ユーモア詩でつづる学級歳時記

増田修治

ユーモア詩でつづる学級歳時記[第2回]

特別支援教育・生徒指導

2020.09.23

ユーモア詩でつづる学級歳時記[第2回]

白梅学園大学教授 増田修治

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.2 2019年6

笑顔で子どもを育てる秘訣が満載!子どものココロが見えるユーモア詩の世界 親・保護者・教師のための子ども理解ガイド』(ぎょうせい、2020年9月刊)の著者 増田修治氏が、埼玉県の小学校教諭時代から長年取り組んできた「ユーモア詩」。珠玉の75編と増田氏の的を射たアドバイスは、笑いながら子どもの思い・願い・成長が理解でき、今日からの子育て、保育、教育に生かせること請け合いです。ここでは、『学校教育・実践ライブラリ』(2019-2020年)の連載「ユーモア詩でつづる学級歳時記」をご紹介します。(編集部)

■今月の「ユーモア詩」

お父さんの小さいころ
小林 知也(4年)

今日、お父さんが小さいころの話を聞いた。
お父さんの小さいころは、
はちのすをたたいてはちにさされたり、
たき火にクリを入れてはねさせたり、
コイに石をあてたり、
もういろんなことをしたそうだ。
でも今はりっぱなぼくのお父さん。
人って、大人になると変われるんだね。
これからはいいことをして
仕事をがんばってね、お父さん。

■悪さも大切な経験

 知也はとってもまじめです。言われたことは守るし、いたずらもしません。まさに優等生です。そんな知也にお父さんが子ども時代の「悪さ」の話をするのは、まじめすぎて心配だからです。

 学校ではよく「ケンカはいけない」と言いますが、してみなければ、なぜケンカがいけないか、身に染みてわからないのも事実です。相手とぎくしゃくして遊べなくなったりすることではじめて「ケンカって嫌なものだな」と実感できるのです。

 悪さも人生の大切な経験の一つなのです。

 お父さんが「はちのすをたたいてはちにさされた」「たき火にクリを入れてはねさせた」と子ども時代のやんちゃぶりを話すのはそんな思いがあるからでしょうが、知也はなかなか乗ってきません。

 そこで「コイに石をあてた」とかいろんな悪さまで告白したのです。

 社会で生きる力は、悪さも含めた経験を通してこそ身につくと言いたいのでしょう。大人の言いつけを守るだけでは、心までは成長しません。心の成長が伴わないと、思春期のさまざまな葛藤を乗り越えられないで、暴走してしまうことさえあるのです。

 でも知也が「いろんなことをしたそうだ。でも今はりっぱな......お父さん」と書いているのを見ると、お父さんの思いはまだまだ通じていないようです。

■6月の学級づくり・学級経営のポイント

子どもの悪に寄り添う

 ユング心理学者として有名な故河合隼雄氏が、『子どもと悪(今ここに生きる子ども)』という本を出版したのが、1997年です。それから、20年以上経っているのですが、今だに色あせることがありません。河合氏はその本の中で、「大人が『悪』と見なしていることを子どもがあえてするのは、大人に対する宣戦布告のようなものである。『大人の言う通りには生きているのではないぞ』という表現である。大人になって自分の子ども時代を振り返ってみると、自立の契機として何らかの意味での『悪』が関連していたことに気づく人は多いのではなかろうか」と述べています。

 子どもが自立していくというのは、自分の秘密を持ったり、仲間うちだけで秘密を共有したりするという経験を通して行われます。大人が干渉しない世界を創り出していくということです。そこには、知っていて知らないふりをしたり、「シメシメ、子どもだけの世界を創り始めたぞ!」と喜ぶ大人の側の寛容さが必要になります。

 5年生を担任した時の6月のことです。自分が子どもだった時の秘密基地の面白さを話しました。すると数日後に、男子3名が「僕たちも秘密基地を作ったよ!」と報告してくれました。「そうか。良かったな」と喜び、「大人に分からないといいな!」と言っておきました。数日後、学校のそばの団地の真ん中にある銀行から「おたくの学校の子どもが、銀行の屋上に色々な物を持ち込み、小屋みたいにしているので迷惑だ。すぐに撤去するように指導してほしい」との電話があったのです。やったのは、案の定私のクラスの男子児童でした。

 見に行ってみると、1階建ての横の階段を上った屋上に材木や段ボール、漫画本などが置いてありました。隅っこに、人が隠れられるように工夫してあります。

 後日、三名の男子生徒と私とで謝りに行き、片付けました。「こんな所に、秘密基地を作るのはおかしいだろう。どうして、こんなすぐにわかる銀行の屋上に作ったんだ!」と言うと、「秘密基地を創る場所がそこしかなかった」とのこと。考えてみると、林や草原などは、近所のどこにも見当たらないのです。

 わざと気むずかしい顔をして子どもたちの顔を見つめ、「だいたい、こんな見つかる所に創るのは秘密基地とは言わないだろう! 今度は、見つからない所に作るようにもっと工夫しろよ!」と言うと、萎縮していた子どもたちの顔が急に明るい表情になり、明るい声で「うん!」と答えてくれました。数日後、「今度はわからない所に作ったよ!」と報告してくれました。

 子どもたちの自立をサポートしていくということは、子どもを大人の思ったようにしていくことではありません。子どものちょっとした悪さも含めて、成長を喜んでやることではないでしょうか。

 考えてみてください。私たちしたり顔の大人だって、小さい時に色々な悪さをしたはずです。そんな子ども心と共鳴する時、「教師って面白いなぁ」と思うのではないでしょうか。

 6月。子どもが新しいことを始めようと動き始める時期です。そんなチャレンジする子どもたちをうしろから押してあげたいものです。

 今でも、秘密基地作りの男の子とは、連絡を取り合い、昔話に花を咲かせています。

 

Profile
増田修治 ますだ・しゅうじ
1980年埼玉大学教育学部卒。子育てや教育にもっとユーモアを!と提唱し、小学校でユーモア詩の実践にチャレンジ。メディアからも注目され、『徹子の部屋』にも出演。著書に『話を聞いてよ。お父さん!比べないでね、お母さん!』『笑って伸ばす子どもの力』(主婦の友社)、『ユーモアいっぱい!小学生の笑える話』(PHP研究所)、『子どもが伸びる!親のユーモア練習帳』(新紀元社)、『「ホンネ」が響き合う教室』(ミネルヴァ書房)他多数。

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白梅学園大学教授

1980年埼玉大学教育学部卒。子育てや教育にもっとユーモアを!と提唱し、小学校でユーモア詩の実践にチャレンジ。メディアからも注目され、『徹子の部屋』にも出演。著書に『話を聞いてよ。お父さん!比べないでね、お母さん!』『笑って伸ばす子どもの力』(主婦の友社)、『ユーモアいっぱい!小学生の笑える話』(PHP研究所)、『子どもが伸びる!親のユーモア練習帳』(新紀元社)、『「ホンネ」が響き合う教室』(ミネルヴァ書房)他多数。

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