移行期の研究課題と研修方法の工夫・改善 村川雅弘(甲南女子大学教授)
トピック教育課題
2019.05.28
アクティブ・ラーニング的な研修を
新学習指導要領が告示され、各教科等の解説書も作成され、改訂の全貌が具体的な姿を現した。確かに、「社会に開かれた教育課程」「資質・能力の育成」「アクティブ・ラーニング」「カリキュラム・マネジメント」等、新たな言葉が飛び交ってはいるが、実のところはこれまで大事にされ実践されてきたことが明文化されたと言える。4つのキーワードはいずれも総合的な学習の時間においてはこれまで重視され実践されてきたことであり、また、筆者はこれまで多くの素晴らしい授業や学校に出会ってきたが、突き詰めればよい授業は主体的・対話的で深い学びであり、短期間で学力向上や生徒指導改善を成し遂げてきた学校にはカリキュラム・マネジメントが根付いていたと実感する(1)。
教職員一人一人が学習指導要領改訂の趣旨を理解した上で、自分の意思でオールを握り、教育改革の潮流の中に息を合わせて漕ぎだすためには、その実現に向けての研修が必要となる。まず、改訂の趣旨を十分に理解する研修が不可欠であるが、学習指導要領には改訂の背景や考え方は書かれていない。昨年12月21日の中教審答申を読み解く必要がある。各自興味ある個所を手分けして読み解き教え合うのも一手である。
中教審答申では研修に関して、「『教員は学校で育つ』ものであることから、日常的に学び合う校内研修の充実等を支援する方策を講じることとし、『アクティブ・ラーニング』の視点からの授業改善や外国語教育等の新たな教育課題に対応した教員研修・養成も充実していくこととしている」(p.64)、「教員研修自体の在り方を、『アクティブ・ラーニング』の視点で見直す」(p.66)と述べている。授業の質的改善に向けアクティブ・ラーニングの導入が重要であるように、教員研修においてもアクティブ・ラーニング的な研修、つまりこれまで筆者が提唱してきたワークショップ型研修が重要な役割を担ってくる。昨年度の本シリーズの連載や関連書(2)に改めて目を通していただくことをお勧めする。
全国の学校現場を廻っていて、「アクティブな研修を行っている学校はアクティブ・ラーニングが定着している」というのが実感である。学校が抱える様々な課題の明確化やその解決に向けて、まさしく主体的・協働的に問題解決を図りつつ、互いに力量を高め合っている。
図1の「学習ピラミッド」は世界的に有名な図であるが、聴いたり読んだりする活動よりも協議したり人に伝えたりする活動の方が学習の定着度が高いというものである。教員研修にも通ずる。
教育センター等での集合研修でも時折、「私の講義を一方的に聴いているだけでは、この会場を出たら95パーセントは忘れる。では、どうすれば研修の定着率が高まるか」と問う。ペアやチームで話し合わせる。「学校に戻って同僚に伝える」「帰り道に他の受講生と研修内容を話しながら帰る」という反応に対し、「この研修で学んだことを同僚に言葉で伝えるだけでなく、自校の実態に合わせて校内研修を計画し実施することが大切」とコメントする。集合研修においてもワークショップを行うことが多い。ワークショップで体験したことをそのまま自校の研修で実施できるからである。
ワークショップ型研修は、まさしく「主体的な学び」と「対話的な学び」を通して「深い学び」を実現していくアクティブ・ラーニングである。教員一人一人が解決すべき課題に主体的に向き合い、同僚や参加者との協議を通してよりよい解決策を見いだす。校内の様々な課題に対する具体的な問題解決において、教職員一人一人の潜在力を引き出し生かし合うことにより、互いの実践力が高まり、学校内に学び合いの文化が醸成される。また、お互いが信頼し合い尊重し合う関係が築かれていく。その結果として、組織としての「学校力」、個人としての「教師力」が高められる。
主体的・対話的で深い学びの授業づくりワークショップ
今夏、各地の教育センターや免許更新講習、校内研修で新しく取り入れてみた研修は「主体的・対話的で深い学びの授業づくりワークショップ」である。写真1は岡山県真庭市立遷喬小学校の5月の校内研修での成果物である。その後、各地の研修でこのワークショップのゴールイメージを伝えるために活用させていただいている。
手法は「マトリクス法」(2)である。横軸を「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」とした。3つの学びは関連し合っているが敢えて分けて考えることにした。縦軸は「それぞれの学びにおいてみられる、あるいは期待される子どもの姿」と「そのような姿を引き出すための教師の手立て(環境設定も含む)」とした。幼稚園や保育所・保育園、認定こども園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の30代、40代、50代の教員が混在する免許更新講習において、参加者が意欲的にワークショップに取り組み、満足のいく成果物が出来上がっていることから、どの校種においても有効な方法と考える。
写真のように具体的な「子どもの姿」を引き出すための具体的な「教師の手立て」を考えることに加えて、「主体的な学び」と「対話的な学び」と「深い学び」を関連付けることを奨励している。手立ても同様である。例えば、授業レベルで考えれば、「ペアやグループでの活動の際に各々が思いや意見を積極的に述べる」(対話的な学びの姿)ためには「学習課題とその解決のためにこれからするべきことを理解している」「わからないなりに少しでも考えようとする」「考えたことを片言の言葉でも絵でもいいから少しでも形に残そうとする」(主体的な学びの姿)が前提となる。「各々が自分なりの思いや考えを持って話し合いに臨むことにより(主体的な学び)、他者と比べたり関連づけたりでき(対話的な学び)、何が不十分だったのか、今日の授業で出てきたどの用語を使うと便利なのかに気付く(深い学び)」、そのためには、「学ぶことの意味を実感したり興味関心を引く教材や発問の工夫」(主体的な学びの手立て)や「間違うことを恐れない、不確かな意見を受け入れ合う、仲間づくりや雰囲気づくりを学校全体で進める」(対話的な学びの手立て)といった具合に関係的に捉えていくことを求めている。
学年や教科等にとらわれずに教科横断的に「主体的・対話的で深い学び」の授業づくりを考えていってもよいし、近日中に実施予定の教科や道徳、総合的な学習の単元に絞ってより具体的に子どもの姿や教師の手立てを考えてもよいだろう。
この研修をきっかけに「主体的・対話的で深い学び」が他教科ではどのように展開されているかを見合いたい。教材や学習方法の工夫の仕方を学び合うだけに留まらず、学習内容についても知り得ることとなるので、他教科の学習内容との関連付けを日常的に進めていくことが可能となる。実際、日常的に授業公開を行っていた岩手県立盛岡第三高等学校では、筆者が参観した授業の中で、教員が他教科の内容と関連付けて説明を行っていた(1)。
カリキュラム・マネジメントを理解するワークショップ
「カリキュラム・マネジメント」は比較的新しい言葉であるが、その意味するところはこれまで学校現場において実践されてきたことに他ならない。中教審答申で示された3側面に関しても同様である。
カリキュラム・マネジメントに関する独立行政法人教職員支援機構や各地の教育センターにおいて、研修で学んだことを同僚に還元するための研修として提案してきたのは、生活科や総合的な学習の年間指導計画の夏の中間見直しや年度末の見直しである。
手法は「指導案拡大シート」(2)の応用である。指導案の代わりに年間指導計画を模造紙サイズやA3に拡大したものを用意する。それ以外に付せんを4色(水色、黄色、桃色、緑色。50×75または75×75。写真2は50×75を使用している)用意する。
年間指導計画の見直し・改善で一般的に行っているのは、まさにワークショップ型授業研究における「指導案拡大シート」の応用版で、付せんの使い分けは、一年間取り組んできた経験を踏まえて、「よかったので来年も続けるべき」(水色)、「うまくいかなかったので止めた方がいい。改善の余地がある」(黄色)、「今年はできなかったけど来年はこうすればいいのでは」(桃色)である。3色の付箋に実践を踏まえての気づきやコメントを書き、該当箇所に貼っていくのである。そして、その成果物を次年度の該当学年の教員へバトンのように手渡す。改善案の作成自体は次年度の教員に委ねる。子どもや地域の実態や特性を踏まえて継承しつつも形骸化しないために有効な方法である。
カリキュラム・マネジメントの理解につなげるための研修としては、総合的な学習の年間指導計画の見直し・改善を全教員で行う。付せんの使い分けを以下のようにする。
- ① 「探究的な学習過程」の視点からの見直し(水色)、例えば、「集めた情報の整理・分析を行う場合に適切な思考ツールを活用する」など
- ② 「言語活動の充実や主体的・対話的で深い学び」の視点からの見直し(黄色)、例えば、「子供たちが協議した結果を教師がまとめないで子供に任せる」など
- ③ 「各教科、道徳、外国語活動、特別活動との関連」の視点からの見直し(桃色)、例えば、「子供たちが行ったアンケートのデータ整理の時に算数で学んだグラフの中から適切なものを選ばせる」など
- ④ 「家庭や地域との連携・協力、社会貢献」の視点からの見直し(緑色)、例えば、「学習成果をまとめただけで終わらせるのではなく、地域や他の人に役立てられないかを考えさせる」など
②は今次改訂のポイントの一つである主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善に向けた見直しであり、③は3つの側面のⅰの教科等横断的な視点からの見直しであり、④は3つの側面のⅲの地域等の外部資源の活用の視点からの見直しである。そして、このワークショップ自体が3つの側面のⅱの教育課程の設計・実施・評価・改善のPDCAサイクルを体験することに他ならない。夏休みや年度末等に、総合的な学習の時間の年間指導計画の見直し・改善のワークショップを行った後で、カリキュラム・マネジメントの3側面との関連を種明かしする。
カリキュラム・マネジメントの3つの側面の特にⅰの教科等横断的な視点からの年間指導計画の見直しとしては「総合的な学習と教科等との関連ワークショップ」を勧めている。総合的な学習の時間の年間指導計画以外に各教科等の教科書も用意する。内容面(例えば、「雨水の行方と地面の様子」(理科4年)や「栄養を考えた食事」(家庭科))と技能面(例えば、「円グラフや帯グラフの活用」(算数5年)や「地図や資料の活用」(社会科3年))とで付せんの色を変えて、記述し関連箇所に貼っていくのである。特に、教科担任制の中学校や高等学校において有効である。自分の専門教科と総合的な学習との関連だけでなく、他の教科との関連を理解することにつながり、教科指導の中で他教科との関連を具体的に伝えることができる。
[引用文献]
(1) 村川雅弘・田村知子・野口徹・西留安雄編著『「カリマネ」で学校はここまで変わる!』ぎょうせい、2013年
(2) 村川雅弘著『ワークショップ型教員研修 はじめの一歩』(教育開発研究所、2016年)、村川雅弘編著『実践!アクティブ・ラーニング研修』(ぎょうせい、2016年)など。
甲南女子大学教授
村川雅弘
Profile
むらかわ・まさひろ 鳴門教育大学大学院教授を経て、 2017年4月より甲南女子大学教授。中央教育審議会中学校部会及び生活総合部会委員。著書は、『「カリマネ」で学校はここまで変わる!』(ぎょうせい)、『ワークショップ型教員研修 はじめの一歩』(教育開発研究所)など。