【特別インタビュー】教員の新たな働き方の創造を答申から読み解く 小川正人(放送大学教授・中央教育審議会働き方改革特別部会長)

各種答申・報告・調査

2019.03.22

これからを見据えた働き方改革 ■答申・ガイドラインへの意見・批判に対して

小川正人氏2

―答申・ガイドラインへの反響は。
 今回の答申については、マスコミや教育関係者をはじめ、様々な批判もありますが、この答申の意図やねらいを正確にしっかりと読み取ってほしいと思っています。
 例えば、勤務時間の上限を守ることは無理であり「持ち帰り残業」が増えるだけだ、教員の大幅増員についてなぜもっと強く提言しないのかという意見があります。
 もちろん、教員の大幅増員で授業持ち時間の軽減など本来業務の負担軽減を図ることは望ましいし私も(恐らく文科省も)強く期待しています。しかし、国や自治体の厳しい財政事情に加え、財務省の業務の見直し・軽減の取組を先行すべきとの強い姿勢もあり、すぐに教員の大幅増員を実現することは難しい状況にあります。
 官邸が最重要課題と位置付けている幼児教育と高等教育の無償化に優先的に多額の財源を配分している中で、文科省には、必要な教職員増を訴えながら、まずは教員の業務の仕分け・軽減を先行して進めつつ、勤務時間管理をしっかり行い、客観的なデータに基づいて教職員の計画的な増員を図ることを戦略として取り組んでいってほしいと期待しています。
―時間管理だけでは実態は変わらないとの声も。
 「在校時間」で勤務時間管理をしても、時間外勤務に対しての金銭的措置がないので、いわゆる「ただ働き」の実態は変わらない、教職調整額の増額を図るべきとの声もあります。
 例えば、ガイドラインに即して上限の時間外勤務45時間まで軽減されたとしても、金銭的に措置されるのは月8時間分の教職調整額のみで、残りの時間外勤務37時間分は「ただ働き」の勤務として残ることになります。しかし、それでも、これまで、「教員の自発的行為」として「隠されてきた」時間外勤務が可視化され、「勤務時間」と認定されることになるのは一歩前進といえるでしょう。
 時間外勤務が可視化され客観的データとして公になることで、今後、時間外勤務がどのような取組でどの程度削減されたのか、あるいは削減されなかったのかなどを検証し、教育政策のPDCAサイクルに乗せて教職員定数の改善や授業持ち時間数の軽減等の取組に活用されていくことになりますし、長時間の時間外勤務を行ってもそれが「自発的行為」とされることで、これまでなかなか認定されることが難しかった公務災害も認定されやすくなります。
 業務の仕分け・軽減を図りながら客観的な勤務実態を可視化することにより、それが、今後、教職調整額の増額の根拠となり増額要求が検討されていく可能性がありますし、教職調整額の増額などが図れない場合には、振替休暇などの新しい選択肢が検討されていく可能性も考えられます。


―変形労働制は学校の実態に合うのか。
 当然、1年単位変形労働時間制は、今の学校現場の実態から無理ではないかとの批判もあります。
 もちろん、1年単位変形労働時間制で教師の長時間勤務が解消されるわけではありません。あくまで時間外勤務を「ただ働き」として放置しないための方策の一つです。今のままでは、時間外勤務は何の措置もされません。
 そこで、同じ時間外勤務をするのであれば、その一部を正規の勤務時間として通常の勤務時間に組み入れて、その組み入れた勤務時間を夏などの長期休業期間にまとめて振替休暇として取得できるようにして、1年間の総勤務時間をフレックスに調整していこうというのが変形労働時間制の考えです。
 この制度を導入する前提として、長時間勤務を大幅に削減することと夏などの長期休業期間の業務(部活や研修等)の大胆な見直し・削減は不可欠です。

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