特集 教師エージェンシーを導く学習システムの変更

トピック教育課題

2022.01.07

特集 まず“教師エージェンシー” より始めよう 〜 「教える」 から 「学びを起こす」 へ〜
教師エージェンシーを導く学習システムの変更

さいたま市立大宮国際中等教育学校長 
関田 晃

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.3 2021年8月

 生徒エージェンシーを養うには、「教える」から「学びを起こす」へと授業を変革し、生徒にとって最適なアプローチやアセスメントを提供していく必要がある。そのためには、教師に「教師エージェンシー」を身に付けさせることが重要だが、具体的にはどうすればよいのか。一例として本校の取組を紹介する。

生徒エージェンシーの育成を目指す本校の特長

 2019年に開校したばかりの本校では、“VUCA”「予測困難で不確実、複雑で曖昧」と言われる近未来を目前に、「よりよい世界を築くことに貢献する地球人の育成」を目指している。そして、「学校生活のあらゆる機会を通して、未来の学力を備え国際的な視野を持つ生徒の育成」を“学校使命”として掲げている。この“学校使命”を実現するために、本校には次の3つの大きな特長がある。

 ①中等教育学校として、全生徒が6年間の系統的・継続的な学習活動を展開している。
 ②国際バカロレア(IB)のミドル・イヤーズ・プログラム(MYP)認定校として、学ぶ意味を理解し、学び方を学ぶ、課題解決型の探究学習に取り組んでいる。
 ③さいたま市教育が目指す「3つのG」である“Grit” “Growth” “Global”を校訓に掲げ、未知の状況や課題に直面しても臆せず諦めずに取り組み、協働して最適解を導くための力を養うことを企図している。

 こうした特長を有する本校において、生徒に身に付けさせたいと願う「生涯にわたって自ら学び続ける力」や「自分の頭で考え抜き、新しい価値を生み出す力」などの生徒エージェンシー(本校ではこれらを「未来の学力」「真の学力」と呼称する。)を育成するためには、すべての教員が有効な教師エージェンシーを身に付けている必要がある。

 しかし、教師エージェンシーを育成するための特別な研修が、公的な研修プログラムとして提供されていることは少なく、本校においてもOJTの中で試行錯誤しているのが実状である。そして、その中心的な役割を果たしているのは、本校においては特にMYPに基づく探究的な授業と特別活動、そして「3Gプロジェクト」と称する総合的な探究の時間である。本校教員は、教科に関わらず「教え過ぎる」ことなく、あらゆる活動で生徒の主体的かつ自律的な学習をいかに効果的にファシリテートするかに、常に腐心している。紙幅の都合により詳説は避けるので、本校ウェブサイト及びYouTubeチャンネルを参照いただきたい。

生徒と教師のエージェンシーを育てる新学習指導要領

 拙稿をご覧いただいている実践者、とりわけ教員の皆さんは、「自校はIB校ではないしOECDのラーニング・コンパスにも馴染みがなく、生徒エージェンシーの育成など困難だ」とお感じになるかもしれない。しかし、実はIBMYPもOECDラーニング・コンパスも、もはや遠い異国のものではない。それらに貫流する哲学は、今年度から全国すべての中学校で実践が始まった新学習指導要領にたっぷりと注入されており、新学習指導要領の特長である「主体的・対話的で深い学び」は、欧州を始めとする世界的な初中等教育のトレンドと軌を一にするものに他ならない。これが、2019年からIBMYP認定に向けて実践を重ね、ISN2.0(supportedbyOECD)に僅かながらも関わってきた本校としての実感である。

 したがって、先に紹介した本校の取組の特長も、その名を隠して新学習指導要領に基づく取組として説明すれば、矛盾も違和感もなく通用してしまうのである。言い換えれば、IBプログラムを知らなくても、OECDラーニング・コンパスを知らなくても、新学習指導要領を正しく理解して、その指し示す方向を直視して、試行錯誤しながら実践=授業改善していけば、教員には自ずと教師エージェンシーが身に付き、ラーニング・コンパスが指し示す2030年の世界へ向けて生徒エージェンシーを育てていけると考える。

学習システムの変更でマインドセットの転換を

 ただし、そのために絶対に必要な条件がある。教員の「マインドセットの転換」である。我々教員のうち大多数は、自らが生徒であった時には、いわゆる「旧来」の授業しか受けてきていない。個人差を考慮してもなお、「授業とはこういうものだ」という呪縛から、なかなか脱却できない。それは例えば「教師が教える」という呪縛であり、「知識が無ければ探究などできるわけがない」という呪縛である。

 しかし、教員の「マインドセットの転換」の難しさは、「教員の働き方改革」の目玉とされてきた長時間部活動が、なお展開され続けてきたことに端的に現れている。そこに、やれエージェンシーだ、コンピテンシーだと言われ、そのためにはアクティブ・ラーニングだ、「主体的・対話的で深い学び」だと言われても、それらの有意義な概念や実践は、「そうは言っても」という呪文によって、簡単に蔑ろにされてしまうリスクに常に晒されているのである。

 そうならないための「マインドセットの転換」を成すには、思い切った「学習システムの変更」が効果的だと言える。「マインドセットの転換」によって授業改善を図るのではなく、「学習システムの変更」によって「マインドセットの転換」が余儀なくされるように仕向けるのである。本校においては開校時からIBMYPを要とする「学習システムの変更」がその役割を果たしてきたが、例えば千代田区立麹町中学校長として「学校の『当たり前』をやめた」工藤勇一氏(現横浜創英中学・高等学校校長)をはじめ、多くの学校で様々な形で「学習システムの変更」は成されている。無論、それは決して容易なことではないものの、校長としてみれば、もはや「やるか」「やらないか」である。

 

 

Profile
関田 晃 せきた・あきら 
 さいたま市立大宮国際中等教育学校長。埼玉県立高等学校教諭、埼玉県教育委員会管理主事、埼玉県立高等学校教頭兼主任管理主事、さいたま市教育委員会主任管理主事を経て、平成27年に現任校の前身であるさいたま市立大宮西高等学校長に。同校の閉校及び現任校の開校を手掛け、平成31年から現職。令和2年度全国都市立高等学校長会会長。

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