講座 子どもを伸ばすこれからの学習評価 Part II [第4回]形成的評価──総括的評価の利用

授業づくりと評価

2022.01.19

講座 子どもを伸ばすこれからの学習評価 Part II
[第4回]形成的評価──総括的評価の利用

一般社団法人教育評価総合研究所 
代表理事 鈴木秀幸

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.4 2021年11月

形成的評価と総括的評価

 言うまでもないことですが、形成的評価と総括的評価は、その機能を異にするものです。形成的評価は学習の向上のための評価、総括的評価は一定期間の学習の成果を要約して示す評価です。そのことから、形成的評価は一定の学習内容の指導の途中で行われる評価、総括的評価は一定の学習内容の指導が終了した時点で行われる評価という特徴が出てきます。

 学習の向上を目指す点では、形成的評価の重要性がもっと認識され、実践研究が行われるべきでした。しかし実際に形成的評価が注目され、本格的な実践研究が行われるようになったのは1998年のP・ブラック等の研究論文以降でした。それまでは、総括的評価の研究や、そのための指導の工夫に長い間力を入れていました。そのような状態が続いたのは、一部の総括的評価はハイ・ステイクスなものとなっていたためです。形成的評価に注目が集まるようになったとはいえ、現在でも総括的評価がハイ・ステイクスなものとなる点は変わっていませんから、生徒も教師もこれを重要と考えています。

 このような総括的評価を重視する状況を考えれば、これを形成的評価として利用することを考えるべきでしょう。今回はその方法について考えます。

総括的評価の実施前の利用

 中間テストや期末テストが近づくと、それまで居眠りしていたり、ボーっとして授業を受けたりしていた中学生・高校生が、注意を集中して授業を受けるようになります。テスト(総括的評価)が生徒の学習に対するモチベーションを高めることは間違いありません。教師がテストの問題について何かヒントを言うのではないか、と期待しているのです。または、授業時間が十分ないと、テスト範囲までは授業を終わらせようとして、教師がテストに出題するような重要事項に絞って授業をすることもあるからです(私もそのようなことがありました)。

 このようなテスト前の、生徒のモチベーションの高まった状態を利用しない手はありません。

(1)昨年のテスト問題を示す
 これは、ちょっと驚くような方法かもしれませんが、効果は抜群です。この中から今年も何題か出題するといえば、もっと効果的です。教師が、何も言わなくても、どの問題はできるが、どの問題はできないと生徒は自分でチェックを始めます。できない問題については、ノートを見たり、教科書や参考書を調べだしたりします。グループを作れば、その中で分からないところをお互いに教えあったりします。もちろんすぐに答えが出ないときは、グループでの話し合いが自然に始まります。特に、解答が容易に見つからない記述式の問題の場合は、活発な意見交換が行われます。そのため、生徒の議論を活発に行わせたいなら、生徒がかなり考えて記述しなければならない問題を出題することを必要とします。

 昨年の問題を示すのはあまりにも行き過ぎだと思われる場合には、手間はかかりますが、過去問ではない問題例を作成して生徒に示し、考えさせるのがよいでしょう。その中から何問か出題されるとか、似たような問題が出ると言うことです。

(2)出題する問題を考えさせる
 これも驚くかもしれませんが、テストに出題する問題を生徒に提案させることです。1人最低1問考えさせます。これもグループを作って、グループの中でどの問題がよさそうか、解答例も考えさせます。話し合いの結果、グループとして1問を提案させることとします。解答例はグループ内でとどめて、授業では公表しないこととします。この提案された問題の中から、1問か2問を出題すると予告し、実際に定期テスト等に用いれば、生徒は問題についても、さらに解答も真剣に考えます。

 但し、どんな問題でもよいというのではなく、次のような条件を付けることが必要です。

・用語や単語で答えるような問題ではないこと

・記述式で、最低30字程度は書かせる問題であること(但し、字数については実際の生徒の状況や教科により、減らしたり、もっと多くしたりします。数学などでは、用いる数学的な考え方を指定することや、理科では用いる反応式を指定することもあります。)

・思考力や判断力、表現力を必要とする問題

総括的評価の実施後

 テストが終わって答案を返却するとき、採点の間違い等を修正するため、教師が正解を言いながら、生徒各人が自分の答案の採点を確認するのが普通です。このときに、用語や単語を解答する問題であれば、正解と誤答の区別は明確です。しかし、記述式の問題については、そのような明確な区分はできません。そこで、記述式の問題についての正解の公表は一旦保留して、生徒にグループを作らせて、記述式の問題の正解を考えさせます。記述式は、ふつう正誤ではなく、一定の点数幅で採点されますから、最高点から0点までの幅があります。

 もちろん生徒の答案は採点されていますから、満点の生徒から0点までありますので、これをヒントに採点基準はどうなっているか考えさせるのです(もちろん教師の方は生徒に説明できるような採点基準を作成しておく必要があります)。ある程度、グループでの話し合いが進んだところを見計らって、教師の方から採点基準を示して、もう一度自分たちが考えた採点基準と比較させます。

 テストは終了しているわけですから、厳密に言えばこのテスト範囲についての形成的評価とはなりません。しかし、このような評価基準について考えることは、自己評価する場合に必要なことです。次の学習では、その学習内容が違うとはいえ、自己評価能力の育成を通じて形成的評価として機能することになります。

 

 

Profile
鈴木 秀幸 すずき・ひでゆき
 一般社団法人教育評価総合研究所代表理事。2000年教育課程審議会「指導要録検討のためのワーキンググループ」専門調査員、2009年中教審教育課程部会「児童生徒の学習評価の在り方に関するワーキンググループ」専門委員、2018年中教審教育課程部会「児童生徒の学習評価の在り方に関するワーキンググループ」専門委員等を歴任。主な著作に『スタンダード準拠評価』(図書文化社)、『新指導要録と「資質・能力」を育む評価』(共著、ぎょうせい)『新しい評価を求めて』(翻訳、論創社)など。

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