特集 「個別最適な学び」を進める指導体制と授業づくり

学校マネジメント

2021.11.15

特集 令和の「 個別最適な学び・協働的な学び」 〜学びのパラダイムシフト〜
「個別最適な学び」を進める指導体制と授業づくり

鎌倉女子大学教授
高橋正尚

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.2 2021年6月

「個別最適な学び」を進めるために

 「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜(答申)」(令和3年1月26日中央教育審議会、以下「令和3年答申」)が示され、目指すべき新しい時代の学校教育の姿として「個別最適な学びと、協働的な学びの実現」が提言された。「個別最適な学び」を通して、各教科・特別の教科道徳、総合的な学習の時間、特別活動等の内容をバランスよく確実に定着させていくことが求められている。これにより、学習指導要領で示されている生きる力(知・徳・体)を目指すことになる。「個別最適な学び」を実現するためには、学校全体の組織としての「指導体制づくり」と「授業づくり」を工夫することが必要である。本稿では、上記の2点についての方策を提案していきたい。

「個別最適な学び」を実現させる組織的な指導体制

 学校が組織として、「個別最適な学び」に取り組むことは大変重要である。そこで、学校として取り組むべきことを4つに分けて紹介する。

 第1に取り組むべきことは、教職員の知識と意識の向上である。学習指導要領の理解の深さについては個々に差があることは否めない。これは「個別最適な学び」「協働的な学び」の充実を求めた中教審の「令和3年答申」の内容についても同様である。

 したがって、「個別最適な学び」についての校内研修会を開催し、全教職員が学習指導要領の趣旨の理解とともに、知識と意識を向上させる必要がある。その際の資料としては、文部科学省の「学習指導要領の趣旨の実現に向けた個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に関する参考資料」(令和3年3月版、以下「参考資料」)が基になるが、この「参考資料」38ページのイメージ図は分かりやすくまとめてあるので活用するとよい。

 また、完全習得学習(マスタリーラーニング)、プログラム学習などの学習理論を学び、学校の実態に合わせて活用していくことも大切である。

 第2に取り組むべきことは、組織づくりである。「個別最適な学び」を体系的・継続的に実施するためには、校長を中心として全教職員が連携協力しなければならない。そして、「個別最適な学び」を担当する組織づくりに着手する。この組織は、校長の意向を教職員に周知するトップダウンの機能と各教職員のアイデアを吸い上げるボトムアップの機能の両方を持つ必要がある。既存の校務分掌の組織(教務部や○○指導部等)だけに担当させると、トップダウン、ボトムアップともに機能しにくくなることがある。

 そこで、「個別最適な学び」を組織的に対応するために、各部門から1名ずつ代表を選出し、「学力向上チーム」(以下「チーム」)を編成する。「チーム」は各組織で教職員からの意見やアイデアを集約し、それを検討することができるので、ボトムアップの機能を持つことができる。また、「チーム」に校長も参加することで、学校経営の方針を反映した方策を立てることが可能となる。さらに、各部門の代表が直接自分の組織のメンバーに「チーム」で検討した内容を説明することができるので、トップダウンの機能を持つことにもなる。

 組織は組織図・役割・人の3つの要素からなるので、それに合わせて、「チーム」づくりの3つの手順を示す。

 まず、校内組織における「チーム」の位置付けを明らかにするために、校内組織図に「チーム」を明記する。次に、「チーム」内で割り振る仕事内容を具体的にリストアップする。そして、校長が既存の校務分掌の組織から代表をメンバーに指名する。その際、教務、研究、学習指導、ICT、特別支援教育などの組織からもメンバーに入れるようにする。

 最初の会議では、メンバーで「チーム」の目的を共有し、役割分担、スケジュールなどを決定する(図1参照)。


図1

 第3に取り組むべきことは、組織的な運営である。学校として、「個別最適な学び」「協働的な学び」の具現化のために、カリキュラム・マネジメントを推進していくことが必要である。

 まず、実態把握(Research)である。児童生徒や学校・地域の実情を把握することで、自校の課題を明らかにする。

 次は、教育活動計画の立案(Plan)である。学校の教育目標や各教育活動で育成を目指す資質・能力等を明確にして、教育課程を編成する。また、補習などの教育課程外の教育活動についても計画を立案する。

 そして、教育活動の実施(Do)である。全ての教育活動で、主体的・対話的で深い学びを目指すようにする。つまり、部活動などの教育課程外の教育活動でもこれを意識した指導をすることになる。

 その後に、学習状況等の把握(Check)である。各種調査結果やデータ等を活用して、児童生徒の学力・体力などの学習状況や生活状況を定期的に把握し、全教職員で共有する。

 最後に、教育活動計画の改善(Action)である。児童生徒の学習状況等に基づき、教育課程の改善や教育課程外の教育活動の改善に取り組む。

 そして、その改善策を生かして、次の教育活動計画の立案(Plan)を行う。このマネジメントサイクル(PDCA)を通して、教育活動全体で、「個別最適な学び」「協働的な学び」を実現するという成果を上げることになる(図2参照)。


図2

 第4に取り組むべきことは、組織的な広報活動である。組織として効果を得るためには、その学校の教職員はもちろんだが、児童生徒・保護者も広報活動の対象となる。そこで、年度当初の朝(集)会や保護者会等で、学校における「個別最適な学び」の目的や取組の方法を児童生徒や保護者に分かりやすく伝え、全校で共有すべきである。

 広報とはパブリック・リレーション、つまり、その組織に関係する人々と良好な関係を築く活動である。学校と家庭、地域が「個別最適な学び」の考え方を共有するために、組織的・計画的に、学校だよりや学校ホームページなどの媒体を使い、継続的な広報活動に取り組むことが重要である。また、保護者総会や学校運営協議会などの場で、地域住民の委員へ「個別最適な学び」の取組を伝えることで、より良好な関係を築くとともに、社会に開かれた教育課程を具体的に描くことができる。

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