『学校教育・実践ライブラリ』Vol.9 2019年12月配本 特別活動における「主体的・対話的で深い学び」の推進とは 愛媛大学大学院教授 白松 賢

トピック教育課題

2019.12.25

自己指導能力の育成 自主的・実践的な集団活動③

 学級活動(2)「日常の生活や学習への適応と自己の成長及び健康安全」と(3)「一人一人のキャリア形成と自己実現」では、教師の意図的・計画的な指導のもと、自らの学習や生活の目標を決めて取り組む活動が求められる。伝統的に、これらの活動では自己指導能力の育成が目指されてきた(木原1996)。しかしながら、学級活動(2)(3)については、「しつけや説教の時間」となることで、自己指導能力の育成につながっていないという課題が指摘されてきた(木原1996)。木原の指摘より20数年経た現在でも、「教師の説話」や「学習の感想」で終わっている活動も少なくない。
 この活動では、「問題の発見・確認(原因の追求)」→「解決方法等の話合い」→「解決方法の決定(個人目標の意思決定)」→「決めたことの実践(個人)」→「振り返り」の学習過程が期待されている。近年、社会で成功する上で、「グリット(目標を決めてやり抜く力)」という非認知的能力が話題となった(ダックワース2016)。その意味でも、「なりたい自分」を想像し、自己実現目標を定めたり、生活や学習のめあてを決めたりして、実際に取り組み、振り返ることは、自分を自分で成長させる自己指導能力の育成において極めて重要といえるだろう。
 ただし、学習や生活については、家庭の文化的な影響も強く、子供によっては課題や改善のあり方に気付きにくいという側面があったり、児童生徒の実態に多様性があったりする。そこで重要なことは、「問題の発見・確認(原因の追求)」の段階では、他者との出会いを通じて、互いによりよくなろうとする姿勢を学び合ったり、よりよい生活のあり方を知ったりする「話合い活動」を大切に、指導することである。そして「解決方法等の話合い」→「解決方法の決定(個人目標の意思決定)」では、自分の生活をよりよくするために実施可能な目標を設定したり、他者の目標を参考にしたりしてよりよい目標づくりを意識させることが大切である。
 個人目標の意思決定では、「やらなければならないこと」を目標化している場合や「短所の矯正」に重きがおかれる場合などに留意する必要がある。例えば、「宿題を頑張る」は目標ではなく、やらなければならないことである。また、「忘れ物」は概ね個人の特性や家庭生活に起因するものである。そこで、宿題を忘れる児童生徒であれば、「学校から帰ってすぐに宿題に取り組む」「朝起きて30分間は宿題に取り組む」といった具体的な手立てを目標に含ませるように働きかける必要がある。また「忘れ物の多い」子であれば、すぐに改善できない問題であることも多いため、「朝、連絡帳を見て持って行くものの確認をする」「持って行くもののチェックシートを終わりの会で作る」といった目標にすることも考えられる。一方、生活習慣が整っている児童生徒であっても、「保護者の働きかけ」で受動的にできていることに留意する必要がある。その場合、「自分で決めた時間に起きる」「保護者に言われなくても、家に帰って30分間は学習に取り組む」といった自律に向けた目標づくりの指導が重要な場合もある。自分の立てた目標を実践し、振り返り、改善することを繰り返し実施することにより、自分で自分の生活を向上できるという自己効力感を体感させることが次の活動への動機づけになる。ただし、自己の生活改善を強要したり、過度の「振り返り」による「振り返り疲れ」につながったりしないように、効果的な場面(頻度)や時期を計画しながら、中長期的な目線で児童生徒の成長に関わる姿勢を大切にしなければならない。

主体的・対話的で深い学びの実現に向けた基盤づくり

 本稿では、特別活動における主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善の視点を述べてきた。最後に、特別活動の推進が、各教科等の主体的・対話的で深い学びのための基盤づくりにつながることを付記しておきたい。それは学級(ホームルーム)の状況と学習の関わりの問題である。例えば、「わからないというつぶやき」「授業の中における間違いや失敗」が嘲笑の対象になる学級と、それを支え合ったり、間違いや失敗をもとに議論を深めたりすることのできる学級を比べてみればわかるだろう。平成29年30年改訂において、「学級(ホームルーム)経営の充実」が小学校・中学校・高等学校全ての学習指導要領に示された。このことは、各教科等における「主体的・対話的で深い学びの実現」には、「学級(ホームルーム)」の有り様が深く関わっていることを表すものである。特に今回の改訂では、特別活動(学級活動(1))を通じた「学級(ホームルーム)経営の充実」が強調されている。このことは、「自主的、実践的な集団活動」の推進が、よりよい人間関係の形成や自己実現に寄与し、のびやかで豊かな学びの基盤に寄与することを示している。残念ながら、特別活動においても、様々な課題が散見される。例えば、運動会や体育祭で、運動の苦手な児童生徒をからかったり、勝ちたいがあまり失敗を責めたり、他者をなじったりする姿が見られることもある。特別活動でのびやかで豊かな学びを高めるためには、その基盤として自己と他者を同時に尊重する人権感覚の醸成が必然的に求められることを付記して稿を閉じることとしたい。

[主要引用・参考文献]
•ダックワース・A. 著、神崎朗子訳『やり抜く力 GRIT』ダイヤモンド社、2016年
•木原孝博著『学級活動の理論』教育開発研究所、1996年
•白松賢著『学級経営の教科書』東洋館出版社、2017年

著者 Profile

白松 賢(しらまつ・さとし) 愛媛大学大学院教育学研究科教授
1970年山口県生まれ。学級経営・特別活動、教師教育等を専門に研究。文部科学省「小学校学習指導要領解説特別活動編」「中学校学習指導要領解説 特別活動編」(ともに平成29年)作業協力委員、中央教育審議会教育課程部会 特別活動WG 委員(平成27-28年)等。

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