特集 ICTで生かす個別最適な学び

授業づくりと評価

2021.11.12

特集 令和の「 個別最適な学び・協働的な学び」 〜学びのパラダイムシフト〜
ICTで生かす個別最適な学び

信州大学学術研究院教育学系助教 佐藤和紀

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.2 2021年6月

個別最適な学び

 中央教育審議会(2021)は「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜(答申)」を公表している。学校は「子供たちの多様化」「生徒の学習意欲の低下」「教師の長時間労働」「情報化への対応の遅れ」「少子化・人口減少の影響」「感染症への対応」の課題を抱えながら、ICTを活用して、子供たちの「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体にした取組を行うことが急務となっている。

 「個別最適な学び」とは、教師がICTを活用して負担を抑えながら児童生徒の学習到達度等を把握して、支援が必要な児童生徒に重点的な指導を行うとともに、児童生徒が自らの学習を調整しながら、粘り強く取り組む態度を育成する「指導の個別化」のことを指す。また、児童生徒の興味・関心に応じて、ICTを活用しながら自ら学習を調整し、課題設定、情報収集、整理・分析、まとめ・表現など、主体的に学習を最適化することを教師が促す「学習の個別化」が重要である(溝上、2020)。

 したがって、「個別最適な学び」とは、教師が児童生徒の個別の状況を把握して指導・支援しながら、児童生徒が自己を理解しながら学習を行っていく学習方法であると言える。

学校現場における先端技術の活用

図1

 文部科学省(2019)は、「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」において、Society5.0に向けた人材育成のため、教育ビッグデータやAI、IoT、VR・ARなどの先端技術を積極的に教育現場で活用していく指針を示した。また、先端技術・教育ビッグデータを活用する意義について、「これまで得られなかった学びの効果が生まれるなど、学びを変革していく大きな可能性がある」と述べた上で、図1のように期待できる具体的な学びの効果をまとめている。さらに、令和元年から「新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業」が展開され、実証地域や企業による成果報告および、先端技術の活用が掲載されている(文部科学省、2021)。

 埼玉県教育委員会の取組では平成27年度から、県内の公立小・中学校に在籍する小学校第4学年から中学校第3学年の全児童生徒約30万人を対象に、国語、算数・数学、英語(中学校第2学年以上)の教科に関する調査と学習意欲や態度、生活習慣に関する調査(質問紙調査)を実施している。調査の特徴は、学習内容がしっかりと身についているのかという視点に、学力がどれだけ伸びているのか(学力の経年変化)という視点を加え、一人一人の学力の伸び(変化)を継続して把握している。特に、県学力・学習状況調査のビッグデータと、学校が保有するデータを分析し、児童生徒一人一人の学力や生活習慣等に関する改善事項の提示、理解度等に応じた個別学習教材の出力等を行い、教員が場面に応じて活用していくことで、個別最適な学びの実現を目指している。

 岐阜県教育委員会では、教科学習Webシステム「GIFU Webラーニング」と、統合型校務支援システムを連携し、蓄積されたデータをAIが分析して、教員に指導方法や使用教材のレコメンド(推薦)を提示し、「教育の質の向上」と「教員の働き方改革」を両立させる学校改革を推進している。特に、蓄積された児童生徒のデータを分析し、単元前テストの結果から一人一人のつまずきを予測して、指導方法や使用教材をレコメンドしたり、個別の学習課題を出力したりしている。

 京都市教育委員会では、平成30年度より、Society5.0時代において求められる資質・能力を育成するため、個々の子供に応じた学習の実現、および教員の指導力向上を目的として、AI等の先端技術を活用した協働学習における学習状況の可視化・評価と統合的な学習データ分析を行っている。協働学習時の音声の可視化・分析を中心として、アンケート結果、学力データ、タブレットの操作ログ(記録データ)等の各種データの可視化を行い、関連性や傾向を検証しながら、協働学習のグループ編成、個々の児童生徒の資質・能力を効果的に育むためのフィードバック方法、指導方法の作成を目指している。

 箕面市教育委員会では平成24年度より全児童生徒を対象とした「箕面子どもステップアップ調査」(学力調査・体力調査・生活状況調査)を実施し、教育データを蓄積している。また、AIカメラを用いて教員と児童の発話量の比較、授業での癖、児童生徒の集中度等を解析して可視化したり、顔認証によって出欠を取れることを目指している。さらに、AIドリルを用いて問題の正誤によって、レベルに合った問題を出題したり、手書きの途中式を解析し、間違え方によって、その原因の解決につながる復習問題を出題したりしている。

 紹介したいずれの取組も学力調査や児童生徒の発話、操作ログなどを収集した「教育ビッグデータ」を蓄積させ、そのデータのAI等による整理・分析を通して、教員の学習支援や児童生徒の自己調整の手がかりとなる必要な情報を提示する仕組みとなっている。

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