授業力を鍛える新十二条
授業力を鍛える新十二条[第1回]これからの授業づくりのあり方 第一条:資質・能力ベイスの授業づくりの三つの視点
授業づくりと評価
2019.09.13
授業力を鍛える新十二条
[第1回]これからの授業づくりのあり方
第一条:資質・能力ベイスの授業づくりの三つの視点
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥
新学習指導要領が目指す資質・能力ベイスの授業を創るためには、単元づくりを支える「勘どころ」、教材研究の「知恵」、そして授業コントロールの「技(わざ)」という視点から、改めて教師が授業力を磨くことが期待されている。
授業改革の扉を開ける
授業力を鍛える三つの視点
小中学校の新学習指導要領が告示されて1年が経過し、この4月からは移行期間に入った。いよいよ資質・能力ベイスでのカリキュラム編成を確実に推進していくとともに、日々の授業実践においても新学習指導要領に即してその改善を積極的に進めていくことが期待されている。今回の改訂に基づく授業づくりが目指すことは、授業実践で大切な普遍的な視点である「主体的・対話的で深い学び」の実現である。これは、これまでとは全く異なる指導方法を導入することを求めているのではなく、三つの柱で示された資質・能力をはぐくむために三つの学びの側面から改めて授業を丁寧に創ることを意味しているが、教科指導の質を向上させることを主眼とした「深い学び」等の実現に向けて、単元や題材など内容や時間のまとまりを見通したカリキュラム・マネジメントの質的転換に努めることが期待されている。
新学習指導要領の主旨実現に向けて、いかに資質・能力ベイスの単元デザインや題材構成を行うか(単元づくりを支える〈勘どころ〉)、「見方・考え方」を働かせる学びの文脈をいかに描くか(教材研究の〈知恵〉)、そして三つの柱の資質・能力の育成を図る明示的指導をいかに進めるか(授業コントロールの〈技〉)という三つの視点から授業づくりの省察を行い、これまで伝統的に培われてきた授業づくりのよさを継承しつつも、資質・能力ベイスの授業に期待されていることを明確にして、大胆かつ繊細に授業づくりの新しい時代の扉を開ける準備をしていきたい。
単元づくりを支える〈勘どころ〉
新学習指導要領では育成すべき資質・能力を、学校教育法第30条2項(中学校および高等学校は準用)に沿って「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の三つの柱で整理し、特に「思考力、判断力、表現力等」については、学年ごとに教科内容にグレーディングして位置付けており、そこからは「見方・考え方」の成長の様子を読み取ることができる。まずは、この資質・能力ベイスで示された新しいゴールへ向けて、いか
に単元デザインや題材構成をしていくのかを理解し、それを具体的にイメージすることができるかが肝心である。これがこれからの授業づくりを可能にするか否かを決めることになる。
例えば、新学習指導要領の小学校算数の図形の内容(2年から5年の思考力、判断力、表現力等)では、次のように示されている。
2年 図形を構成する要素に着目し、構成の仕方を考えるとともに、身の回りのものの形を図形として捉えること。
3年 図形を構成する要素に着目し、構成の仕方を考えるとともに、図形の性質を見いだし、身の回りのものの形を図形として捉えること。
4年 図形を構成する要素及びそれらの位置関係に着目し、構成の仕方を考察し図形の性質を見いだすとともに、その性質を基に既習の図形を捉え直すこと。
5年 図形を構成する要素及び図形間の関係に着目し、構成の仕方を考察したり、図形の性質を見いだし、その性質を筋道を立てて考え説明したりすること。
学年が進むにつれて、図形という対象への着眼点は「構成要素」から「構成要素の位置関係」、さらには「図形間の関係」に広がり、アプローチの仕方も「身の回りのものの形を図形として捉える」から「性質を見いだすこと」、さらに「性質を筋道立てて考え説明すること」に深まっていくことがわかる。
下図は3年の「三角形と角」導入の最終板書である。円の2本の直径を組み合わせることでできる三角形の構成要素(辺の長さ)に着目することで三角形の構成について考えることに加えて、二等辺三角形や正三角形の性質を見いだしていこうとしている。このように日々の教科指導で見方・考え方を着実に鍛えていくためには、これまでのカリキュラムを資質・能力ベイスで見直す必要がある。
教科の特質を踏まえて領域や学年、小中接続など校種間までを意識した内容や方法の系統や段階、関連等を吟味・分析した上で新カリキュラムを描く〈勘どころ〉をもつことが大切であり、単元づくりにおいては、「どのような単元や題材を描くのか」ではなく、「なぜ単元や題材を描き変えなければいけないか」を問うことが大切になる。