キーワードで読み解くVUCA時代のリーダーとは [第5回] 鼎談 「エンゲージメント、行動意欲を高める人と組織との関係」

『ライブラリ』シリーズ/特集ダイジェスト

2022.04.13

Volatility Uncertainty キーワードで読み解くVUCA時代のリーダーとは
[第5回] 鼎談 「エンゲージメント、行動意欲を高める人と組織との関係」

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.5 2022年1月

VUCAの時代と呼ばれて久しい。変化が速くて不確実で、複雑で曖昧な時代。将来の予測が困難な時代。そうした時代に、ビジネスパーソン、さらにいえばビジネスリーダーは、どう変わっていく必要があるのか。グロービス経営大学院の教員陣による対談形式で答えを探る連載、第5回ではエンゲージメントについて考えを深めていきたい。

株式会社グロービスマネジング・ディレクター 君島朋子
グロービス経営大学院 教員 林 恭子
株式会社グロービス ディレクター 福田 亮

エンゲージメントの定義

君島:今回は「エンゲージメント」という言葉を通じて、人と組織との関わり方の変化を考えていきたい。まず、エンゲージメントという言葉の意味から確認したい。

林:エンゲージメントとよく混同される言葉に「従業員満足度」がある。満足度は、何かを施す側と施される側、つまり会社と社員という関係において、施される側が与えられている条件に満足しているかを測るものだ。一方、エンゲージメントは、例えば「婚約」を「エンゲージメント」と言うように、対等なパートナーが一緒に努力をして前に進んでいくことだ。

 ウイリス・タワーズワトソンという人材マネジメント会社は、従業員エンゲージメントを「会社・組織が成功するために、従業員が自らの力を発揮しようとする状態が存在していること」と定義している。この状態をつくるには、3つの要素が必要で、重なるところにエンゲージメントがある。1つ目が「理解」、組織がどういう未来に向けて進もうとしているのかを具体的に理解できていること。2つ目が「共感」、組織に対して愛着や誇りを持ち、目指している未来に共感していること。3つ目が一番のカギとなる「行動意欲」、目指す方向に対して自ら進んで「こうしたい」という意欲があること。

君島:従業員満足度は、会社と従業員とに、与える・与えられる関係があるが、エンゲージメントは対等な関係にある。さらに、理解して共感するだけでなく行動意欲を持っている状態という点で、満足度とは大きく異なる概念だとわかった。

注目されるようになった背景

君島:エンゲージメントは近年なぜ注目されているのか。

福田:エンゲージメントが注目される要因としては、直近の若手社員の離職問題が挙げられることが多いが、より長期的に重要な観点があると考えている。

 1つは経営の健全性を示す先行指標としての役割。企業は従来のように顧客を満足させて売上・利益を追求するだけでなく、社会の課題解決に貢献することが求められている。企業経営そのものが財務的な効果性だけではなく、長期的に正しい経営を行っているかにも目を向ける必要がある。その指標として、従業員が仕事に意味を感じて意欲的に取り組んでいるかどうかを把握しておく重要性が高まっている。

 もう1つは世代交代。2025年に労働人口の過半数を80年代以降生まれの世代が占めると言われている。このY世代以降の社員は、これまで企業を担っていた世代と労働観や人生観が異なる。従業員の新しいニーズに応えるということは、短期的な離職対策としても、長期的な優秀人材の確保策としても、重要性が高まっている。

林:昨今、人を人的「資源」ではなく人的「資本」と捉えて、いかに人に投資してより価値を生み出すかが重要だと言われている。財務的な指標にとどまらず、非財務的な状態をステークホルダーに開示していく動きが起こっており、その1つのモニタリング指標としてエンゲージメントが注目されている。

林:関連してコーン・フェリーという組織コンサルティングファームによる日本企業へのエンゲージメント調査の結果を紹介したい。残念ながら、日本企業は従業員のエンゲージメントが国際的に比較してかなり低い。一方、勤続意欲、つまり辞めずに勤め続けるという要望は非常に高いということがわかっている。エンゲージメントへの注目は、変化の時代に行動意欲の低い社員が勤め続けることに対する問題意識の高まりとも言える。

エンゲージメントが高いことによる効果

君島:では、エンゲージメントが高いとどんな効果が期待できるのか。

福田:イノベーション、変化適応、この2つに対しての効果がある。変化が速いとき、あるいは今までにないようなものにチャレンジする、生み出すという状況においても、一人一人が活力を持って、その仕事に集中・没頭して、「もっと貢献したい」という意欲が高い状態であれば、目の前の仕事の生産性を上げると同時に、長期的な変化を促すことができる。

林:先日、米国の起業家育成に特化したバブソン大学の教授から「ベンチャー企業では、エンゲージメントが話題になったことがない」と聞いた。その理由は、ベンチャー企業のメンバーは、本当にやりたいことをこれからつくっていくというところを意気に感じており、そもそもエンゲージメントが高いから。危機の状況になればなるほど「この危機の状況をなんとかしたい、身を挺してがんばりたい」という気持ちが出てくるというのも、エンゲージメントが高い人たちの特徴だそうだ。

君島:エンゲージメントが高い組織というのは、成長中のベンチャー企業のように、従業員が会社のミッションのために、一緒にがんばってくれる状態になっていると。

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE

特集:2022年 最強の学校組織をつくろう

最新号

新教育ライブラリ Premier IIVol.5

2022/1 発売

ご購入はこちら

すぐに役立つコンテンツが満載!

ライブラリ・シリーズの次回配本など
いち早く情報をキャッチ!

無料のメルマガ会員募集中

関連記事

すぐに役立つコンテンツが満載!

ライブラリ・シリーズの次回配本など
いち早く情報をキャッチ!

無料のメルマガ会員募集中