キーワードで読み解くVUCA時代のリーダーとは [第1回]鼎談「変化を知り、自分ごとにする」

『ライブラリ』シリーズ/特集ダイジェスト

2021.09.06

Volatility Uncertainty キーワードで読み解くVUCA時代のリーダーとは
[第1回] 鼎談「変化を知り、自分ごとにする」

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.1 2021年4月

VUCAの時代と呼ばれて久しい。変化が速くて不確実で、複雑で曖昧な時代。将来の予測が困難な時代。そういった時代に、ビジネスパーソン、さらにいえばビジネスリーダーは、どう変わっていく必要があるのか。日本最大のMBAスクールであるグロービス経営大学院の教員陣による対談形式で、読者の皆さんと一緒に考えを深めていきたい。

株式会社グロービス 出版局長 嶋田 毅
株式会社グロービス マネジング・ディレクター 君島朋子
株式会社グロービス マネジング・ディレクター 顧彼思(上海)企業管理諮詢有限公司 董事 西 恵一郎

予測が困難な時代に、考えておくべき変化

 

● VUCA とは?
 VUCA は、次の4つの単語の頭文字をとった造語。
V(Volatility:変動性)
U(Uncertainty:不確実性)
C(Complexity:複雑性)
A(Ambiguity:曖昧性)
 1990年代後半に米国の軍事用語として発生した言葉。2010年代に入ると、昨今の変化が激しく先行き不透明な社会情勢を指して、ビジネス界においても急速に使われるようになった。

嶋田:VUCAといっても幅広いため、このシリーズでは5つのトレンド・テーマに着眼しながら議論をしていきたい。第1にテクノロジーの指数関数的な変化。10年前、こんな時代が来るとは誰も想像しなかった。第2に地政学的な変化。たとえば米中の関係、グローバルで見たときの人口動態もどんどん変わっていく。第3にSDGs(Sustainable Development Goals)、持続可能性。世界で開発目標が定められ、それに従った企業活動が求められている。そして、エンゲージメントや、人間と組織との関係の変化。最後に、人々の価値観や幸福感の変化や多様化。さらに言えば、世界が小さくなったことから、金融恐慌やパンデミックなど、世界の出来事が日本に影響をおよぼす頻度や程度が大きくなっている。そういった中で、ビジネスパーソンはどう変わるべきなのか。

君島:テクノロジーの指数関数的な技術の進化については、特に最近はAI(人工知能)やロボティクスなど、機械が対応できる領域が広がっている。AIは、機械が実行するというよりも、機械が考える、機械が判断するという機能を担っている。ただし、判断するといっても、予測に基づいてより適切な選択をしているということ。そして、ロボティクスは、我々の想像を超える細かい作業など、様々なことができるようになっている。これは単純作業のうち人間が担う部分が減っていることを意味する。米国ハーバード・ビジネス・スクールから、今はバブソン大学に移られたトーマス・H・ダベンポート教授は、論文『オーグメンテーション:人工知能と共存する方法』で、人間は人間ならではのことに取り組むべきで、人間が取り組む5つのアプローチがあると説いている。中でも重要な2つを紹介したい。まず、“Step up”(向上する)といって、コンピューターよりも大局的な考えを持つことが、益々求められる。そして“Step aside”(譲る)といって、人間はコンピューターとすみ分けて、単純認知ではない言語化されない知識や、多重認知を強化していくことが求められている。これは、クリエイティブな領域や、ヒューマンタッチな優しさや思いやり、人間らしい心が必要な領域の比重が高まるところに、人間がより力を向けていく流れになっているということではないか。

西:企業の戦略実行やリーダー育成を支援する中で、経営者に近付けば近付くほど、冒頭の5つのテーマは今後の経営に大きな影響をもたらすと考えている方が多い。逆にいうと、経営の振れ幅を考える上では、「テクノロジーはどこまで進化するのか」「経営はテクノロジーを使ってどこまで代替できるか」、地政学はグローバルという観点で「世界ではどんなシナリオが起こり得るか」、SDGsでは「社会や環境、人権に対して、どれくらいのお金が動くのか」、組織のマネジメントをする観点では「どうやって全く異なる価値観を持った人々をまとめて成果を出していくか」といった考えを巡らせておくことが必須になっている。いずれも企業経営に影響がある領域なので、正しく知っておく必要がある。それぞれの方の問題意識によって、5つのテーマの深刻度・重要度が大きく変わるように思う。組織の上に行けば行くほど深刻に、まだ若い人であればあるほど遠く感じられるのではないか。

嶋田:やはり、より上の立場の人ほど複数のシナリオを考えておくべきということか。シナリオ・プランニングという手法は、通常の「シナリオ」の意味とは少し異なり、ビジネスの文脈では「起こり得る未来」として使うが、シナリオに振れ幅がある中で、「では、我々は今の段階で何に備えておくべきなのか」といった発想が求められる。一方、若い人についてはどうか。

西:自分が関心のあるところからひとつでもいい、身近なこととして、「自分ごと」として考えほしい。テクノロジーでもSDGsでもいい、それぞれに身近なテーマから自分自身や自分の所属する組織に起きていることを考えていくと、変化やつながりを理解していくことができる。

君島:多様な人への想像力は、若い人にも求められていると思う。例えば、クリエイティブな領域の仕事であれば、人と違った発想が必要になる。思いやりやヒューマンタッチを大事にする仕事であれば、「相手は自分と同じように考えないかもしれない」「横の人とは違うサービスをしてあげたほうが喜ばれるかもしれない」といった、個に対する想像力があったほうが、若い人でも成功するし、自分の望む仕事ができるように思う。

君島:加えて、自分の身近なことではなくても、「自分ごと」として考える、自分に引き寄せて考える力も、むしろ若い(幼い)ときのほうが強いかもしれない。というのも、うちの子どもが小学校で「海のゴミ問題」を勉強してきたときに、近くには海がなく海のゴミを見たことがないにもかかわらず、「太平洋ゴミベルト」について実感をもって問題視していた。「ゴミベルトのゴミは1個がこのぐらいの大きさだ」「上を歩けるらしい」とか、想像して、それは困ったぞと考えていた。大人が「太平洋ゴミベルトは何平米ある」と言っているよりも、よほどリアルに問題を引き寄せて考えていて、「すごい想像力だなあ」と感心した。身近でないテーマについても、若いうちに引き寄せておくことで、将来的にも対応できる幅が広い人になるのではないかと思う。

嶋田:価値観の多様化は、一緒に働くという意味では難しい側面もあるが、ビジネスチャンスが生まれるという見方もできる。昔から、アービトラージ(裁定取引)は富の源泉だった。昔、インドの人は胡椒に見向きもしなかったが、それをヨーロッパに持っていったら金よりも高い価値が生まれた。そこまで大きな話でなくとも、価値観の差が生まれて、そこにビジネスチャンスが生まれるのではないか。皆が同じものを求めるのではなく、微妙な差があるからこそ、そこに何かしらのアービトラージのチャンスが生まれる。非常に面白い時代がやって来ているということは、若い人にも伝えたい。

西:たしかに、5つのトレンドは、これからの「差」を生むテーマだと思う。水が高い所から低い所へ流れるように、人は悪い組織からよい組織に流れる。SDGsでも地政学でも、「こういうことが起きたら、こういうふうになるはず」というシナリオを準備していた企業は勝ちうる。情報を有効に活用する企業が勝ち抜いていき、そういう企業に人は流れていく。大きな変化の中で生じる差を利用して、よりうまくやれるチャンスが出てくるだろう。

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