特集 SDGsから読む「協働的な学び」
トピック教育課題
2021.11.08
SDGsの授業実践
(1)先駆的事例─埼玉県上尾市立東中学校
SDGs学習の先駆的実践事例としては、埼玉県上尾市立東中学校の「グローバルシティズンシップ科」の実践をあげることができる。2015年〜18年度において文部科学省から4年間の研究開発校の指定を受けた同校の実践は、SDGs認知度が2割に満たない中で、SDGsの学習を通したグローバル市民性(持続可能な社会の創り手)の育成をめざしたものである。学校全体の「総合」(週2時間)の取組として中学校のSDGs学習のあり方、協働の学びの優れた実践事例となっている。上尾東中の実践についてはすでに本誌や他書でも紹介されているので詳細はそちらに譲る(松倉紗野香2019:98-133、同2020:34-37)。
(2)JICA地球ひろばの「国際理解教育/開発教育指導者研修」
JICA地球ひろばでは、これまでも「国際理解教育/開発教育指導者研修」を開催してきたが、2017年から日本国際理解教育学会と協力しながら、国際協力やSDGs学習に関する「現職教員研修」を行っている。全国から毎年20名余の小・中・高等学校の教員の参加があり、夏と冬の2回に分けて宿泊研修(2020年度はリモート開催)を行っている。2020年を例にとると、参加教員はSDGs学習に関する教材研究や学習の進め方についてのアドバイスを得ながら授業単元計画や学習指導案を作成し、勤務する学校で実践したうえで、実践報告を行い、全体の振り返りをするというものである。この教員研修そのものが、PDCAサイクルと教員の協働の学びを前提にしている(JICA地球ひろばウエブサイト)。
ここでは、2020年度の優れた実践例を一つ紹介する。それは、名古屋市立植田東小学校の脇田佐知子氏が発表、報告された実践である(JICA『mundi』2021年4月号参照)。5年生の「総合」の1年間(全45時間)の単元で、「食とわたしたち〜地球的な視野で食について考えよう」である(表1、詳細は参考文献に記載したJICA地球ひろばのウエブサイト参照)。1年間という長期間であるが、SDGsの個別の目標からすれば、目標2「飢餓をゼロに」、目標11「住み続けられるまちづくり」、目標12「つくる責任・つかう責任」に該当するだろうが、カード合わせが目的ではなく、SDGs全体の理念である「循環、共生、公正」にも通じる考え方を読み取ることができる。また、「総合」の「課題設定→情報収集→整理分析→まとめ・表現」の探究学習のサイクルを活用しながら、子供たちの仲間とともに課題解決を探る活動、地域のお店と連携し、つながる学習活動を引き出しているという意味で、SDGs学習を通した協働の学びと言える。
[参考文献]
・朝日新聞「SDGs認知度調査 第7回報告」
https://miraimedia.asahi.com/sdgs_survey07/
・田中治彦・奈須正裕・藤原孝章編『SDGsカリキュラムの創造─ESDから広がる持続可能な未来』学文社、2019年
・開発教育協会編『SDGs学習のつくりかた開発教育実践ハンドブックII』開発教育協会、2021年
・松倉紗野香「埼玉県上尾市立東中学校における実践」田中治彦・奈須正裕・藤原孝章編『SDGsカリキュラムの創造─ESDから広がる持続可能な未来』学文社、2019年、pp.98-133
・松倉紗野香「中学校におけるSDGsの取組の視点と方策」『新教育ライブラリPremier』(Vol.1、SDGsで変えるこれからの学び』)ぎょうせい、2020年、pp.34-37
・JICA地球ひろば「国際理解教育/開発教育指導者研修」開催報告(2020年度後半研修)
https://www.jica.go.jp/hiroba/news/notice/2020/210308.html
(2021年5月1日閲覧)
・「世界につながる教室15研修から授業実践へ国際理解教育/開発教育指導者研修と授業」JICA『mundi』2021年4月号、pp.26-27
Profile
藤原孝章 ふじわら・たかあき
同志社女子大学特任教授、博士(教育文化学)。日本国際理解教育学会前会長、日本シティズンシップ教育学会副会長、専門は社会科・国際系教育のカリキュラムや単元開発、教材開発。主な著書:『グローバル教育の内容編成に関する研究』風間書房、2016年(単著)、『教師と人権教育─公正、多様性、グローバルな連帯のために』明石書店、2018年(共監訳)、『新版シミュレーション教材「ひょうたん島問題」─多文化共生社会ニッポンの学習課題』明石書店、2021年(単著)、『国際理解教育を問い直すー現代的課題への15のアプローチ』明石書店、2021年(共編著)。