特集 SDGsから読む「協働的な学び」
トピック教育課題
2021.11.08
特集 令和の「 個別最適な学び・協働的な学び」 〜学びのパラダイムシフト〜
SDGsから読む「協働的な学び」
同志社女子大学特任教授
藤原孝章
(『新教育ライブラリ Premier II』Vol.2 2021年6月)
現行の文部科学省学習指導要領には従来の学習指導要領にはなかった「前文」が記載されていて、そこには以下のような文言がある。
ここには、一人一人の学び(個別最適な学び)と多様な価値を認め、人々と協働すること(協働の学び)、社会の変化を乗り越え、豊かな人生を拓いていくための学び(「レジリエンスと自己実現」の学び)といったことを踏まえて、持続可能な社会を創っていくこと、その創り手を育てる学びを提供することが学校の教育活動であると宣言されている。つまり協働の学びだけが一人歩きするのではなく、総合的で全体的な学校の教育活動の一環としてある。
協働の学びの多様性
とはいえ、協働の学びといっても、①学習者の協働、②教職員の協働、③社会との協働、④グローバルな連帯・協働など多様である。それは協働の主体、場所、ねらいと関わるからである。
① 学習者の協働では、「主体的・対話的で深い学び」
を導くような参加型学習、協働・協同の学習過程が不可欠である。一人一人の学びを共同の学びにつなげていくファシリテーションが求められる。
② 教職員の協働では、学校や学年での教員の取組、教科横断型の総合的な学習(探究)の時間の授業づくりなどいわゆるカリキュラム・マネジメントのための協働が求められる。
③ 社会との協働は、これまでも「総合的な学習の時間」(以下、高校の「総合的な探究の時間」も含めて「総合」)の授業づくりのなかで課題とされてきたものである。地域コミュニティや地域で活躍するNPO、近隣の学校、大学、地域を超えて活動する企業など、学校が協働する主体は数多い。
④ 持続可能な開発目標(以下、「SDGs」)では、個別目標として17の「パートナーシップで目標を達成しよう」にあるように、グローバルな連帯・協働が求められている。
SDGsの基本的な考え方
SDGsの特色は、まずは、それ以前のミレニアム開発目標(以下、「MDGs」)から引き継いだ貧困、教育、ジェンダー、健康、水など開発途上国・地域の課題などに加えて、気候変動、生物多様性、働き方や経済成長、サプライチェーン、平和、公正など先進国・地域も関係がある諸課題を取り上げていること、次に、17の目標は個別に達成するだけではなく、達成のためには、他の目標と相互に連関していること、そして、2030年の未来に到達すべき社会から現在の私たちの社会の変容を課題としている「バックキャスティング」の考え方をしていることである。「自分ごとと世界ごとが重なる」あるいは「自分が変われば、社会が変わる、世界が変わる」という気づきを得ることが求められていると言える。SDGsのための教育は、持続可能な社会づくり、すなわち、持続可能な開発のための教育(以下、「ESD」)でなければならない。ここで、SDGsやESDの「開発 Development」の意味について触れておきたい。
英語のdevelopmentとはenvelopの反対、つまり封をしていたものを開放・解放する、変化や変容を伴う概念である。貧困の「困」も、木を枠で囲っているから困るのである。枠を外して木をのびのびと育てること、それが開発である。SDGs学習やESDは、現状の社会をそのまま持続させることではない。現在の世界に生きる人々や将来の世代のために、今ある私たちの社会の不公平や不幸せをなくしていくことである。現状では持続不可能であることを、持続可能にするために、自ら学び、他者と学び合い、社会を変えるアイデアを探り、その担い手として社会に参加・参画することがSDGs学習でありESDなのだ。
SDGsの学び方─協働の学び
SDGsは2015年の国連総会で採択され、2016年から2030年の15年間で達成すべき目標である。2001年から始まるMDGsを含めると20年以上、国際社会の共通目標であり続けたにもかかわらず、日本国内での認知度は著しく低かった。
朝日新聞社は、2017年から毎年SDGsの認知度調査をしているが、2017、18年は2割、2019年でも3割にならず、2020年になってやっと5割近くになっている(朝日新聞「SDGs認知度調査第7回報告」2021年4月21日ネット記事参照)。2020年に認知度が増えた理由の一つに、現行学習指導要領が「持続可能な社会の創り手」の育成を提唱したために、小・中学校の理科や社会科、家庭科をはじめ、各教科にSDGsのロゴが教科書に掲載されるようになり、学習の課題となったことが考えられる。
したがって、まず学校では、①SDGsとは何か、SDGsについて学習することから始まる。教員自身もまずSDGsについて知ることに迫られる。17の目標をカードにし、どんな目標があるのか、世界や社会の課題は、カード(各目標)のどれに該当するか、カード合わせが行われるであろう。子どもたちは、グループで17のカードの意味を知ると同時に、一つの課題にはメインのカードの他にいくつかのカード(目標)も関連していくことに気づくであろう(協働の学び I)。しかしながら、カード学習を進めていくと、何のために学ぶのか、SDGsは誰のためにあるのか、誰がSDGsに取り組んでいるのか、といった②SDGsのために学ぶことの大切さに気づいていく。学校での学習だけではなく、企業やNGO/NPO、都道府県や市町村などのSDGsに取り組む多様なアクターの存在に気づいていくのである(協働の学び II)。そして、地球上の「誰一人取り残さない」だけではなく、地球上の誰もがSDGsに取り組むことができること、一人一人が、③SDGsを通して持続可能な社会の創り手(地球市民)となることの意味に気づいていくであろう(協働の学び III、田中・奈須・藤原編2019:45-60、開発教育協会編2021:11-13)。