キーワードで読み解くVUCA時代のリーダーとは [第2回]鼎談「テクノロジーの指数関数的な変化」

トピック教育課題

2021.11.05

Volatility Uncertainty キーワードで読み解くVUCA時代のリーダーとは
[第2回] 鼎談「テクノロジーの指数関数的な変化」

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.2 2021年6月

VUCAの時代と呼ばれて久しい。変化が速くて不確実で、複雑で曖昧な時代。将来の予測が困難な時代。そうした時代に、ビジネスパーソン、さらにいえばビジネスリーダーは、どう変わっていく必要があるのか。グロービス経営大学院の教員陣による対談形式で答えを探る連載、第2回では「テクノロジー」の変化について考えを深めていきたい。

株式会社グロービス出版局長 嶋田 毅
グロービスAI経営教育研究所所長 鈴木健一
グロービス経営大学院教員 金子浩明

注目すべきテクノロジー

嶋田:今回は、テクノロジーの指数関数的な変化をテーマに、リーダーのあるべき姿について考えていきたい。テクノロジー(技術)と一言でいっても、幅広い領域があり、非常に大きな変化が起こっている。それぞれ専門領域で気になる動きにはどんな点があるか。

鈴木:みなさんにはテクノロジーに触れてワクワクした経験があるだろうか。私の人生の中では大きく2回ある。最初は1993年、インターネットで初めてMosaicというブラウザを見たとき。そして2015年に自分のPCで初めてディープラーニング(人工知能による深層学習)を動かしたとき。この2回は本当にワクワクした。それに比して、最近は技術そのものにそこまでワクワクすることはあまりない。ただ、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ブロックチェーンをはじめとして、技術が与える影響が世の中に浸透しつつあると感じている。

 AIについては、アシスティブ・インテリジェンス(補助的知能)と表現する人もいるように、データとAIを使い、相手や状況に合わせて個別化して問題解決することが当たり前になってきている。そのベースとなっているIoTでは、データが大量に取れることによって、モノ自体がサービス化する可能性がある。アメリカの大統領選挙に見られたように、社会全体から信頼が失われ、民主主義自体が崩壊するといった懸念の中で、信頼をアルゴリズムで培っていくブロックチェーンのような技術に関しては、社会課題を解決してくれそうな期待を持っている。

嶋田:人間の問題解決や考え方そのものが、機械との協業で大きく変わると。

金子:技術の少し手前にある研究の話をしておきたい。今、研究でホットな領域は、米国や中国が中長期的な国家戦略として同時に力を入れている3つの分野。1つ目が量子科学(量子情報科学)。これは様々な産業の基盤になりうる。2つ目がAI、主にディープラーニング、3つ目が先進製造(新しい製造方法と新製品の生産)で、主に半導体関連。製造業は時代遅れと思われがちだが、決してそうではない。ここは日本も強い分野。こうした米中の政治的な動きが、ビジネスの動きにも影響している。

嶋田:バイオ領域では、去年、CRISPR-Cas9(ゲノム編集技術の一つ)がノーベル化学賞を受賞した。以前はDNAの解析に何億円もかかっていたが、今では何万円かで人のDNAが全部読めてしまう。指数関数的な変化が起こっている。技術の進化が、人々の生活に大きな影響をもたらしている。技術の原理を漏れなくおさえることは難しいが、少なくともそれが社会に与える影響は知っておかないといけないだろう。

テクノロジーの正の側面、負の側面

嶋田:技術の進化には、正の側面もあれば負の側面もある。文明の発展というと、基本的には正の側面になるが、未来がすべてバラ色かというと、そうとは限らない。テクノロジーの進化による正の側面と負の側面について、どんな見立てがあるか。

鈴木:格差の拡大は、日々の報道もあり、多くの人が懸念しているのではないか。技術を使って高い生産性で仕事をする人たちは、経済的にも恵まれる一方、技術を活用できない人たちは、経済的に恵まれない状況に置かれる可能性が高くなっている。

 また、「合成の誤謬」(ミクロの視点では正しいことでも、それが合成されたマクロの世界では、意図しない結果が生じることを指す経済学用語)のように、それぞれの企業が合理的な行動をした結果、社会全体として、ある種の不利益が生じることはある。ある程度公的な力、それは政府かもしれないが、関与・介入をする必要があるのではないか。全体としての調和という部分は、私たちの英知が問われていると思う。

金子:テクノロジーの正と負を考えるうえでは、個別化が一つのキーワードになる。よい側面の典型は、個別化医療。遺伝子情報や既往歴も全部開示した上で、本当に効く医療を施すことが可能になる。データを開示したら、個人にとって最適な何かを提供してくれるというメリットがあれば、人は自分のデータを進んで開示する。最適な医療プラン、学習プランやキャリアプランかもしれない。テクノロジーによって、これまで難しかった個別化が加速していく。

 個別化の怖さは、強い人がより強くなっていくこと。今でもビジネスSNSであるリンクトイン(LinkedIn)に登録している人は、素晴らしいキャリアを持っており、包み隠さず自分の経歴を開示している。医療の場合は、個人情報が秘匿され、医療従事者にしか開示されないが、人事情報になるとどうか。すべてがオープンになる世界かもしれない。自信をもって開示できる情報を持っている人はより機会を得ることができるが、情報を開示できないなんらかの理由がある人は同じ土俵に乗ることすら難しくなってしまう。格差の拡大とつながる話だ。

 このようにテクノロジーによって可能となった個別化には正と負の側面があり、われわれはその情報開示と個別化とのバランスの中で、いかに行動するのかを考え続けていく必要に迫られる。

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