特集 中教審答申で読む「個別最適な学び」と「協働的な学び」

トピック教育課題

2021.11.17

全ての子供に「個別最適な学び」と「協働的な学び」を

 ところで、社会構造の変化にともない多様な子供たちの存在も、現代の学校教育を語るにあたって見落とせない。「答申」は、様々に存在する子供たちに対して、学校教育の外に置かれることのないようにすべきであり、誰一人取り残すことなく全ての子供たちの可能性を引き出す、と「令和の日本型学校教育」の方向性を示している。

 「答申」は、発達障害のある子供、外国人児童生徒などへの教育や条件整備の在り方を議論した6つのワーキンググループなどによる「審議のまとめ」などをもとにまとめられている。その一環として、教育課程部会「審議のまとめ」は、特定分野に特異な才能のある児童生徒を取り上げ、次のような児童生徒の存在に関心を寄せている。

・単純な課題は苦手だが複雑で高度な活動が得意な児童生徒
・対人関係は上手ではないが想像力が豊かな児童生徒
・読み書きに困難を抱えているが芸術的な表現が特異な生徒

 しかし、これら特異な才能をどのように定義し、見出し、能力の伸長をはかるかについては、十分な議論もなされないまま現状があると「審議のまとめ」は指摘し、これら児童生徒の存在も含め、あらゆる他者を価値ある存在として尊重する環境を築くことが「令和の日本型学校教育」のめざすところであると述べている。

 その上で、これら子供たちも含め、全ての子供たちの可能性を引き出すにあたっては、「個別最適な学び」によって、特異な才能のある児童生徒も含め個々の資質・能力の育成をはかり、「協働的な学び」によって、お互いの違いを認め合い、学び合う。この相乗効果を生み出す学びの在り方を「令和の日本型学校教育」のめざす姿として描いている。

公教育と民間における教育の新たな関係の構築

 一方、このような「個別最適な学び」と「協働的な学び」との相乗効果を生み出す学びの実現には、学校内外に存在する様々なノウハウが必要であり、その開発や活用をめぐって学校と関係機関などとの関係構築も課題とされる。

 学校内外における学習において、それぞれの学習を生かし自他ともに学び合い成長をはかる機会を設ける。しかし、現実の問題として、学校がストックしている資源やノウハウだけはカバーしきれない課題に直面することも十分に考えられる。その意味で、「令和の日本型学校教育」の実現には、学校への支援を中心に様々な角度からの相当の条件整備が欠かせないことも認識しておく必要がある。

 その一環として、学校を中心に関係機関との関係の見直しが問われており、その一つとして、大学や民間団体等との連携がある。不登校などをめぐる学校・関係機関と大学との連携については、相応の実績を積み上げつつある。また、授業を支援する一員として学生を学校に派遣する協定を教育委員会との間で結ぶ大学も少なくない。これら実績をもとに、さらなる関係づくりへの模索が問われている。

 また、学校内外に存在するノウハウの活用による「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実は、これまでの学校と民間の関係についても見直しを迫っている。学校にとっては、学びの充実にあたり、民間からの支援をどのような関係のもとに受け止めていくかが問われることになる。

 これまでも、指導方法に関わり民間において開発をみたノウハウについて、学校への導入の試みもなくはなかった。そのような経過をふまえつつ、個別最適な学びと協働的な学びの一体的充実の実現をはかる観点から、学校と民間による共有、融合による新たな開発など、両者の関係づくりが問われている。どのようにして新しい関係を構築していけるか。その関係構築が、「令和の日本型学校教育」の行く末を左右することになるといってもよい。

 このようなことからして、第10期中央教育審議会「答申」は、子供たちそれぞれの学びの充実を柱に、公教育と民間における教育をめぐり新たな関係構築をめざす提言としてとらえることもできる。

 いずれにしても「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実は、新学習指導要領が掲げる「主体的・対話的で深い学び」のめざす学習の在り方と重なる。学習者が、知識を関連付けて深く理解したり、考えを形成したり、自分なりに課題を見付けて解決に取り組み、互いに学び合う。そのような学びを生み出すために、学校及び教育委員会においては、様々な支援を受けつつ、教育課程をめぐる組織や制度の柔軟で弾力的な運用をもとに授業の改善を進めていくことを期待したい。

 

Profile
天笠 茂 あまがさ・しげる
 東京都生まれ。川崎市公立小学校教諭、筑波大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。千葉大学講師、助教授、教授、特任教授を経て令和3年3月退官。千葉大学名誉教授。学校経営学、教育経営学、カリキュラム・マネジメント専攻。中央教育審議会副会長。同初等中等教育分科会教育課程部会長。主な著書に『学校経営の戦略と手法』『カリキュラムを基盤とする学校経営』『新教育課程を創る学校経営戦略─カリキュラム・マネジメントの理論と実践─』など。

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特集:令和の「 個別最適な学び・協働的な学び」 〜学びのパラダイムシフト〜

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