キーワードで読み解くVUCA時代のリーダーとは [第2回]鼎談「テクノロジーの指数関数的な変化」

トピック教育課題

2021.11.05

国境を越えたテクノロジーの課題

嶋田:昔から、「科学や技術に国境はないが、科学者や技術者には国境がある」と言われてきた。特にこの何十年かを振り返ってみると、世界はフラット化するどころか、むしろ局所的にはナショナリズムが強くなっている。進化したテクノロジーが広く世界で有効活用されることは夢物語なのか。国境を越えたテクノロジーの役割についてはどう考えるか。

金子:多国間の連携、中規模で問題解決するという意味では、ブダペスト宣言を紹介しておきたい。1999年に国連教育科学文化機関(UNESCO)と国際学術連合会議(ICSU)によって主催された世界科学会議において、「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言」としてブダペスト宣言が発表された。これからは平和のための科学、持続的発展のための科学、そして社会のための科学だと。科学技術は単に経済発展のためだけでなく、環境問題も含めた様々な貢献をしていくという宣言が20年前にされている。

 SDGs(Sustainable Development Goals)に関しても同様に、世界的に「SDGs達成のための科学技術イノベーション」(STI for SDGs)、つまり科学技術イノベーションによってSDGsを解決していこうという指針が掲げられている。いずれも一国のみでの解決は難しい課題ばかりなので、多国間連携が必要になる。なんらかの国連のような枠組みのもとで、われわれは地球市民としての行動を求められている。

 先ほどの「合成の誤謬」とも関連するが、経済学には、「共有地の悲劇」という表現がある。共有地は誰のものでもないため、宇宙ゴミのように皆で汚してしまう。CO2などの環境問題を、多国間協調で解決できるのかどうか。そこで今、科学技術の役割が改めて問われている。明らかに潮目が変わったと感じている。

金子:加えて、安全保障という観点では、中国の脅威がある。中国は国を挙げて製造業に力を入れている。「中国製造2025」という国家戦略で、半導体や電子部品の領域で、部材の7割を内製化していこうとしている。日本が世界シェアトップの分野も多い。内製化すれば、仮に日本や米国との関係が悪化しても、中国での生産を止めずに、スマホでも自動車でも生産しつづけることができる。さらに中国はAIや量子科学技術にも力を入れている。海外で優秀な実績を残した中国系の技術者を、政治の思想信条に関係なく受け入れるという、想像以上の柔軟性がある。これからの技術的な覇権は中国にあり、日本はビジネスパートナーとして、中国の技術動向を常に見ていく必要があるだろう。

嶋田:米国との関係だけでなく、中国との関係が重要になる。これまで以上に慎重な舵取りが必要になっている。

鈴木:安全保障に限らず、自然災害などの危機に対するシナリオの準備にはもっと力を入れるべきだ。日本は事後の対応は優れているが、事前の準備が足りない。テクノロジーを活用した予見、シナリオ準備は企業レベルでも国レベルでも強化していく必要がある。

テクノロジーとの付き合い方、リーダーの役割

嶋田:個人との関係性においてテクノロジーが面白いのは、例えば営業などと違って、経験豊富な先輩が必ずしも明るいわけではないこと。むしろ若い人のほうが最先端の技術をよく知っていたり、その利用に慣れていたりする。逆転現象が起こりやすい。ビジネスリーダーは、テクノロジーや、それを自然と熟知した若い人々とどう付き合っていけばよいか。

金子:テクノロジーについては確かに日進月歩なので、細かい動きまでついていくのは難しい。技術者や研究者であっても、自分の専門外の分野になるとなかなかついていけない。新しい製品やサービスをつくろうと思ったら、1つの技術だけで成立することはないので、隣の技術についても理解する必要がある。

 大事なことは関心を持って理解すること。最先端の研究を進めていくのは、それぞれ専門家に任せつつも、ビジネスリーダーとしてはそれを理解するべき。何がこの技術の限界で、どこまでできるのか、それが分からないと、例えばAIを使ったビジネスといって、AIを魔法の箱のようにブラックボックス化したビジネスプランを作ってしまう。技術の限界が分からないと、思考停止になってしまうので、それを防ぐことが大事。

鈴木:リーダーの役割としては、まずは課題設定。これは人工知能にはできない。そして、やはり人はストーリーがないと動かないので、課題に向けてのストーリーづくり。この2つがリーダーとして大きな役割だと思う。ただし、課題設定にあたって人間は知らないことは知覚できないので、技術について細かいところまで理解する必要はないが、技術によってどんなことが実現可能になっているのかという体感値を持つことは重要。

 逆転現象については、若い人に教えてもらう機会をどんどん活かしてもらいたい。私自身、オフィスで若い人に教えてもらうこともあれば、私が教えることもある。年代や専門で線引きをせずに情報が行き来する環境をつくることが大事だろう。

嶋田:今まで以上に若い人の可能性を信じて任せるべし。リーダーはその場所づくり、土台づくりをしていくことが今まで以上に求められる。

鈴木:ここまで見てきたようにテクノロジーについては変化が激しいので、プリファードネットワークスの創業者たちが言うように「Learn or Die」。死ぬ気で学ぶ姿勢は、リーダーにとっては特に大事だと思う。

嶋田:最後に、日本の組織におけるリーダーの課題は、突き詰めるとどの辺になるのだろうか。

金子:突き詰めると、思想の有無ではないか。思想というと大げさに聞こえるかもしれないが、われわれの生活を明らかに便利にしたインターネットの世界におけるスティーブ・ジョブズ(Apple創業者)は、思想を持っていた。何が思想かというと、Power to the people。1人1人をエンパワーすると、それはいい世の中になる。政府とか大企業が権力を持つのではなく、1人1人が世の中を変えていく。これは、世の中がどうあるべきかという強い思想だ。単に便利なものを創ろうとしたわけではない。

 日本でも、明治の人は国のことを考えながら研究していた。戦後の起業家たちも、貧困の克服のような明確な目標があった。現在でも、米国シリコンバレーの有名な起業家は、考えている世界観が大きい。イーロン・マスク(テスラ、スペースXの創業者)は、「もし地球が滅びても人類が生き残るために火星に人を送るんだ」という。思想があるかないかで、解決しようとする課題の規模が変わってくる。

嶋田:グロービスでいう志を持つということ。

鈴木:テクノロジーから発想すると、大きなインパクトを与えられるような要素はいろいろ出てきている。思想や志の実現可能性が高くなった、よい時代になったともいえる。日本は駄目だと平均的に語るのではなく、日本だからこそできるという着眼で、リーダーから発想を転換して、ロールモデルになってほしい。思想も含めて、よい課題設定をして、よいストーリーをつくってほしい。そこに期待したい。

嶋田:人間は言い訳を探す動物だが、リーダーとしては、思想を持って言い訳せずに何かを生み出すことに邁進していきたいものだ。

〔構成/株式会社グロービス ディレクター 許勢仁美(こせ・めぐみ)〕

 

Profile
嶋田 毅 しまだ・つよし 
 株式会社グロービス出版局長/グロービス経営大学院教員。東京大学理学部卒業、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。著書に『KPI大全』『MBA100の基本』他多数。ナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」や定額制動画学習サービス「グロービス学び放題」へのコンテンツ提供・監修も行っている。

鈴木健一 すずき・けんいち 
 グロービスAI経営教育研究所所長/グロービス経営大学院教員。野村総合研究所、A.T.カーニー社での経営コンサルティングを経て2001年よりグロービス。現在は教員として思考系、テクノベート系科目の科目開発、授業を担当するほか、グロービスAI経営教育研究所(GAiMERi)の所長としてAIを使った次世代の経営教育を創るべく研究開発に時間とエネルギーを使っている。

金子浩明 かねこ・ひろあき
 グロービス経営大学院教員。東京理科大学大学院修了、組織人事コンサルティング会社を経てグロービスへ。企業や研究機関に対して研究開発テーマの社会実装支援を行う。信州大学学術研究・産学官連携推進機構OPERAアドバイザー、科学技術振興機構プログラムマネジャー育成・活躍推進プログラム事業推進委員、国立佐世保高専EDGEキャリアセンターアドバイザー。

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