令和の時代のカリキュラムデザイン[第4回] 能力べイスの学びを実現するための「組織づくり」「授業づくり」
授業づくりと評価
2022.01.17
令和の時代のカリキュラムデザイン
[第4回] 能力べイスの学びを実現するための「組織づくり」「授業づくり」
高知県南国市立香長中学校長
宮﨑司朗
(『新教育ライブラリ Premier II』Vol.4 2021年11月)
本校は県中央部に位置する教職員45名、生徒数580名が在籍する県内では規模の大きな学校である。生徒会活動や部活動にも生き生きと取り組み、活躍する生徒も多く見られるが、一方で基礎基本の学力の定着が十分ではなく、思考力や表現力に弱さのある生徒も見られる。そうした学力面での課題を改善していくため、平成30年度より県指定「主体的・対話的で深い学びを実現するための実践研究事業」に取り組み、教科会を軸にした授業改善を進め、「全国水準以上の学力を目指す」こと、「学年に応じた家庭学習時間や内容、質を充実させる」ことを学力向上の具体的な到達目標として授業改善に取り組んでいる。以下、本校の組織的な授業づくりの取組について、その概要を紹介する。
3年間の指定である本事業は、1年目は数学科を中心に、2年目は5教科を中心に、そして昨年度は、全教科で新学習指導要領を踏まえた「見方・考え方」を基にした授業づくりが展開されるように実践研究に取り組んだ。
教材研究会と授業研究会を各学期に1セット行いながら、今求められる授業づくりについて、「見方・考え方」を働かせ、生徒に付けるべき資質・能力は何なのかを高知県教育委員会学力向上総括専門官でもある齊藤一弥先生からのご指導をいただきながら研究を進めた。
香長中学校の研究主題は『確かな学力とその基盤となる学級力の育成〜思考を高める授業づくりと学びに向かう学級集団づくりを目指して〜』とし、研究主題に即して、能力べイスの学びを実現するための授業改善とその取組を支える集団づくりに取り組んでおり、取組の視点を「組織づくり」と「授業づくり」の2つに置いた。
組織づくり:『実のある』教科会へ
(1)課題を共有するための教科主任会
管理職の意向や研究体制の大枠や方向性は研究推進委員会で協議、共有され、教科主任会で具体が話し合われる。この教科主任会は、主幹教諭、研究主任、教科主任(7名:音・美・技家は1つの教科会としリーダーが参加)で毎月1回程度実施。「教科をつなぐ」をテーマに、各教科で作成した単元構想の共有や、高知県学力定着状況調査の結果や分析、今後の学力向上への取組など全校の課題を全教科で受け止め対応することを基本姿勢とした。
また、教科主任会では研究授業を実施した教科主任から研修会で学んだことを報告し合い担当教科会へ還元するなど教科間連携も図った。
(2)「タテ持ち」を活かした教科会
国語・社会・数学・理科・英語は週1回、保体・3教科会(音・美・技家)は月1回実施。
以前は授業の進捗管理や情報交換が主だったが、教科主任が計画・運営の中心となり、教科主任会で協議した事項の周知徹底、単元計画の作成、共通教材の検討、学力分析と今後の手立てなど授業改善に焦点化した『実のある』教科会が行われるようになった。また、単元計画の見直しや評価規準や評価方法についても各教科会で協議を深めた。
授業づくり:「カリキュラム・アライメント」をキーワードに
3年間の研究実践の軸を「単元を創る」とし、1年目は数学科、2年目は5教科、3年目から全9教科へと広げ、単元を創る流れを、
1 単元における課題分析
2 単元末で目指す生徒の姿の設定
3 2の実現に向けた単元を構成
とした。特に、「2の実現に向けた単元を構成」を形にすることに重きを置いた。
研究推進のキーワードは、齊藤先生からご教授いただいた「カリキュラム・アライメント」〜教育課程をどうつなげていくか?〜である。本校がこれまで取り組んできた「単元を創る」という過程を理論上、①意図されたカリキュラム、②実施されたカリキュラム、③達成されたカリキュラムの3つに分けて考え、それぞれのカリキュラムを繋げていくことを「カリキュラム・アライメント」の定義とした。
さらに本校では①意図されたカリキュラムを「学習指導要領解説」、②実施されたカリキュラムを「授業」、③達成されたカリキュラムを「生徒の実態」と位置付け、3つを繋げる研究実践に取り組んだ。
①学習指導要領解説から授業への繋がり
学習指導要領解説の読み込みを十分に行ったうえで以下の事項を教科会で協議し単元計画を作成した。
○他学年で学習した同系列の単元との繋がりを確認
○単元を貫く問いの設定
○見方・考え方を成長させる指導を具体化
○生徒自身が既習事項を振り返る場面設定
単元を構成するうえでは小学校で学習した同系列の単元の資質・能力、また高校への繋がりも記載。こうすることで本単元までに生徒がどのような学習をし、その力を本単元にどう生かしていくのかを教師がイメージできるようにした。
単元を貫く問いを設定し、生徒に単元を通して何を学ばせたいのかを明確にすることで、各授業での発問に一貫性を持たせるようにした。
指導案の中に、学習指導要領解説に即した見方・考え方を成長させる指導の具体を示し、それをまとめ・振り返りへと繋げる流れも示すことで、より正確に生徒に力を付けさせることができる。
②授業から生徒の実態への繋がり
ここでは、まず生徒の思考を深める適切な資料の提示・視覚的な分かりやすさを意識した板書を工夫したうえで、生徒がノートに自分の考えを記述する際、根拠の適切さやまとまりを意識するよう指導、評価を行った。
③生徒の実態から学習指導要領解説への繋がり
単元の最後に、生徒自身が単元の振り返りを記述。その記述内容、授業内での評価問題、定期テスト等の結果も活用し、その単元での生徒の実態を把握。
生徒の実態と当初に設定した「単元末で目指す生徒像」を比較・分析し、その単元での課題を確認。確認された課題を解決するために新たに単元を改善・進化させた。
このように、学習指導要領解説・授業・生徒の実態を繋げ1周することで生徒の力を向上させるとともに、教師自身の力も向上させることを企図している。具体的には単元を描く力、教材分析力、授業をコントロールする力の向上である。
指定事業を活用しPDCAサイクルを回しながら、学校全体で授業改善や学びに向かう環境を整えてきた。その成果として次の点が挙げられる。
○「カリキュラム・アライメント」に基づいた単元づくりを全教科で取り組めるようになった。
○「研究推進委員会」→「教科主任会」→「教科会」という組織の流れがしっかりと構築され、全教科、同じベクトルで研究に取り組むことができた。
○各教科会で単元づくり・授業づくり・OJT等、内容の濃い話し合いをすることができた。
○小学校や高校との接続、単元全体や中学校全体を意識した授業づくりについて研究を深化できた。
今年度、1人1台の端末が配備されたことを受け、効果的なICT活用についても各教科で模索中である。今後も研究で定義したカリキュラム・アライメントに基づく単元構成を考えるとともにPDCAサイクルが機能する組織体制を維持し、研究推進委員会、教科主任会、教科会等で若手教員を中心にした学びに向かう授業づくりに取り組んでいきたい。
授業づくりの基本の確認〜カリキュラムの整合性〜
島根県立大学教授 齊藤一弥
筆者が香長中学校の授業改善に関わるようになって5年目になる。当初は数学科の能力ベイスの授業づくりに視点を当てた取組であったが、その後、校内研究の組織づくりと並行しながら複数の教科へ取組の範囲を広げ、生徒に最適な学びの在り方を追究している。今では「目の前の生徒は全教科を学んでいる」という当たり前に向き合い、それが教科間で切磋琢磨しながら授業改善を推し進めていく原動力となっている。
授業づくりは本質的かつ明快である。カリキュラムを「意図(学習指導要領)」「実践(授業)」「達成(生徒の実態)」の三つのフェーズからとらえ、それらの整合性(アライメント)が図られるように丁寧に取り組んでいる。この基本に取り組むようになって、授業づくりは着実に変容している。例えば、「意図」が可視化された教科書の活用の仕方や「実施」としての授業の「意図」に立ち返った分析、さらには「達成」の吟味を踏まえた新たな単元等の設定など、生徒を主体にしたカリキュラムマネジメントの機能の充実が図られるようになってきている。
能力ベイスの学習指導要領の中学校全面実施に合わせて、カリキュラム・アライメントに注視して授業改革を成功させている香長中学校の取組に今後も注目していきたい。
Profile
齊藤 一弥 さいとう・かずや
横浜国立大学大学院修了。横浜市教育委員会首席指導主事、指導部指導主事室長、横浜市立小学校長を経て、平成29年度より高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官、令和3年4月から高知県教育委員会事務局教育課程推進専門官。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員。近著に『数学的な授業を創る』(東洋館出版社)。