特集 知識社会における課題と教師の専門性 学校組織として課題に向き合い、教師を育てる

学校マネジメント

2021.12.09

組織として新たな課題と向き合う

 知識社会においては知識が世の中に溢れており、多種多様なツールやリソースを通じて誰もが情報や知識を得ることができる。学校という組織においても、教師たちが歩んできた道のりは様々であり、それぞれに得手不得手な分野や興味・関心の違いがある。例えばICT活用が得意な教師もいれば、発達支援等の特別支援教育に秀でた教師もいるだろう。知識社会における新たな課題に対応するためには、教師個々人の得意な部分を生かして学校という組織の集団で向き合っていく必要がある。教師一人一人では対応できない課題であっても、学校内で教師同士が相互補完的な関係性を築くことで、解決の糸口が見えてくる。そのためには管理職やミドルリーダーが、時代の進展に応じて学校として向き合うべき課題を明敏に察知し、教員同士が学び合う仕組みづくりを積極的に進めていくことが求められるのである。様々な課題に対応できるような分散型コミュニティを学校の中に組織できることが理想の姿であるといえよう。

 ここで、探究学習に挑戦したある高等学校の事例を挙げる。その高校はいわば進学校であり、専ら受験対策に力を入れてきた学校である。そのような中で、新学習指導要領における総合的な探究の時間に対応するために、管理職が中心となって、学校に探究学習を生み出すための授業改善を目的としたワーキングチームが組織された。チームには、授業の経験が豊富なベテラン教師も含まれていたが、とりわけ中心となったのはミドル世代の教師であった。また、採用間もない若手の教員もチームの構成員として参加していた。進学校において探究学習に挑戦することはそれまで是として進められてきた一斉教授型の授業に大きな転換を迫るものとなり、多くの教師から反発や抵抗を受けるような状況であった。管理職によってチームに選抜されたのは比較的、探究学習に興味や関心のある教師たちであり、若手を中心としたコアメンバーから改革を進めていった。若手を中心としたメンバーは様々な先進校の視察や試行錯誤を重ね、時には管理職やチームメンバーであるベテラン教師の経験に裏付けられた助言も参考としながら、自分たちの学校の状況に沿った探究学習の形を作り上げていった。総合的な探究の時間を中心として取り組んでいった結果として、次第に生徒たちの姿が変わっていき、最初は反発していた他の教師たちも探究学習に対して徐々に関心を持つようになった。最終的にはそれぞれが専門とする教科においても探究の要素を組み込んで授業を展開されるまでに至った。ここでは、探究学習という新たな課題に対して、若手教師の柔軟性と行動力、ベテラン教師の実践知、さらには両者を橋渡しするミドルリーダーの役割が複合的に機能することで、学校組織として向き合っていることがわかる。多様な年代の教師がそれぞれの特徴を生かすことで、課題の解決への糸口を見つけ、最終的には学校全体の学びとして発展していったのである。これからの時代における若手教師はベテラン教師に教えられるのみの存在ではなく、共に課題を追究していく同僚として活躍していくことが求められるとともに、管理職がそれぞれの教師の特徴を踏まえながら、学校組織として課題に向けた方策を講じていくことが、教師の力量を高めていくことに繋がっていくであろう。

教師教育という視点

 前述してきたように、社会との積極的な繋がりによって教師は自身の枠組みを問い直していくことになるが、あくまでも教師の育ちの場は学校であることはいうまでもない。教師の学びは養成段階だけに留まらず、生涯にわたって続けられる営みであり、そのほとんどを過ごす学校というフィールドは子供のみならず教師においても学舎となる。現在ではそれぞれの都道府県の状況に応じて教員育成指標が策定され、教師が自身のキャリアステージに合わせた力の内容を確認できるようになっている。学校で教師が育っていくと考えた際に重要となってくるのは教師教育の視点である。団塊世代の大量退職と、それに伴う大量採用という時代において、学校における年齢構成は歪になっている。そのような状況の中で、学校における教師の成長は喫緊の課題であり、管理職やミドルリーダーを中心とした全ての教師が学校において教師をどのように育てていくのか、また教師はどのように専門性を高めていくのかを感覚ではなく、学問に裏付けられた知見として持たなくてはならないだろう。近年では、このような時代の要請に応えるように教師学や教師教育学の研究が隆盛しており、これまで口伝や職人技として行われてきた教師教育の理論は整理されてきている。先述したドナルド・ショーンも省察的実践者の重要性を主張しただけでなく、省察的実践者をどのように育てるかを著書を通じて論じている。

 これからの学校は多様な課題に対応していくために、学びの専門家としての教師を育てていく責任をより一層自覚し、子供の成長のみならず教師の成長についても研究を深めていかなければならない。また、教師個人には他の教師や子供たちを育てながら自らも学び続けていくことが求められ、実践を省察し、時代の変化と対話し続けることで多様な資質・能力を身につけていく必要があるだろう。

 

 

[参考・引用文献]
・深見俊崇編著『教師のレジリエンスを高めるフレームワーク』北大路書房、2020年
・佐藤学著『専門家として教師を育てる─教師教育改革のグランドデザイン─』岩波書店、2015年
・D.A.ショーン著、柳沢昌一・三輪建二監訳『省察的実践とは何か─プロフェッショナルの行為と思考』鳳書房、2007年
・D.A.ショーン著、柳沢昌一・村田晶子監訳『省察的実践者の教育─プロフェッショナル・スクールの実践と理論』鳳書房、2017年
・ミーケ・ルーネンベルク、ユリエン・デンヘリンク、フレット・A・J・コルトハーヘン著、武田信子・山辺恵理子監訳『専門職としての教師教育者─教師を育てるひとの役割、行動と成長』玉川大学出版部、2017年
・A・ハーグリーブス著、木村優・篠原岳司・秋田喜代美監訳『知識社会の学校と教師─不安定な時代における学び』金子書房、2015年

Profile
藤井 佑介 ふじい・ゆうすけ
 1985年、長崎県生。九州大学大学院人間環境学府博士後期課程単位取得退学。日本学術振興会特別研究員(DC2)、福井大学大学院教育学研究科特命助教を経て、現職。日本イノベーション教育ネットワーク(協力OECD)のリサーチャー等を務める。共著書に『授業の科学と評価』大学教育出版、『授業研究─実践を変え、理論を革新する(ワードマップ)』新曜社、『これからの教師研究─20の事例にみる教師研究方法論─』東京図書等がある。

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