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特集 中教審答申で読む「個別最適な学び」と「協働的な学び」

トピック教育課題

2021.11.17

特集 令和の「 個別最適な学び・協働的な学び」 〜学びのパラダイムシフト〜
中教審答申で読む「個別最適な学び」と「協働的な学び」

千葉大学名誉教授 
天笠 茂

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.2 2021年6月

「令和の日本型学校教育」のキーワード:「個別最適な学び」と「協働的な学び」

 「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実。第10期中央教育審議会「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜」(2021(令和3)年1月26日)(以下、「答申」)を構成するキーワードの一つである。

 「個別最適な学び」は、①学習者の特性や進度、到達度などに応じ、指導方法・教材や学習時間などの柔軟な提供や設定、②自らの学習を把握し、学習の進め方を工夫し、調整しながら粘り強く取り組む、③興味・関心に応じ、課題の設定、子供自身による情報の収集、整理、分析、まとめ、表現など、主体的に学習を最適にする、などの特徴的な要件や特性を有する学びとして提起されている。

 また、「協働的な学び」は、1同一学年・学級をはじめ、異学年間や他校との学び合い、②同じ空間で時間をともにすることで感覚を働かせ互いに刺激し合う、③様々な場面で体験を通して共に学ぶ、などを備えた学びとしてこれまた示されている。

 この「個別最適な学び」と「協働的な学び」との一体的な充実が、「令和の日本型学校教育」の構築をめざすにあたって鍵を握ることになった。すなわち、「答申」は、「目指すべき『令和の日本型学校教育』の姿を『全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現』とする。」と述べ、その学びの姿を各学校段階において実現することをめざすとしている。

「公正に個別最適化された学び」「個に応じた指導」「個別最適な学び」

 その「個別最適な学び」について、理解を深めるにあたって、関連する用語として「公正に個別最適化された学び」及び「個に応じた指導」との関係をおさえておきたい。

(1)「公正に個別最適化された学び」から「個別最適な学び」へ
 まずは、文部科学省内の「Society5.0に向けた人材育成に係る大臣懇談会」と称する懇談会に注目したい。学校における授業の現状やSociety5.0時代における学校や学びの在り方が検討され、「Society5.0に向けた人材育成〜社会が変わる、学びが変わる〜」(2018(平成30)年6月5日)としてまとめられている。

 そこでは、学校の現状を“一斉一律授業の学校”としてとらえ、これを“個人の進度や能力、関心に応じた学びの場”に変えていく必要があるとの認識が示されている、また、“同一学年集団の学習”について、“学習到達度や学習課題等に応じた異年齢・異学年集団での協働学習の拡大”を図り、さらに、“教室での学習”においては、“大学、研究機関、企業、NPO、教育文化スポーツ施設等も活用した多様な学習プログラム”の学習支援を必要とするとした。

 この一連の学びの在り方をめぐるキーワードが「公正に個別最適化された学び」である。その後、審議の場は中央教育審議会特別部会などに移り、そして、「令和の答申」としてまとめられる過程で、「最適化」という言葉が関係者の関心をリードした。改めて、「最適化」をキーワードに学びの在り方をめぐり一連の流れを作り出した、新たな時代を豊かに生きる力の育成に関する省内タスクフォースを称した大臣懇談会の存在に注目したい。

(2)「個に応じた指導」をめぐって
 このように、当初、「公正に個別最適化された学び」のもとに審議は進んだ。しかし、中央教育審議会「答申」や教育課程部会「審議のまとめ」では、「個別最適な学び」をキーワードに成文化されている。そこには、「個に応じた指導」の存在がある。この一連の過程をおさえておくことが、「個別最適な学び」の理解にとって欠かせない。

 その「個に応じた指導」について、教育課程部会における審議の過程において、文部省(当時)が公刊した『小学校教育課程一般指導資料III—個人差に応じる学習指導事例集—』(1984(昭和59)年)が審議に関わる関係者の間で注目を集めた。これは、「ゆとりと充実」や学校裁量の時間などを掲げた1977(昭和52)年告示の学習指導要領の実施のためにまとめられた3つの指導書のひとつであり、個を理解し、個に応じることへの基本的な考え方が説かれ、24の事例が収められている。

 当時、学習の個別化・個性化が言われ始めた時代である。先進校の取組も注目を集め事例集に多くの関心が寄せられた。ある意味、「個に応じた指導」に関わる教育課程行政は、この事例集が一つの転機をもたらしたといっても過言でない。

 振り返ってみれば、学習指導要領試案の時代から、個への指導を求める文言が記されてきた。その「個に応じた指導」が、一つの用語として学習指導要領総則の配慮事項に取り上げられるのは1989(平成元)年改訂からであり、その後に引き継がれていく。

 2003(平成15)年の一部改正では、1998(平成10)年改訂であげられた「個に応じた指導」の例とした個別指導、グループ別指導、繰り返し指導、教師による協力的な指導に加えて、学習内容の習熟に応じた指導、興味・関心に応じた課題学習、補充的な学習や発展的な学習などの学習活動を取り入れた指導、などを示した。そして、2008(平成20)年改訂の学習指導要領、さらに、このたびの「主体的・対話的で深い学び」に「個に応じた指導」は継承された。

 要するに、教育実践の世界では、長年、「個に応じた指導」のもとに個への対応をはかる実践を重ね、そのノウハウを積み上げてきたということである。確かに、昭和の時代に「最適化」のもとに学校の在り方を問う動きがあったものの、広がりをみせることはなかった。

 いずれにしても、教育課程部会における審議の過程は、歴史の中に埋もれていた『個人差に応じる学習指導事例集』を掘り起こすとともに、「個に応じた指導」の積み重ねを再評価する過程を通して、「公正に最適化された学び」から「個別最適な学び」への道を拓いた。

(3)「個別最適な学び」:学習者視点からの整理
 「答申」は、「ICTも活用しながら自ら学習を調整しながら学んでいくことができるよう、『個に応じた指導』を充実することが必要である」と述べている。その上で、「指導の個別化」と「学習の個性化」について次のように説明する。

 「指導の個別化」については、教師が、子供一人一人の特性や学習進度、学習到達度等に応じ、指導方法・教材や学習時間等の柔軟な提供・設定を行う、と。

 「学習の個性化」については、教師が、子供一人一人に応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供することによって、子供自身の学習が最適となるよう調整する、と。

 その上で、「指導の個別化」と「学習の個性化」を教師視点から整理した概念が「個に応じた指導」であり、「個に応じた指導」を学習者視点から整理した概念が「個別最適な学び」であると記している。

 このように、「審議のまとめ」は、まずは、学校が「個に応じた指導」の実現に向けて努力を積み重ねてきたことを確認した上で、さらに充実をはかっていく必要があると説き、そのめざす方向に「個別最適な学び」の実現と充実があるとする。まさに、「個別最適な学び」は、「個に応じた指導」のもとに積み上げてきた授業改善の取組の継承・発展をめざし、さらに、学習者に寄り添う立場からの学びとしてとらえられる。

 ただ、「個に応じた指導」が、一斉指導の方法上の改善を中心に取り組まれてきたのに対し、「個別最適な学び」は、学びの変革のもとにICT環境の整備をはじめ、組織や制度をはじめ環境の見直しにも前向きであろうとする志向性を有していることに注目したい。すなわち、「個別最適な学び」は、「個に応じた指導」の流れを汲みつつ、方法上の工夫・改善にとどまらず、学年や進級システムなど制度的改変も視野に収めた取組でもあるということに留意したい。

 いずれにしても、教育課程部会は、「公正に個別最適化された学び」のもとに審議を始め、「個に応じた指導」の歴史を掘り起こす過程を通して、「個別最適な学び」を導き出している、そこに「個に応じた指導」に関わる授業改善の歴史があったことを確認しておきたい。

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