キーワードで読み解くVUCA時代のリーダーとは [最終回] 鼎談 価値観の変化と人間理解の在り方」
『ライブラリ』シリーズ/特集ダイジェスト
2022.06.08
リーダーの人間理解の在り方
君島:お客様に対してだけでなく、同じ組織の中でも相互理解には共感が必要そうだ。リーダーとして組織を率いていく人にはどんな力が必要だろうか。
難波:リーダーの方たちもまずは足元を見つめて、自分たちの組織文化、何を大事にして何をしようとしているのかを確認し、それを組織の皆さんで共感することが大事だと思う。組織内でのビジョンや方向性がバラバラな状況では、組織外の相手と共感し合うのはとても難しい。
君島:会社の理念やビジョンがいかに社員一人一人に根付いているかを確かめ直さなくてはいけない。
江上:リーダーに求められるものとして、「話す力」や「伝える力」が強調されやすいが、それだけではなく「聴く力」がとても大切だと思う。自分と異なる価値観に触れた時に、自分の枠組みをいったん外して受け取ることができるか。自分の枠組みを外すというのは、自分自身の変化を受け入れることでもある。もし絶対に変わらないと思われていたリーダーが自分自身で変わることができたら、それを見た周囲の人は「人は変われる」と信じることができる。これが連鎖していくと「絶対変わらないと思っていた組織も変われるかもしれない」という認識が生まれる。自分で自分を変えていく力を持った人たちが、「人は、組織は、変われる」という価値観を連鎖させていく。リーダーたる人には「聴く力」を持って、変化を連鎖させる起点になってもらいたい。
目的との対話から信頼関係を築く これからのリーダーへのメッセージ
君島:最後に、これからリーダーになっていく若い方々へのメッセージをお願いしたい。
難波:これからマネージャー、リーダーになっていく方たちには、管理することではなく、自分と一緒に働く人たちを信頼することが大事だと思う。リーダーシップが取れるということは、信じてあげられるということであり、信頼のためのコミュニケーションが必要。信頼感をどうやって醸成していけるか、一緒に働く仲間をどう信じられるかを、これからリーダーになっていく方たちには、考えていただきたい。
江上:「どうしたら人生の目的が見つかりますか」という相談をよく受けるので、「人生の目的は探していても見つからないよ」と伝えている。「人生の目的をあなたが見つける」のではなく、「人生の目的があなたを見つける」のだと考えている。詩人のパーカー・J・パーマーは、「長い間私は自分がこう生きたいと思って人生を過ごしてきた。でも、ある時、自分を通して実現されるべき人生を生きればいいんだと発見した」と言っている。人生の目的や組織の存在目的につき従って、自分という器をどう生きていくかという問いを持っていると、一歩立ち止まって周りに耳を傾け、対話し、共感する行動につながると思う。
君島:信頼のためのコミュニケーションを模索しつつ、自分で探すだけでなく人生の目的が語ってくれる言葉にも耳を傾けていこう。最終回として、価値観という大きなテーマにふさわしい大きな投げかけをいただいた。変化の時代を歩むにあたり、示唆の一つとなれば幸いだ。
〔構成/株式会社グロービス ディレクター 許勢仁美(こせ・めぐみ)〕
Profile
君島 朋子 きみじま・ともこ
国際基督教大学教養学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了、法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、グロービス ファカルティ本部にて研究開発とファカルティ・ディベロップメントを統括。キャリアデザイン学会会員。株式会社ラポールヘア・グループ社外取締役。
江上 広行 えがみ・ひろゆき
地方銀行、システム開発会社を経て2018年9月株式会社URUUを設立。2015年よりグロービス経営大学院教員。著書に『対話する銀行』(金融財政事情研究会、2017年)、『誇りある金融』(近代セールス社、共著、2020年)『金融機関のしなやかな変革』(金融財政事情研究会、共著、2020年)などがある。
難波 美帆 なんば・みほ
大学卒業後、講談社に入社し文芸局で小説の編集者を務める。その後フリーランスとなり、主に科学・医療分野の編集・記事執筆を行う。2005年より北海道大学、早稲田大学で、新規カリキュラムや教育組織の開発・マネジメントを担当。2016年よりグロービス。科学技術コミュニケーション、イノベーション創発のデザインを研究・実践している。