スクールリーダーの資料室
スクールリーダーの資料室 Education 2030 OECD Education 2030プロジェクトについて(日本語仮訳) 2018年2月 OECD(経済協力開発機構)
トピック教育課題
2020.02.07
目次
- OECD Education 2030プロジェクトについて
- 教育とスキルの未来:Education2030【仮訳(案)】
- OECD Learning Framework 2030 (2030年に向けた学習枠組み)
- Education2030:共有しているビジョン
- 急速に変化する世界における新たな解決策の必要性
- 幅広い教育目標の必要性:個人のウェルビーイングと集団のウェルビーイング2
- 学習者のエージェンシー3:複雑で不確かな世界を歩んでいく力
- 行動に移すことができるような、知識、スキル、態度及び価値の幅広いセットの必要性
- 私たちの社会を変革し、私たちの未来を作り上げていくためのコンピテンシー
- エコシステム・レベルでの変革に向けたデザイン原理
- 概念、コンテンツ、トピックのデザイン
- 学習プロセスのデザイン
- 今後の予定
エコシステム・レベルでの変革に向けたデザイン原理
これらの「変革を起こす力のあるコンピテンシー」は複雑なものである。コンピテンシーの一つ一つが、他のコンピテンシーと複雑かつ相互に関連している。それらのコンピテンシーは、発達していく性質を持つものであり、それゆえ学習可能なものである。
コンピテンシーを身に付けていく能力は、それ自体が見通し、行動、振り返り(Anticipation、Action、Reflection = AAR)の連続した過程を通じて学習されるべきものである。振り返りの実践とは、決断したり、選択したり、行動する際に、これまで分かっていたことや想定したことから一歩引いて、状況を 他の異なる視点から見直すことによって、客観的なスタンスをとることができる力である。見通しとは、分析的思考力や批判的思考力といった認知スキルを活用して、将来何が必要になるか、あるいは、現時点でとった行動が将来にどのような影響を及ぼすかといったことを予測することである。見通しも振り返りも、いずれも責任ある行動の前提となるものである。
そのため、OECDの2030年に向けた学習枠組みは、複雑な概念を包含するものとなっている。即ち、世界に積極的に関わっていくために必要となる相互に関連したコンピテンシーを育成するために、AARのプロセスを通して知識やスキル、態度及び価値を総動員していくものとなっている。
この新たな学習枠組みが実行可能なものとなるよう、Education 2030プロジェクトに携わる関係者は「変革を起こす力のあるコンピテンシー」やその他の重要な概念を特定の構成要素(創造性、批判的思考力、責任感、強靱さ、協働など)に表現し直すよう共同で取り組んできた。これによって、教師や学校管理職も、これらの概念をカリキュラムにより良い形で融合させることができるだろう。構成要素については、現在検討中である。
Education 2030では、カリキュラム見直しのための知識基盤の構築も行ってきた。カリキュラムの変更は、教育が多くのステークホルダーを含めた一つのエコシステムであることを想定している。生徒、教師、学校管理職、保護者、国あるいは地方の政策立案者、研究者、労働組合、社会的パートナーや産業界が、このプロジェクトのために一丸となって取り組んできた。国を超えた作業の中で、Education 2030は5つの共通する課題を特定した。
1. 保護者や大学、雇用者からのニーズや要望を前に、学校はカリキュラムの負担が過剰である問題に取り組んでいる。結果的に、各学問分野の重要な概念を理解する時間や、バランスの取れた生活という観点からは、友人関係を構築したり、睡眠をとったり運動をしたりする時間が十分に取れないことがしばしば生じている。今こそ、生徒の関心を、「学習時間の長さ」から「学習時間の質」にシフトしていくときである。
2. カリキュラム改革は、課題の認識から意思決定、カリキュラムの実施、その影響が生じるまでなどの間で生じるタイムラグに影響される。一般的に、カリキュラムが意図するところと学習の結果とのギャップは非常に大きなものになる。
3. 生徒が学習に没頭して、深く理解していくためには、学習内容は質の高いものでなければならない。
4. カリキュラムは、革新的なものであると同時に、公平を担保するものでなければならない。選ばれたわずかな生徒だけでなく、全ての生徒が社会的、経済的、技術的な変革の恩恵を受けられるようにする必要がある。
5. カリキュラム改革を効果的に実施に移していくためには、よく練られた計画と各実施段階間の整合性の確保が極めて重要である。
こうした課題に対応していくため、ワーキンググループのメンバーとその他のパートナーは、国や時間を超えて妥当と考えられるであろう教育課程や教育制度を変革していく上でのデザイン原理や教育制度について、共同で検討しているところである。
概念、コンテンツ、トピックのデザイン
● 生徒のエージェンシー:カリキュラムは生徒の意欲を喚起するようにデザインされるべきである。また、その際には生徒の事前の知識やスキル、態度及び価値についても考慮されるべきである。
● 難しさ:トピックは挑戦する甲斐があるもので、深い思考や振り返りを可能とするようなものにすべきである。
● 焦点化:深い学びと質の高い学習を保証するため、各学年で扱う単元・領域は相対的により少ないものとすべきである。鍵となる概念の理解を強化するため、単元・領域同士が重なることも考えうる。
● 一貫性:単元・領域は、発達段階や年齢を通して、基礎的なものからより高度な概念へ進歩していけるようにするため、各学問分野の原理を反映した形で順序付けられるべきである。
● 整合性:カリキュラムは指導法や評価の実践とよく整合したものでなければならない。今後望まれる成果の多くは、いまだ評価する技術が存在しないが、異なる目的のためには異なる評価の実践が必要である。必ずしも常に測定することができない生徒の成果や行動を価値づけるような、新たな評価方法が開発されるべきである。
● 転移可能性:特定のコンテクストで学習することが可能で、かつ他のコンテクストにも転移できるような知識やスキル、価値・態度に、より優先度が置かれるべきである。
● 選択:子供たちには、十分な情報が与えられた上で選択できるようなサポートがあった上で、多様な範囲のトピックやプロジェクトの選択肢や、自らが考えるトピックやプロジェクトを提案する機会が与えられるべきである。
学習プロセスのデザイン
● 教師のエージェンシー:カリキュラムを効果的に実施していくため、教師は、専門的な知識やスキル、専門性を発揮できるようになっているべきである。
● 真正性:学習者は、学習経験を実世界に関連付けて捉えられるようにするとともに、学習において目的意識を持つことができるようにすべきである。そのためには、各学問分野の知識に習熟することに加えて、学問分野を超えた学習や協働的な学習が必要である。
● 相互関連性:学習者は、各教科のトピックや概念が、その教科内の他のトピックや概念や、教科を超えた他のトピックや概念とどのように関連しているか、また、学校外の実生活とどのように関連しているかを認識する機会が与えられるべきである。
● 柔軟性:「カリキュラム」の概念が、「事前に決まっている静的なもの」から「状況に応じて変わりうる動的なもの」として変わっていくべきである。学校や教師は、日々進展する社会的なニーズや個人の学習上のニーズを反映するように、カリキュラムを更新したり、整合性をとるようにすべきである。
● 関与:教師や生徒、そのほかの関係するステークホルダーは、実施において当事者意識を持つことができるように、カリキュラムを策定していく初期の段階から関与していくべきである。
今後の予定
本文書は、教育が変わっていくための国際的な取り組みを要約したものである。OECD Education 2030プロジェクトのワーキンググループに加わって、そのビジョンや考えに対し意見を述べたり、手助けしていただくことを歓迎する。
ワーキンググループでは、この学習枠組みが実行可能なものとなるように、アイディアや好事例を収集しており、以下のことが求められている。
● 中央、地方の政府が、今回示した学習枠組みに関連する政策やカリキュラムのデザインの経験を共有すること。
● 生徒、教師、学校管理職、保護者が「ラーニング・コンパス 2030」を活用した具体的事例について共有すること。
● 専門家や研究者が、特に学習枠組みの構成要素について、エビデンスに基づいた政策と実践の間の関連性の強化を助けること。
● 地域コミュニティ、教員組合やビジネスセクターの代表者を含む職業団体や産業界が生徒の学習支援や適切な学習環境づくりの実践を共有すること。
● 国際社会や国際機関が、国連持続可能な開発目標(SDGs)4.7や他の関連するイニシアティブの支援を受けながらEducation 2030 に貢献すること。
(Annex1、2、3については省略)
本文書の原文は、下記のURLをご参照ください。
http://www.oecd.org/education/2030/OECD%20Education%202030%20Position%20Paper.pdf
[注]
1 この仮訳は、これまでの本プロジェクトの議論に参画、貢献してきた以下に掲げる有識者及び組織の協力を得て、文部科学省において作成したものである。
秋田喜代美 東京大学大学院教育学研究科教授
安彦 忠彦 神奈川大学特別招聘教授、名古屋大学名誉教授
石井 英真 京都大学大学院教育学研究科准教授
岸 学 東京学芸大学名誉教授
白水 始 東京大学高大接続研究開発センター教授
関口 貴裕 東京学芸大学教育学部准教授
田熊 美保 経済協力開発機構(OECD)教育スキル局シニア・アナリスト
奈須 正裕 上智大学人間科学部教授
無藤 隆 白梅学園大学子ども学部教授兼子ども学研究科長
OECD教育イノベーションネットワーク
また、文部科学省においては、以下の者が翻訳の作成及び編集に当たった。
鈴木 寛 文部科学大臣補佐官(Education 2030プロジェクト・運営委員会理事)
白井 俊 文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室長(Education 2030プロジェクト・ナショナル・コーディネーター)
2 教育基本法第2条は「教育の目標」として、「豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと」(同条第1項)や「生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと」(同条第4項)等を規定しているが、これらはウェルビーイングの考え方に合致するものである。
3 教育基本法第1条では「平和で民主的な国家及び社会の形成者として」必要な資質を備えた国民の育成を期することとしており、また、同法第2条では「公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養う」としているが、これらは、エージェンシー(Agency)の考え方に合致するものである。