キーワードで読み解くVUCA時代のリーダーとは [第1回]鼎談「変化を知り、自分ごとにする」
『ライブラリ』シリーズ/特集ダイジェスト
2021.09.06
時代が変わっても変わらないもの、時代の変化に合わせて柔軟に変えていくべきもの
君島:まず、もっと必要になっていくと思われるものからひとつ挙げると、課題設定力だ。機械にできないイシューを設定する力。イシュー=「いま解決すべき課題は何か」「いま、どの課題に向かってみんながチャレンジすべきなのか、取り組むべきなのか」ということを設定する力。人とだけではなく、機械と働くことが日常的になると考えると、リーダーは人にも機械にも適切な業務を与え、成果を出してもらわなければならない。昔からリーダーとして必要だった、論理立てて物事を考えて整理する力、さらにいえば、機械が迷わないように論理的な指示に落とし込む力がより求められる。
西:やるべきことは大きくは変わらないが、やり方は大きく変わるだろう。特に、人々の共感をつくることに対するリーダーの役割が大きくなっている。働く人自身が、働く場所や一緒に働くリーダーを選ぶ時代になっている。多様な人に対して、多様なテーマについて、自分のストーリーとして語り共感をつくるのは、より難しくなっている。それができるリーダーに、人や投資が集まってくるように感じている。
嶋田:ヒューマンスキル、あるいは人間力とでもいうのか、「この人の言うことだったら、とりあえずついて行っても大丈夫」と思えるぐらいの、その人の自己鍛錬の度合いといったものがますます重要になってくる。
西:働くモチベーションが「お金のために」ではなく、自己実現になってくるとよりその傾向が強くなる。
君島:一方、変えていくべきことのひとつは、多様性を前提にしたコミュニケーション。「同じ体験がある」とか「同じ世代として同じ背景を共有している」という前提は、もう成り立たない。全く価値観の異なる人たちを相手に通じる話をしなくてはいけない。日本の組織が同質的な人によって構成され、同質的な人を前提に発信してきたところから、大きく変化を求められるだろう。
西:変えるべきは、リーダーとしての意識。これまでは、経営者が最終責任を負っていて、管理職でも“ついていく”意識があった。部長も、課長も「役割を与えられているからやっています」という意識で、目標も上から自動的に落ちてくる、それでいい時代が長かった。いまは、部長であっても「自分が経営者である」という意識で働いていくことが大事になってきていて、人事制度も変わってきている。「権限は与えます。でも、結果をちゃんと出してほしい」と。自分なりの意思とプランがあれば、必要な資源、人やお金を使っていいと。逆にプランがない人には人もお金もついてこない。役職問わず、経営者のつもりで仕事をする人が社会でより求められていく。
嶋田:すべての人が、よりリーダー的な視点、オーナーシップを持つ必要がある。これまでマネージャーや管理職の仕事の中には、単純作業の監督もあったが、機械に代替されていく。これからは、企画力、それまでなかった物事を生み出す力、差異から富を生み出す力、大量の情報に意味づけをする力といったものが、仕事の本質になっていくのではないか。
君島:西さんがおっしゃる「みんな経営者」ということに通じるかもしれないが、一人ひとりが自分のアイデアを考えて表明する、それを実現していくという姿勢が求められる。今までも必要だったが、組織の中では常に歓迎されてきたわけではなかった。これからは、世界が高速で変わっていく中で、新しい多様なアイデアがないと、価値を提供し続けることができなくなってしまう。世の中の変化にキャッチアップできるだけ、できれば少し先取りする形で、様々なアイデアが組織の中で出てこないといけない。
嶋田:言われたからやるのではなく、「やりたいからやる」「やるべきだからやる」という発想を、組織のトップリーダーだけではなく、層の厚いミドルリーダーも持っている組織は強い。
西:起業家は自分のやりたいことを強烈に思って形にしていく。これからは、ビジネスパーソンでも「自分のやりたいことって本当は何だろう」「自分が成し遂げたいことは何だろう」という考えがあったうえで、「それがこの組織でできるなら、自分はここで働きたい」と発想する人が増えてくると思う。自分の意思を持った人材を育てるという意味では、現在の日本の教育では難しいところも多いが、ここにチャレンジできる組織はもっと強くなれるのでは。
嶋田:我々グロービスでは「志のMBA」という表現を用いるように、一人ひとりの「志」に重きを置いている。先行き不透明な時代だからこそ、年齢や役職問わず、一人ひとりがリーダーとして「世の中をこう変えたい」という思いを高く掲げることが重要ではないか。それがあるからこそ、「人がついてくる」「共感してくれる」につながるのではないか。
VUCA時代のリーダーシップ、次回以降は5つのトレンド・テーマについて、順に議論を深めていく。読者の皆さんにも、ぜひ「自分ごと」として考えていただくことを期待したい。
〔構成/株式会社グロービス ディレクター 許勢仁美(こせ・めぐみ)〕
【連載第2回】テクノロジー
【連載第3回】地政学
【連載第4回】SDGs
【連載第5回】エンゲージメント(組織と人との関係)
【連載第6回】価値観・人間理解
Profile
嶋田 毅 しまだ・つよし
東京大学理学部卒業、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。著書に『KPI大全』『MBA100の基本』他多数。ナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」や定額制動画学習サービス「グロービス学び放題」へのコンテンツ提供・監修も行っている。
君島 朋子 きみじま・ともこ
国際基督教大学教養学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了、法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、グロービス ファカルティ本部にて研究開発とファカルティ・ディベロップメントを統括。キャリアデザイン学会会員。株式会社ラポールヘア・グループ社外取締役。
西 恵一郎 にし・けいいちろう
早稲田大学卒業。INSEADIEP修了。三菱商事株式会社に入社し、不動産証券化、物流網構築、商業施設開発のプロマネ業務に従事。グロービスの企業研修部門にて組織開発、人材育成を統括。アクションラーニングを担当。経済同友会の中国委員会副委員長(2018〜2020年)。