授業力を鍛える新十二条
授業力を鍛える新十二条[第1回]これからの授業づくりのあり方 第一条:資質・能力ベイスの授業づくりの三つの視点
授業づくりと評価
2019.09.13
教材研究の〈知恵〉
今回の改訂では、深い学びづくりの鍵として「見方・考え方」を働かせることが重要とされている。「見方・考え方」とは、教科等の特質に応じてどのような視点で物事を捉え、どのような考え方で思考していくのかという物事を捉える視点や考え方のことである。また、この「見方・考え方」が、習得・活用・探究という学びの過程の中で働くことを通じて、三つの柱の資質・能力がさらに伸ばされたり、新たな資質・能力が育まれたりし、それによって「見方・考え方」がさらに豊かなものに成長していくという関係にもなっている。
例えば、算数科・数学科においては、事象を数量や図形およびそれらの関係などに着目して捉え、論理的、統合的・発展的に考えることとされているが、対象として何に着眼して、その対象に対してどのようにアプローチするかという教科ならではの関わり方を読み取ることができる。この教科ならではの着眼すべき対象やその内容、対象へのアプローチの仕方などを念頭におくことで、深い学びを意識した授業をデザインしやすくなると同時に、教科を学習する本質的な意義を確認することもできる。つまり、「見方・考え方」を基軸に据えた授業づくりを進めることにより、指導者にとっては「見方・考え方」を意識することで指導が一貫したものになり、また、授業を受ける側の子どもにとっても学び進む方向がはっきりしたものになる。
個別の授業においては、それぞれ違う対象、内容を別々に扱っているわけだが、子どもにとって学びの対象である「問い」に連続性や関連性が見えて、大切な概念、観点が理解できるようになるとともに汎用性のある思考方法、表現方法を活用できるようになり、また、そのような学習の連続の中で知識や技能もばらばらのものではなく、関連したもの、統合されたものとして認識されるようになり、確かな概念へと高まっていくことが期待できる。先の図形の指導では、これまでの学習と同様に繰り返して構成要素に着目して「変わるところ(図形の形状)」と「変わらないところ(辺の等長関係)」を確認することで、図形の性質を見いだすとともにその特徴を的確に表現することを可能にしている。
「見方・考え方」を意識した授業に取り組むことによって、これまでの内容ベイスでの学力はもとより、資質・能力ベイスが重視している「思考力、判断力、表現力等」や「学びに向かう力、人間性等」などの学力もより確かなものになっていくと考えられる。目標設定とその評価における三つの柱の資質・能力と具体的な授業デザインにおける「見方・考え方」が、互いに支え合う互恵的な関係にあることを踏まえて、教材研究を深める〈知恵〉を鍛えながら新たな授業づくりに挑戦していくようにしたい。
授業コントロールの〈技〉
「見方・考え方」は、今回の改訂によって新しく登場したものではなく、これまでも教科の本質を追究する実践においては重視されてきたことであるが、内容ベイスの教育課程においてはそれを位置付けることは少なく、授業で意図的・計画的な文脈の生起に支えられた丁寧な指導への関心も低かった。「見方・考え方」は教科指導の土台を支えるものであり、教科の本質を確実に学び進むために不可欠なことである。その「見方・考え方」を子どもが働かせながら学ぶには、真正で本物の教科学習の場を用意することである。先人先達の文化継承としての教科の役割を意識しながら、社会事象の課題解決の中での生活創造および教科内容を築き上げてきた文化創造等、いずれの文脈においても教科らしい「見方・考え方」を働かせながら学ぶことが大切であり、それによって子ども自らが教科の価値に出合い、それを実感的に納得することを可能にする。
子どもが潜在的に有する「見方・考え方」を、子どもとの対話の中から引き出しながら顕在化させ、教科の本質を追究していくような明示的指導の充実も欠かせない。また、様々な方法によって「見方・考え方」の可視化を図るなどして、表面上異なった対象への関わり方、アプローチの仕方、そしてそれらを支えるアイディアの裏側に共通するものの存在に気付くようにしていくことも要求されている。先の図形の授業でも、形状の異なる図形(三角形)を等長の半径で構成された辺に着目しながら比較できるように視覚的な工夫をしたことで、学習対象へ子ども自らが積極的に関わることを可能にした。個々の事実や知識を統合・包括する概念や、教科ならではの認識や表現の方法などに子どもが関心をもつように、また子どもの経験群の意味する一段抽象度の高い概念や思考をはぐくむように、日々の授業の中で確かな教材研究に支えられた意思決定を繰り返しながら授業をコントロールする〈技〉を磨いていくことが求められている。
「勘」「知恵」「技」を支えるポイント
本稿では、資質・能力ベイスの授業づくりに欠かせない「勘」「知恵」「技」の三つの視点は、上図に示したポイントによって支えられているとした。これらの中には、これまでの授業づくりにおいても大切にされてきたものも含まれているが、新学習指導要領に基づく実践を切り拓いていく授業力として新たにとらえ直して、次号以降でその一つ一つの解釈と具体イメージを紹介していくこととする。
[引用・参考文献]
・文部科学省「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)補足資料 育成を目指す資質・能力の三つの柱」(2016年12月)
・文部科学省「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)別紙1 各教科等の特質に応じた見方・考え方のイメージ」(2016年12月)
・文部科学省「小学校学習指導要領解説 算数編」(2018年3月)
Profile
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥
さいとう・かずや 東京都出身。横浜国立大学大学院教育学研究科修了。横浜市教育委員会授業改善支援課首席指導主事、指導部指導主事室長として「横浜版学習指導要領」策定、横浜型小中一貫教育の企画・推進などに取り組む。平成24年度より横浜市立小学校長を経て平成29年度より現職。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員、小学校におけるカリキュラム・マネジメントの在り方に関する検討会議協力者。主な編・著書に『「数学的に考える力」を育てる授業づくり』(東洋館出版社)、『算数言語活動実践アイディア集』(小学館)、『シリーズ学びの潮流4 しっかり教える授業・本気で任せる授業』(ぎょうせい)、『平成29年改訂 小学校教育課程実践講座 算数』(ぎょうせい)などがある。