スクールリーダーの資料室

文部科学省

スクールリーダーの資料室 自ら学ぶ力を育てる初等・中等教育の実現に向けて 〜将来を生き抜く力を身に付けるために〜 2019年4月3日 公益社団法人 経済同友会

トピック教育課題

2020.02.19

スクールリーダーの資料室

自ら学ぶ力を育てる初等・中等教育の実現に向けて
〜将来を生き抜く力を身に付けるために〜
201943日 公益社団法人 経済同友会

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.8 2019年12月

I.総論

 技術革新や社会の変化が加速し、予測のつかない未来を生き抜く力を身に付けるためには、人生の早い段階で、自ら学び、学びから得られた知識や経験を社会課題の解決に結びつける習慣をつけることが不可欠である。そうした経験から得られる自信は、多様な他者を受け止める寛容さの基盤でもある。

 一人ひとり異なる子供たちの能力を最大限引き出すための多様な学びを支えるには、テクノロジーの活用と柔軟な教育制度、コミュニティの参画が必要である。教員の自由度が高まれば、これまで以上に教育の本質に真摯に向き合い、子供たちがワクワクするようなカリキュラムを構築・実践できるようになり、学びの質も高まっていく。そうした好循環を構築し持続させるため、ヒト(教員・事務職員等、学校現場に勤務する人々の機能の見直しと要件の再定義、それらに基づく教員評価・研修プログラムの見直し、教育の本質に立ち返った創意工夫を通じて成果を上げた教員等に報いるインセンティブ設計等)、ツール(遠隔授業、デジタル教科書等)、制度(教員免許制度、教科書検定制度、年齢主義から修得主義への転換、行政機構等)、企業・コミュニティの参画促進をはじめとする教育制度の革新が求められている。

 教育制度を取り巻く課題は非常に幅広く、かつ抜本的な改革が必要だが、本提言では、新たな学習指導要領の考え方を早期に実現する観点から、政府等において検討が進められている各種制度および企業が取り組むべきことを中心に、経営者の視点から問題意識を整理した。

II.各論:子供たちの多様な学びを実現するために

 平成元年3月に告示された学習指導要領は、教育課程編成の一般方針として、「学校の教育活動を進めるに当たっては、自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育成を図るとともに、基礎的・基本的な内容の指導を徹底し、個性を生かす教育の充実に努めなければならない」としている。しかしながら、平成の30年間を経て、当該指導要領に基づく教育を受けた社会人が、こうした能力を十分備えているとは言い難い。

 経営者は、自らを育てる能力を有する人材、言い換えれば、①自身の関心・強みを特定し、アプローチを工夫して結果が出るまでやり抜く責任感と意思の強さを持った人材、②加速する技術革新を適切に利活用できる倫理感と社会性を有する人材、③多様性を受け止める寛容さと自身を表現する力を有する人材
―を求めており、企業に所属するか否かに関わらず、将来社会を生き抜く上で、こうした資質・能力がますます重要になると考えている。

 まず、初等・中等教育において、学習内容が身に付いていても付いていなくても、一定の年齢に達すれば進級・卒業していく仕組みでは、自ら学び、課題を解決する方法を模索し、納得のいくまでやり抜く習慣は身に付かないため、小学校高学年以降、年齢主義から修得主義への転換を図るべきである。

 また、高等教育機関の教員養成課程および国・地方公共団体等が実施している教員研修においては、学びと心の両面で子供の成長を育むためのスキル修得を重視することや、学習の個性化を図る観点から、義務教育の外にあるさまざまな選択肢を含め、子供たちの能力を最大限引き出す機会を提示できるような経験に幅のある人材育成を求める。

1.教員養成・研修制度、教員免許制度の抜本改革

 技術革新や社会の変化に伴い、学校教育に対する期待も変化する中、教員に求められる資質・能力も抜本的に変わりつつある。教員養成については、中央教育審議会答申『これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について』(平成27年12月)を踏まえ、教育職員免許法および同施行規則の改正や『教職課程コアカリキュラム』(平成29年11月)の策定等が行われてきた。また、中央教育審議会は、『新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)』(平成31年1月、以下、働き方改革答申)において、教師の養成・免許・採用・研修全般にわたる改善・見直し等について、引き続き検討を行うこととしている。

 初等・中等教育の教員は、子供たちが人生の早い段階で、自ら学び続ける習慣をつける上で非常に重要な役割を果たすことから、文部科学省および各地の教育委員会に対し、以下の改善・見直しを求める。

(1)多様化する社会に対応した教員養成課程・教員研修への見直し

①教員の専門性の再定義
 外国人材の増加や経済格差の拡大等に対応しつつ、子供たちの学びの質を高めるには、教員・事務職員等、学校現場に勤務する人々の機能の見直しが必要である。動画や遠隔授業、AI教材等、コンテンツのイノベーションが進展する中、教員に求められるのは、子供たちがワクワクするようなカリキュラムを構築・実践し一人ひとりの興味・関心を引き出すことや、同級生等とのディスカッションを活性化し、各々が自らゴールを設定し学ぶ習慣を身に付けられるよう導くこと等である。

 学習指導要領の改訂を踏まえ、教育職員免許法施行規則は、各教科の指導法、教育課程の意義及び編成の方法、教育の方法及び技術、道徳の理論及び指導法、総合的な学習の時間の指導法並びに特別活動の指導法においては、アクティブ・ラーニングの視点を取り入れることとしている。しかしながら、各教科の指導法に関し、教職課程コアカリキュラムの示す一般目標は、「学習指導要領に示された当該教科の目標や内容を理解する」および「基礎的な学習指導理論を理解し、具体的な授業場面を想定した授業設計を行う方法を身に付ける」の2点であり、教科を問わず教員に求められる専門性の一つであるファシリテーション・スキルの向上等には重点が置かれていない。

 教員の専門性を早期に再定義するとともに、大括り化した施行規則の科目区分から「教育の方法及び技術」を独立させ、教員が提供すべき最大の付加価値である、学びと心の両面で子供の成長を育むためのスキル修得について、教員養成課程における必要単位のウェイトを高めるべきである。

②教員養成課程・教員研修等への企業インターンシップの導入
 一人ひとりの興味・関心に応じた学びの機会を用意する上で不可欠な「社会に開かれた教育課程」を実現するためには、その核となる教員が、教育現場のみならず、企業を含む社会のさまざまな現場を経験することが有益である。また、教員の働き方改革を着実に進めるためには、学校現場のマネジメント力向上が不可欠である。

 このため、教員養成課程に在籍する学生については、教育職員免許法施行規則を改正し、企業インターンシップについても、学校インターンシップ同様、教育実習の単位として認定可能にすべきである。

 また、現職の教員についても、着実にマネジメント力の向上を図り、また子供たちに多様な選択肢を提示できるよう幅広い経験を積む観点から、教育公務員特例法施行令を改正し、特に校長・副校長・教頭等を目指す教員については、夏休み期間等を活用し、4週間程度の企業インターンシップを経験させることを任命権者に義務づけるべきである。各地経済団体等は、中堅教諭等を含め、インターンシップを希望する教員に対する企業の機会提供を積極的に支援する。

(2)教員免許制度の抜本改革
 加速する技術革新および学習の個性化への対応を進めるためには、幅広い経験と高度な専門性を有する多様な人材が学校運営に参画し、学びの質を向上させる必要がある。先に述べた教員の専門性および教育関係者の役割の再定義を進めると同時に、免許制度や評価制度、インセンティブ設計等も抜本改革する必要がある。

 しかしながら、新たな制度設計と実施には一定の時間を要することから、第一段階としては、特別免許状制度の活用を促進すべきである。具体的には、多様な人材を教育現場に登用するとともに、免許外教科担任にかかる現状を改善するため、2021年度からプログラミングの内容が倍増される中学校の技術および高等学校の情報の分野で同制度の活用を強力に促進すべきである。

 文部科学省は、特別免許状の授与に係る教育職員検定等に関する指針(平成26年6月19日、文部科学省初等中等教育局教職員課)を見直し、現在勤務校が負っている特別免許状所有者の研修計画の立案・実施の責任を都道府県教育委員会が負うこととするとともに、同免許状の授与を受けた後3年以上の学校勤務経験がない者の配置割合の上限を緩和すべきである。企業は、情報および技術における人材供給に積極的に協力する。

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