キーワードで読み解くVUCA時代のリーダーとは [第3回] 鼎談「世界の中の日本、地政学から考える」

トピック教育課題

2022.01.11

Volatility Uncertainty キーワードで読み解くVUCA時代のリーダーとは
[第3回] 鼎談「世界の中の日本、地政学から考える」

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.3 2021年8月

VUCAの時代と呼ばれて久しい。変化が速くて不確実で、複雑で曖昧な時代。将来の予測が困難な時代。そうした時代に、ビジネスパーソン、さらにいえばビジネスリーダーは、どう変わっていく必要があるのか。グロービス経営大学院の教員陣による対談形式で答えを探る連載、第3回では「地政学」について考えを深めていきたい。

株式会社グロービス 出版局長 嶋田毅
株式会社グロービス マネジング・ディレクター 高橋亨
株式会社グロービス ディレクター 河尻陽一郎

地政学上の重要なテーマ

嶋田:今回は地政学をテーマに、リーダーのあるべき姿について考えていきたい。地政学は、地理や政治のみならず、人口動態あるいは経済、文化、歴史、宗教など、多面的な知識や視点を必要とする非常に難しい分野。まず最近、特に気になっている領域や動きはどの辺か。

高橋:米国と中国との覇権争いは、日本国あるいは日本人として、もう避けて通れないものになってきたと思っている。米中がぶつかり合うと、米国とソ連との対立時と同様、直接対決だけでなく、周辺でも様々なことが起きてくる。例えば台湾やミャンマーのように、どの地域・国で、どういうかたちで起きてくるかという観点で物事を見ていくことが大事だ。ビジネスパーソンとしては、自分たちのサプライチェーン(ある製品の原材料が生産されてから、最終消費者に届くまでのプロセス)に、どんな影響がありそうかということを把握しておくべき。

河尻:まさに、グローバルのサプライチェーンをマーケットの中と外、両方から見ていく必要性が高まっている。マーケットの中については、例えば半導体のような、自社の主要な部品が安定的に調達できるのかどうかという観点がある。マーケットの外については、最近では人権問題が大きなテーマになっている。どこから調達しているか、どこで製造しているか、それは社会的な倫理に反していないかという世論や報道に晒されることを前提に、継続的に事業ができるかどうかという観点がある。

嶋田:今の時代、人権に代表されるように、SDGs(Sustainable Development Goals)に掲げられているようなテーマを理解して、説明責任を果たせるようにしてかないと、特に先進国においては商売がしづらくなっている。

米中との付き合い方

嶋田:中国はこれからGDPで米国を追い抜いていくような勢いがあり、昔の米ソで言えば、おそらく1950、60年代のような非常に悩ましい時期にあるように思う。今後10年、20年の見立てはあるか。

高橋:中国は今から20年、GDPが伸びていき、2040年ぐらいまでが一番元気がいいだろうと言われている。2040年を過ぎると中国でも高齢化問題が本格化していく。米国としては、これから2040年までの20年間は徹底抗戦していく戦略だと理解している。今からの米中関係は、ちょうど1950年代から70年代ぐらいの米ソ関係に似てくると思う。ただし当時は米国もソ連も成長していたが、今回は中国が非常に成長していく一方、米国はそこまで成長しない。今後、中国側に有利な状況が発生したときに、日本としてはどう立ち居振る舞うべきなのかは、非常に悩ましくなるだろう。

嶋田:中国は、今後の日本を考えていく上で、市場としても重要で、隣国でもある。一方、日本は特に国防、安全保障については米国頼りという背景がある。米中が難しい関係になってきた中で、日本はどういう距離感でそれぞれの国と付き合っていけばよいか。

高橋:米中との関係は、今後、日本の最大の政治課題になるだろう。現在、日系企業で中国に現地法人を持っている会社が約14000社あると言われていて、そのうち6、7割は中国の現地法人が黒字を出している。つまり、既に中国経済の中に組み込まれているし、いい意味で入り込んでいる。これはそう簡単に抜けられるものでもないし、抜けたらお互いに相当なマイナスになる。

 中国の中にも様々な利益団体があって、同じ国の中でも利害関係は必ずしも一致していない。よって、中国という国単位で見るのではなく、中国の中でどういう人たちと、どういう関係で付き合っていくか、複層的な関係を構築することが重要だ。産業界だけでなく、例えばスポーツ、芸術、学術など、違ったセクターでも関係を築いて、単体で考えないことが解決策になっていく。

嶋田:国対国といった単純な見方ではなく、もう少し細かく見ていくといろんな関係性のつくり方はある。

高橋:産業界の中でも業界によってトーンが違うはず。付き合いやすいところはしっかり付き合っていくが、付き合いにくいところは少し注意していくなど、きめ細かな産業政策や外交政策が鍵になるのではないか。

嶋田:日本から中国への進出だけでなく、日本企業の再生に中国資本が入ったり、中国企業が日本の土地を買ったりという流れもある。様々な付き合い方があるところでのバランス感が必要だと。

河尻:世界のパワーバランスを考えると、日本は、非常に重要な位置にある。米国とも中国とも、過去の歴史も含めて深い関係性にあり、この歴史や関係性をうまく使っていけるかどうか。あとは、両国の産業の核となる部分を押さえていく。日本企業が持っているテクノロジーやデバイスが両国の産業を支えている。そこを支え続ける、貢献し続けることで、日本との関係性が重要であるという認識が形成されるはずだ。

嶋田:相手に対して重要な存在になる、力を持つことでいいポジションを築くという発想は大事。特にビジネスの分野で可能性はある。

高橋:あとは、高校生同士とか中学生同士とか若い世代同士の交流をきちんと持っておく。国と国との長期的な関係に影響があると思う。

嶋田:米中の他に、注目している地域や国はあるか。

河尻:南米とアフリカ。多くの日本の企業にこれまでそれほど重視されてこなかった地域。逆にいうとこれから可能性がある地域だと思っている。

嶋田:日本は昔からどうしても欧米、アジアに目がいきがちだが、新しい地域ともっと協調していくべきだと。近年、中国はアフリカにかなり接近している。人口増加率を考慮すると、アフリカの存在感が高まっていくのは明らか。参考になる意見だ。

高橋:グローバルの中で生き抜こうとしている国との連携に興味を持っている。例えば、イスラエル、シンガポール、あと北欧、韓国。グローバルな関係性の中で生き抜こうとしていて、地政学的にも不安定な地域にある国は世界をよく見て仕事をしている。私は辺境国連合と呼んでいるが、そういう国々との連携体制をつくっておくのは、今後の日本にとってメリットがあるのではないか。

嶋田:たしかにイスラエルやシンガポールの振る舞い方は日本にとって参考になる。小国ということもあり、俊敏に動き、非常にイノベーティブなことをやる国でもある。参考になる国と近しくなり、情報ソースとしても活用するというのは非常にいい。

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