スクールリーダーの資料室

ライブラリ編集部

スクールリーダーの資料室 昭和26年学習指導要領を読んでみよう(上)

トピック教育課題

2019.10.11

学習指導要領一般編(試案)

昭和26年(1951)改訂版 文部省

Ⅰ 教育の目標

1. 教育の目標を定める原理

 教育は、児童・生徒の成長発達を助成する営みである。したがって教育目標は、児童・生徒の個人的、社会的必要をよく考えて定められねばならない。この必要は、次の三つの点から考えてみることができる。

 第一は、児童・生徒が、生物として本来もっている必要である。たとえば、人間が飢えたときには食物を求める。疲労したときには休息を求める。よく休んだ後には活動を求める。眠いときには眠りを求める。寒ければ暖かさを求める。性的な目ざめが起れば異性を求める。その他人間が生命を維持してゆく上に充足されねばならないいろいろな必要がある。これらの必要を満たそうとするところに人間の活動が生れる。児童・生徒は、これらの生理的な必要を社会的に望ましいしかたで、どのようにして満たしたらよいかを学ばねばならない。この必要は、生物としての人間の分析から発見されるものであって、あらゆる形態の社会に通ずる基本的な必要であるといえる。

 第二は、発達過程における児童・生徒が、その発達に応じて必要とすると考えられる必要である。いいかえれば、児童・生徒みずからが潜在的にもっている必要である。児童・生徒は、全体として人格的に発達しつつあり、そこにいろいろな必要が考えられるが、今かりに、身体的、知的、社会的、情緒的の四つの方面に分けて、これらの必要を考えてみると、およそ次のような必要が考えられる。身体的発達の事実から生ずる必要としては、栄養や運動、適当な休息、身体の清潔、病気や危険に対する保護などが考えられ、知的な発達の事実から生ずる必要としては、各領域にわたる広い深い経験や知的な活動が考えられ、社会的発達の事実から生ずる必要としては、自己を確立するとか、友だち仲間に加わるとか、学校や地域社会の生活、さらに大きくは一般社会生活が有効に営めるとかいった社会的な発達のための助力を必要とする。情緒的発達の事実から生ずる必要としては、美的な経験や安定感・成功感などが与えられることの必要が考えられる。もちろん、ここに分けて述べたこと以外に、人格として円満な発達をし、健全な、力強い、気持のよい人間となるためのいろいろな助力を必要としているといえる。そして、これらの必要の発見は、児童心理学や青年心理学の研究および、教師が直接に児童や生徒を観察して、かれらを理解することによってなされるであろう。

 第三は、児童・生徒は現在および将来の民主的な社会の構成員として、民主的な社会のいろいろな価値や、それを実現する方法を学ぶ必要がある、という場合の必要である。たとえば、児童・生徒は、自己および他人の権利と個性を重んじるとともに、個人に自由が保証されている社会にのみ価値の高い文化が創造されるという考えをもち、それを創造する能力を発達させる必要があるとか、あるいは、自国の伝統と現状について正しい理解をもつとともに、世界平和のために、国際的協調のたいせつなことを理解する必要があるとか、あるいは、民主的原理によって問題を創造的に解決することを最善と考え、そのような実行をすることの必要があるとか、生活上の問題を処理したり、生活を豊かにしたりする技能を身につける必要があるとか、自己や社会の健康を増進するための知識や技能を習得したり、勤労を愛好する態度を養う必要があるとか、といったもろもろの必要が考えられる。これらの必要の発見は、日本国憲法・教育基本法・学校教育法、その他の法規の研究や、さらに現在の社会の動向や問題の考察、社会発達の史的な見通しなどによって得られるであろう。

 最後に述べた児童・生徒の必要は、児童・生徒は、現在および将来の社会の構成員として、知識や技能、あるいは行動のしかたにおいていまだ未熟であり、欠けているから、未熟なものを発達させ、欠けているものを満たして行くべきであると成人が考えるものと一致するから、時に社会の必要とも呼ばれている。しかし、社会の必要という場合、児童・生徒の立場を忘れて、狭い視野からこれを強調する場合は、教育的に望ましくないいわゆる社会的要求を児童・生徒に強制するといったことも起る。社会の必要ということばを用いる場合も、われわれは、常に教育的にこれを考えていく用意を忘れてはならないのである。

 また、児童・生徒の必要の一つとして、児童・生徒の興味や、その時々の欲求や願望を考える人もある。これも教育の目標を考える場合にわれわれが参考とすることはできるが、しかし、これは主として実際指導の場面において、教材の選択や、学習指導法を考える場合にじゅうぶん考慮すべき事がらであると思う。(以下、略)

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