キーワードで読み解くVUCA時代のリーダーとは [第5回] 鼎談 「エンゲージメント、行動意欲を高める人と組織との関係」
『ライブラリ』シリーズ/特集ダイジェスト
2022.04.13
エンゲージメントの高い組織をつくる、リーダーの役割
林:先ほどのコーン・フェリーの調査において、エンゲージメントと相関の高い項目・低い項目が明らかになっている(図表1・2)。相関が高い項目において注目すべきは1位で、自社が社会や顧客に対して価値あるものを提供できているかに誇りが持てるかどうかが強く関係している。2位や3位は1位を実現する環境・体制が整っているという関係性になっている。
一方、相関が低い項目においては、労働条件面が上位に挙がっている。「福利厚生の充実や研修参加の促進でエンゲージメントが上がるはず」といった誤解があるかもしれないが、そうではない。アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグが、社員のモチベーションについて動機づけ・衛生要因理論を提唱している通り、満足に関わる要因(動機付け要因)と不満足に関わる要因(衛生要因)は別のものである。人間が不満足を感じやすいのは衛生要因といって、体の外側の問題。福利厚生や研修も衛生要因にあたる。改善したほうがいいが、満足につながるわけではない。エンゲージメントを高めたい場合には、いかに体の内側(心)に働きかけていくかが重要になる。
君島:では、エンゲージメントを上げて、かつ、それによって効果を生んでいくために、これからのリーダーにはどんな力が求められるか。
福田:エンゲージメントを高めるうえで期待されているリーダー行動と、従来のリーダー行動とに差がある。この差をどう埋めていくか、1つキーワードを挙げると「時間軸」だ。従来は1年以下の短期的な目標を決めて、それをやり切ることを繰り返してきたが、それではエンゲージメントは高まらない。長期的に何を目指したいかという目標を、より日々の活動のなかで意識づける、意味づけることがカギになる。これを実現するために、リーダーには、自信、信頼できる言動が必要になる。
自信は自己肯定感と置き換えてもよい。困難で長期的な課題に向き合うとうまくいかないことが多いが、自分たちは顧客に対して、あるいはステークホルダーに対して意味のある活動をしているのだと自分の言葉で伝えていくことが重要だ。
また、これまでの組織はリーダーが答えを知っていることが前提だったが、これからはリーダーにも正解がわからない。リーダー自身が「わからない」ことをさらけ出して、自分も学んでいく、努力する、正しい行動をとり続ける。人として信頼できる言動が、よりリーダーの強さの源泉になっていくのではないか。
林:ADPリサーチ・インスティテュートによる調査結果「エンゲージメントが高いチームは他と何が違うのか」が興味深い。明らかになった重要な要素は「『チームの一員である』と思えるかどうか」。「チームの一員であり、リーダーを深く信頼できている」グループではメンバーの約45%が高エンゲージメントだった。「チームの一員であると感じる」グループでは17%、「チームの一員でないと感じる」チームでは8%しか高エンゲージメントのメンバーがいないことがわかった。よって、メンバーの一員として認め、「リーダーが気にかけている」と認識させることが、高エンゲージメントチームにつながっていくのではないか。リモートワークも増えてきた中でチームの一体感をつくるのは難しいかもしれないが、だからこそリーダーが意識的に取り組むことに意義がある。例えば、オンラインでも定期的に面談をする。短い時間でも対話をして、一人一人のことを気にかけて、「チームの一員だと認めている」ことを伝えていく。オンライン・ミーティングでも、冒頭5分10分は必ず全員で雑談をして親睦を深めるといった工夫がチームの一体感をつくっていくだろう。
君島:かつては同質的な集団としてチームの一体感を作るのは難しくなかったかもしれない。現在は、多様な考えを持った人が多様な働き方でチームになっている。全員にチームの一員だと思ってもらうということは、ダイバーシティを認め合いインクルージョンしているという状態をつくるということだ。
これからのリーダーへのメッセージ
君島:最後に、これからリーダーになる若い方に対するアドバイスを伺いたい。
福田:難しいけれども時間をかければ高められる、そして重要なものという観点で2点お話ししたい。1つはセルフアウェアネス、自己認識という概念。自分自身が大事にしている価値観、好きなこと、嫌いなこと、感情の起伏に意識を向けて、自分に対する理解を深めること。加えて、「他者が自分をどう見ているか」「周囲は自分に何を期待しているのか」という、他者から見た自分を高めていくこと。
この2点はすぐには重ならないので対立が生じることもあるが、つなぎ合わせるうえで学習能力が重要になる。変化に俊敏に、素早く学んでいくということ。知らないこと、分からないことに対して興味を持ち続け、能動的に学んでいく姿勢を磨いて、「絶えず自分は変わることができる」という自信を育んでほしい。
林:これからは学校で学んでいることがそのままでは社会で通用しない時代になっていく。よって、どうやるかという技術論よりも、「何が大事だと思っているのか」「何を成し遂げたいと思っているのか」「なぜそれが大事だと思うのか」といった目的や理由について、自分自身に向き合って考えていく姿勢を持ち続けてほしい。時代が変わっても、変わらない価値を追求できる人になれると思う。
そして、すばらしいことをやればやろうと思うだけ、自分一人の力ではできない。それを謙虚に受け止めて、いろんな方に力を借りて、力をひとつに集めて新しい世の中をつくっていってほしい。
君島:年齢や経験を問わず、これからのリーダーは、自分は何をしたいか、何をすべきかを考えながら、謙虚に学ぶ姿勢を持っておきたい。
〔構成/株式会社グロービス ディレクター 許勢仁美(こせ・めぐみ)〕
Profile
君島 朋子 きみじま・ともこ
国際基督教大学教養学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了、法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、グロービス ファカルティ本部にて研究開発とファカルティ・ディベロップメントを統括。キャリアデザイン学会会員。株式会社ラポールヘア・グループ社外取締役。
林 恭子 はやし・きょうこ
筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士課程前期修了(MBA)。米系電子機器メーカーのモトローラ、ボストン・コンサルティング・グループを経て、グロービスでは人材・組織に関わる研究や教育プログラムの開発、経営管理全般を統括。企業研修、講演なども多数務める。経済同友会会員。組織学会、産業・組織心理学会、経営行動科学学会員。
福田 亮 ふくだ・あきら
慶応義塾大学経済学部卒業、コロンビア大学CSEP修了。大手総合化学会社での機能性素材の開発営業、クライアント企業との東南アジアにおける合弁事業の設立、新興企業の経営支援・人材育成に携わる会社設立・立ち上げに従事。グロービスでは法人部門において、人材育成に関するコンサルティング、講師などに携わる。