特集 ICTで生かす個別最適な学び

授業づくりと評価

2021.11.12

教育ビッグデータの活用と人工知能(AI)による個別最適化

 2010年を過ぎた頃から、第3次AIブームとも言われるように、人工知能(AI:Artificial Intelligence)の話題を頻繁に耳にするようになってきた。現在、画像認識による顔認証や、Apple SiriやAmazon Alexaに代表される音声対話システム、自動運転の実現など、私たちの身近なところでもAIは一般的に利用されるようになり、AIが搭載されたスマート家電を見ることも珍しくはない。松尾(2015)は、「人工知能は『人工的につくられた人間のような知能』であり、人間のように知的であるとは『気づくことのできる』コンピュータ、つまり、データの中から特徴量を生成し現象をモデル化することのできるコンピュータという意味である」と定義している。

 AIの技術を利用して、あらゆるモノがインターネットに接続されるIoT(Internet of Things)や、各種センサの発展に加えて、学習管理システムLMS(Learning Material System)によって、児童生徒から教育ビッグデータを収集・蓄積することができるようになっていく。さらに、AIは収集した情報やデータを利用して、様々なことを学習することができる。例えば、テストの正答率はもちろんのこと、間違いのプロセス、学習時間や学習回数などの「スタディ・ログ」を分析することで、児童生徒の最適な学習や、教師にとっての最適な指導方法をレコメンドすることができるようになる。また、スタディ・ログに加えて、ログインした時間や情報端末が起動している時間などの日常生活の履歴である「ライフログ」を解析することで、児童生徒に起こりうる問題や課題の早期発見につながる可能性もある。先に紹介した事例はこうした技術を活用する取組である。AI技術を活用することによって、教師の経験だけではなく、データに基づくエビデンスによる指導が行えるようになっていく。

学校現場における個別最適な指導やAIの活用

(1)児童のICTスキル育成のための個別最適な指導
 キーボー島アドベンチャーは小学生のキーボード入力スキルを育成するために2003年に開発され、スズキ教育ソフトから無償で提供されている。GIGAスクール構想による情報端末の活用の促進のために、2021年5月末には全国の小学校の約11%で活用されている(堀田、2021)。本システムはタイピングの速度と正確さで30級から初段の検定が設定され、合格が判定される。教師は管理画面で児童がいつ検定に挑戦したか、何回目で合格したかを確認することができる。このスタディ・ログを活用して、教師はなかなか合格できない児童には「大体何回くらいで合格することが多いから、あと2回頑張ってみよう」という声かけをしたり、やり過ぎや遅い時間での挑戦を見かけたら「遅くとも何時までには寝るようにしよう」というような声かけをしたりすることが可能になっている。


図2 検定ログの確認画面

(2)AIを活用した学級経営支援
 佐藤ほか(2020)は学級経営が良くない状況になると下駄箱等の整理整頓の不徹底に表れることが知られていることに着目し、画像認識によるAIを活用した学級経営の支援の取組を行っている。下駄箱の写真を撮影し、「揃っているか(Good)」「揃っていないか(Bad)」の「確信度(0%−100%)」を判定するAIを開発した。小学校教諭8名の協力を得て、本システムを1週間、小学校で活用した。活用中は毎日、下駄箱の写真を撮影し、判定結果を記録した結果、Goodは徐々に向上し、Badは徐々に低下していった。また、終盤には、撮影方法の違いによって確信度の割合がどのように変わるかを試み、AIの仕組みを理解しようとする児童の姿が見られた。このAIは、学校現場の教員と研究者で、下駄箱の写真を約1000枚集め、「靴が整頓されている下駄箱」と「あまり整頓されていない下駄箱」の写真を判断し、AIに「教師データ」として読み込みさせ、AIはこれらの写真を基に判定をしている。子供たちがAIの判定を基に、生活習慣を改善していこうとする姿が見られた。


図3 AIが算出した確信度の平均値

今後の課題

 これまで個別最適な指導がされてこなかったわけではない。もちろん教師は児童生徒一人一人の学習状況を把握し、適切に指導してきた。しかし、先端技術を活用することによって、より一人一人の状況が便利に見えやすくなることも徐々に分かってきた。GIGAスクール構想によって、児童生徒には情報端末が整備されたことで、工夫次第では整備された既存のクラウドツールを使うだけでも個別最適な指導は可能となる。まずは、子供たちの学習や生活の状況を数値化、可視化することで、より豊かな個に応じた指導が可能になることを実感していきたい。

 

 

[参考文献]
・堀田龍也(2021)メディアと教育を考える. 
http://horitan.cocolog-nifty.com/nime/2021/06/post-41e579.html
・中央教育審議会(2021)「令和の日本型学校教育」の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜(答申)(中教審第228号). https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/sonota/1412985_00002.htm
・松尾豊(2015)人工知能は人間を超えるかディープラーニングの先にあるもの.角川EPUB選書
・溝上慎一(2020)令和の日本型学校教育における「個別最適な学び」「協働的な学び」についての概念的考察.
https://www.mext.go.jp/content/20201023-mxt_kyoiku01-000010203_2.pdf
・文部科学省(2019)新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ). https://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/06/24/1418387_02.pdf
・文部科学省(2021)新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業(学校における先端技術の活用に関する実証事業・先端技術の効果的な活用に関する実証)について. https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1416148.htm
・佐藤和紀、板垣翔大、佐藤正寿、赤坂真二、堀田龍也(2020)人工知能を活用した下駄箱整理判定支援システムの小学校における試行的実践.日本教育工学会2020年
秋季全国大会:255-256
・スズキ教育ソフト(2021)キーボー島アドベンチャー.
http://www1.kb-kentei.net/

 

Profile
佐藤和紀 さとう・かずのり
 1980年長野県出身。東京都公立小学校・主任教諭、常葉大学教育学部・専任講師を経て、2020年より現職。東北大学大学院情報科学研究科・修了、博士(情報科学)。文部科学省教育の情報化に関する手引・執筆協力者、ICT活用教育アドバイザー等。

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