションづくりにもなります。そのことでお互いの信頼関係をつくるきっかけにもなるのです。

 自らの人間性によって支援が狭められることなく、「この方法でよいだろうか」「(支援対象者に)こんな面白い所があった」「これは(支援対象者にとって)かけがえのないものだ」と思う心を常にもって、アプローチをしてもらいたいものです。

 その際に、キーワードとなるのが「ユニバーサルデザイン」です。

 誰に対してもどんな場面でも公平で自由に使え、簡単で安全で、必要な情報がすぐわかる。それがユニバーサルデザインの考えです。

 ユニバーサルデザインを携え、煩悩にとらわれずに対象者のニーズにマッチした支援に、今こそ舵を切っていきませんか。(談)

 

Profile
特別支援教育ネット代表
小栗正幸
おぐり・まさゆき
岐阜県多治見市出身。法務省の心理学の専門家(法務技官)として各地の矯正施設に勤務。宮川医療少年院長を経て退官。三重県教育委員会発達障がい支援員スーパーバイザー、同四日市市教育委員会スーパーバイザー。(一社)日本LD学会名誉会員。専門は犯罪心理学、思春期から青年期の逸脱行動への対応。主著に『発達障害児の思春期と二次障害予防のシナリオ』『ファンタジーマネジメント』(ぎょうせい)、『思春期・青年期トラブル対応ワークブック』(金剛出版)など。

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岐阜県多治見市出身。法務省の心理学の専門家(法務技官)として各地の矯正施設に勤務。宮川医療少年院長を経て退官。三重県教育委員会発達障がい支援員スーパーバイザー、同四日市市教育委員会スーパーバイザー。(一社)日本LD 学会名誉会員。専門は犯罪心理学、思春期から青年期の逸脱行動への対応。主著に『発達障害児の思春期と二次障害予防のシナリオ』『ファンタジーマネジメント』など。

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