スクールリーダーの資料室
スクールリーダーの資料室 これまでの審議を踏まえた論点取りまとめ(素案)
トピック教育課題
2020.03.23
目次
これからの学びを支えるICTや先端技術の効果的な活用について
(論点)
1.これからの学びとICTや先端技術の効果的な活用について
(1) ICT環境や先端技術(教育ビッグデータの活用を含む)には、学びと社会をつなげ、「社会に開かれた教育課程」を実現し、学びを変革していく大きな可能性がある。特別な支援が必要な児童生徒の自立支援や外国人児童生徒等への対応、いじめ・虐待など困難を抱えた子供たちの早期発見・早期支援も含め、子供たちの変容を見取りながら、誰一人取り残すことなく、すべての子供の力を最大限に引き出すものとして機能していくための推進が必要である。その際、ICT技術を活用しながら、一人一人の個別の学習計画の活用や、学習者自身の学びの振り返りが効果的である。
(2) ICT環境や先端技術を効果的に活用することにより、①学びにおける時間・距離などの制約を取り払うこと、②個別に最適で効果的な学びや支援、③可視化が難しかった学びの知見の共有やこれまでにない知見の生成、④校務の効率化、が可能になり、これらの効果を上げるための方策を推進する必要がある。その際、目指す学校のグランドデザインや学習環境の在り方を見据え、これまでの取組との融合や複合を意識しながら進めていくべきである。
(3) このように、多様な子供たちを誰一人取り残すことのない、個別最適化された学びを実現していくためには、学校ICT環境は必要不可欠なものであるが、現状の情報化の致命的な遅延や地域間格差は、学習環境・職場環境として大きな問題であり、教育の機会均等の観点からも、抜本的な改善が必要である。
(4) また、ICTを活用した個別に最適で効果的な学びや支援の実現を目指していくことに加え、来年度から順次実施となる新学習指導要領では、プログラミング教育や情報モラル教育などの情報教育を充実することとしている。新学習指導要領の求める資質・能力を育成、深化し、子供の力を最大限引き出すためには、ICTの効果的な活用は必要不可欠である。学校にとってICT環境は必須のものであり、その整備は待ったなしである。
(5) このような中、ICT環境や先端技術の活用状況の差による教育格差がないよう、また、学校における働き方改革や保護者の負担軽減の観点からも、国と地方の連携の下、令和の学校のスタンダードの実現に向け、目指すべきICT環境の姿とその実現に向けたロードマップを描きつつ、ハード面とソフト面一体で、国の取組を早急に進めるべきである。
2.国家プロジェクトとしての学校ICT環境整備の抜本的充実について
(1) 学習者用コンピュータについては、児童生徒1人1台環境を実現するため、自治体や学校に任せきりにするのではなく、国家プロジェクトとして、全国の学校での整備を一気に促進すべきである。その際、各教科等の学習において学習者用コンピュータを円滑に活用していくに当たって、キーボードなどによる文字の入力が必要となることに留意が必要である。また、将来的には、特定のデバイスに依存せず、いつでもどこでもICT環境が使える姿を目指していくべきである。その観点からも、学習方法に応じた最適なデバイスの活用の在り方を検討することや個人所有の学習者用コンピュータの持ち込み(Bring Your Own Device= BYOD)について、学校におけるICT活用がスタンダードなものとなり、保護者をはじめ社会的な理解が得られるような環境を醸成していくことが必要であると考えられる。
(2) 安定かつ安全で高速大容量の通信ネットワーク環境の整備やクラウド活用の推進、大型提示装置の整備への支援についても、学習者用コンピュータの整備とセットで取り組むことが不可欠である。また、通信ネットワーク環境については、学校の避難所としての防災機能の向上につながるものであることに留意が必要である。
(3) これらの整備においては、国と地方の連携の下、ランニングコストを含めた自治体や学校等の負担も念頭に置きつつ、自治体や学校等が計画的に取り組むインセンティブが働くような具体的な支援策を含めた取組が必要となる。具体的には、例えば、安価なICT環境整備に向け、複数自治体による広域調達やボリュームディスカウントによる調達コストの低減を図ることや、国が具体的な標準モデルを提示し、それに沿った、自治体が分かりやすい調達仕様書例を提供すること、自治体や学校の取組に温度差があるという指摘があることも踏まえ、ICT環境整備の自治体間比較や具体的な好事例の普及等を通じ、首長・教育長の理解が得られるように働きかけること、ICTや先端技術の効果的な活用により実現を目指す学びの姿について、それぞれの地域で理解を深めたり共有したりする機会を創出することなどが有効であると考えられる。
3.学校ICT環境整備と両輪となるソフト面での取組促進について
(1) 学校ICT環境と併せて、ICTを活用したデジタルならではの学びがより可能となる、デジタル教科書やAI技術を活用したドリル等のデジタル教材などのソフト面の整備や活用促進などの取組を進めていくべきである。
(2) 従来の習熟度別指導の考え方にとどまらず、個別に最適で効果的な学びや支援について、遠隔・オンライン教育の活用、デジタル教科書、AI技術を活用したドリル等のデジタル教材、センシング技術や学習ログの活用など、先端技術を活用する手法や効果、留意点などについて検討が必要である。特に、義務教育段階では、対面での教育を通じ、対話的な学びを通して自己の考えを広げ深めたり、コミュニケーション能力を養ったり、社会性等を身に付けさせたりすることこそ重要であり、様々な形での学びの機会を確保することの重要性にも留意しつつ、児童生徒同士、児童生徒と教師が顔を合わせ学級で共に学ぶことの意義について再確認すべきである。
(3) 遠隔・オンライン教育は、大学・企業との連携授業や多様な経験を有する社会人・専門家の活用、海外の学校との交流学習など学びの幅を広げることや、過疎地・離島等の小規模校の子供たちが多様な考えに触れる機会が充実するなど教育環境が飛躍的に向上すること、入院中の子供と教室をつないだ学びなど様々な事情により通学して教育を受けることが困難な子供たちや個別の学習支援が効果的な子供たちの学習機会を確保することなどに効果を発揮するものである。その存在が学校現場で当たり前のものとなり、希望する全ての学校が実施できるよう、様々な支援・助言が受けられる環境の整備や効果的な実践事例の創出・収集・共有など、必要な施策を実施していく必要がある。
(4) デジタル教科書、AI技術を活用したドリル等のデジタル教材など先端技術は、児童生徒の習得状況の把握に生かすことができる。また、先端技術の活用により、教科指導を基盤とし、学びの質を確保しつつ、知識及び技能の定着に係る授業時間などの学習時間を短縮し、各教科の学習やSTEAM教育等の教科等横断的な学習において知識及び技能を活用して課題を解決する探究的な学習等により多くの時間をかけることができると考えられる。デジタル教材・MOOCなどの良質な学習リソースの開発とインターネットによる提供の促進、導入への支援を進めていく必要がある。その際、教師に負担がかからず、誰でも簡便に利用できることを念頭に、基礎的・基本的な知識・技能の定着を図るための個人学習向けの教材・支援ツールや思考力、判断力、表現力等の育成に資する教材・支援ツールの開発などが期待される。
(5) 統合型校務支援システムは、児童生徒理解に基づく指導や支援の充実やICT化による校務の効率化に資するものである。都道府県単位での共同調達・共同運用など更なる導入促進を図るとともに、個別の学習計画等の充実や学校現場で用いられる帳票等の標準化、学校が保有する情報のデジタル化の推進と学校や教育委員会で活用などを進めるべきである。
(6) このほか、教師の指導や児童生徒の学びを支援する観点からの学習ログの活用等に関するガイドライン等の整備、学習指導要領への対応付けなど学習プロセスの見える化や学習リソース間のデータ互換のためのデータ規格の標準化、学習調査・診断等のICT技術活用の促進などについて、取組を進めていく必要がある。
4.教師の資質・能力の向上と専門的人材の確保等による指導体制の充実について
(1) ICT環境や先端技術の活用が進む中、教師が日常のツールとしてICTやデータを効果的に活用できるためには、教員養成・研修の充実を図り、教師の資質・能力として、児童生徒の本質を理解した上で、ICT活用指導力や一人一人の能力・適性等に応じた学びを支援する力などの教師の資質・能力の向上を図る機会の確保が必要となる。国は、自治体レベル、学校レベルでそのような取組が充実して行われるよう、独立行政法人教職員支援機構等とも連携を図りながら取り組む必要がある。
(2) また、教師の資質・能力の向上と併せて、ICT活用教育アドバイザーの活用やICT支援員の配置、ICTに係るスキルや知見を有する企業等の人材の活用促進など学校や教育委員会における専門的人材を確保し、民間企業等と自治体・学校の連携により、学校教育への参画の促進を図る仕組みや環境を整え、指導体制の充実を図っていくことが必要である。
5.今後の検討事項について
(1) 今後、学校ICT環境や先端技術の導入が進み、学びの在り方が変わっていく中で、教師の在り方や果たすべき役割、教員養成・免許・採用・研修・勤務環境・人事計画等や多様な外部人材の活用、外部の専門機関等との連携等はどうあるべきと考えられるか、検討が必要である。
(2) また、個別に最適で効果的な学びや支援を進めることによって学年を超えた学びを行うことについてどう考えるか、検討が必要である。
(3) さらに、児童生徒1人1台環境の実現に向けた整備促進と併せて、デジタル教科書の今後の活用方法や制度の在り方等について、その効果・影響の検証を行いつつ、検討が必要である。
⇒教師の在り方や果たすべき役割、教員養成・免許・採用・研修・勤務環境・人事計画等の在り方については教員養成部会、先端技術の活用等を踏まえた年間授業時数や標準的な授業時間等の在り方、個別に最適で効果的な学びやその支援の在り方については教育課程部会、デジタル教科書の在り方については今後立ち上がる有識者会議においてそれぞれ検討を行い、特別部会に報告する。特別部会において、その他の検討事項について検討を行うとともに、各部会等の検討結果とあわせて取りまとめを行う。