特集 「令和」の日本型学校教育に向けた協働的な学び これまでと何が同じで何が異なるか

授業づくりと評価

2021.11.10

協働的な学びの実際

 ここまでの前提を踏まえた上で、求められる協働的な学びを教育実践としてどのように具体化すればよいか、考えを述べたい。

(1)学級内の連携プレイを意図する〜授業記録から協働的な学びを見いだす〜


図2 子供の発言がつながる授業記録の抜粋

 教師が一つ発問すると、複数の子供の発言(反応)を互いにつなぎながら発言を続けていく授業がある。子供は学級集団の他者に反応する。授業記録を取ると、子供の発言内容はその前に発言した子供の内容を受けたり、何人かの子供の発言内容をまとめたりしていることが分かる。

 「〜さんに似ていて」「〜さんに反対で」「つまりそれは」「だから」などと、つなぐ発言のルールを決めている学級では、そのことがはっきり分かるが、そうでなくても「子供たちは子供たちから学んでいる」ということは記録で分かる。まずは、こうした学級内の協働的な学び(連携プレイ)を重視することである。

(2)学びのプロセスを重視する〜子供の言葉と文脈を引き出す〜


図3

 
 図3はグループによる話合い活動を取り入れた協働的な学びのイメージ図である。グループによる話合いの目的は、子供同士が互いの意見をもち寄って新たな気づきを見いだしたり、互いの考えを深めたりすることにある。大切なことは、子供たちが自分たちのもっている言葉を使って、自分たちの文脈で考えたこと(小さな結論)を説明することである。そこでは、話合い(学び)のプロセスが表現される。このプロセスこそ、三つの柱に沿った資質・能力のいずれもの育成につながる大事な場面となる。また、子供の言葉による、子供の文脈による解釈が、学級全体でみるといくつも提示され、独りよがりな表現ではなく、みんなの納得する言葉や説明を吟味する機会が生まれる。そういう経過を経て選ばれた表現は、教師が準備していた「目標の言葉・大人の言葉」よりも、子供(たち)自身の力で視野を広げ確かな理解が促される言葉になることが多い。また、その経験自体が協働的な学びの意義の実感につながる。

(3)実社会とつなぐ〜多様な他者とのやりとりを経験させる〜

 「開かれた学校」は既に様々な授業で形になっており、地域の方々との交流や相互参加は当たり前のようになってきている。ただし、「演出された交流」ではなく、議論や共同作業などの真の協働はどの程度実現しているだろうか。ゲストティーチャーとして学校に招いて話を聞くことはあっても、子供なりの意見を投げかけたり、共に未来や社会を考え話し合ったり、何かを一緒に創ったりする活動は少ないのではないだろうか。

 答申でも、「多様な他者と協働して主体的に課題を解決」することや「異学年間や他の学校の子供との学び」「地域との連携・協働」などを例に、多様な他者との真の協働が改めて強調されている。

 そして、子供たちも多様な他者との交流や協働を求めている。そのことにどれだけ学校が、教師が教育課程や人的・物的資源の活用を工夫しつつ応えることができるかが今後の課題である。

(4)ICT活用も協働的に〜ソフトやアプリの機能を生かす〜


図4

 前記図1に「それぞれの学びを往還」とあるように、ICT環境の活用は協働的な学びの充実にも一役買うはずである。図4は、文部科学省が総務省と連携して平成23年頃から進めてきた「学びのイノベーション事業」の報告書にまとめられた図である。ICTとは一般的には通信技術を活用したコミュニケーションのことを指すので、協働学習の側面は従来から求められていたのである。

 答申でもICTの活用により、子供一人一人が自分のペースを大事にしながら共同で作成・編集等を行う活動や、多様な意見を共有しつつ合意形成を図る活動など「協働的な学び」を発展させることができることや、空間的・時間的制約を緩和することによって、遠隔地の専門家とつないだ授業や他の学校・地域や海外との交流など、今までできなかった学習活動も可能となることを指摘している。現在、そうした活動を容易にするソフトやアプリが出回っており、推進する際の背中を押している。

(5)子供一人一人に役割や居場所を〜子供の多様性に目を向ける〜

 ここまで述べたことの大前提は一人一人の子供の違いを認めることである。すべての子供たちが同じことを同じように同じ速さではできない。関心やこだわりも異なる。ICTを使おうともグループ活動を取り入れようとも、その点を踏まえなければ形だけになる。異なる大きさや形状のピースが集まってジグソーパズルが完成するように、子供たちの多様性に目を向け、一人一人の授業における活躍の場は異なり、それぞれに役割や居場所がある状況を目指すのが、協働的な学びの本質であろう。授業の中に子供が自分の意思で「選ぶ」「決める」場面があり、それを振り返りながら自らの学習を調整する、そうした学びが相互につながり関わり合ってこそ、個別最適な学びと「それぞれの学びを往還する」協働的な学びの実現に近づくのだと思う。

 

Profile
澤井陽介 さわい・ようすけ
 昭和59年より東京都内小学校教諭、八王子市教育委員会指導主事、町田市教育委員会教育政策担当副参事等を経て、平成21年4月から文部科学省教科調査官(併任)国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官、平成28年4月から文部科学省初等中等教育局視学官、平成30年4月から現職。平成15〜19年度:教育課程実施状況調査委員、中央教育審議会社会専門部会委員、学習指導要領改訂協力者。主な著書『授業づくりの設計図』(単著、東洋館出版社、2020年)、『見方・考え方を働かせて学ぶ社会科授業モデル』(編著、明治図書、2019年)他。

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特集:令和の「 個別最適な学び・協働的な学び」 〜学びのパラダイムシフト〜

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