ユーモア詩でつづる学級歳時記

増田修治

ユーモア詩でつづる学級歳時記[第7回]

特別支援教育・生徒指導

2020.10.28

ユーモア詩でつづる学級歳時記[第7回]

白梅学園大学教授 増田修治

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.7 2019年11

笑顔で子どもを育てる秘訣が満載!子どものココロが見えるユーモア詩の世界 親・保護者・教師のための子ども理解ガイド』(ぎょうせい、2020年9月刊)の著者 増田修治氏が、埼玉県の小学校教諭時代から長年取り組んできた「ユーモア詩」。珠玉の75編と増田氏の的を射たアドバイスは、笑いながら子どもの思い・願い・成長が理解でき、今日からの子育て、保育、教育に生かせること請け合いです。ここでは、『学校教育・実践ライブラリ』(2019-2020年)の連載「ユーモア詩でつづる学級歳時記」をご紹介します。(編集部)

■今月の「ユーモア詩」

二小にきて
水谷 邦夫(仮名・3年)

ぼくは
べんきょうができません。
ひらがなもかけません。
みんなは
べんきょうができます。
できるようになりたいけど
なかなかできるように
なりません。
だから学校へ
いきたくない時があります。
ぼくもべんきょうが
できるようになりたいです。
1・2年生の時に
べんきょうができなくて
くやしくて
人をなぐったことがあります。

■2時間もの対話

 邦夫は、私の勤務する第二小学校に二学期から転入してきました。すぐにカッとなって手を出す子でした。「遊ぶときに、友達がすぐに入れてくれなかった」とか「みんなはオレばかり注意する」などと言っては、暴れるのです。相手を殴ったこともあります。

 転入してきて1か月ほども経った10月末に、放課後に時間をとって丁寧に話を聞くことにしたのですが、いつもどおり、暴言やきつい言葉が返ってきます。私は、「君がきつい言葉で言い返したり暴力を振るってしまうのには、どうしても別の理由があるように思うんだけど、どうかな?」と聞いてみました。

 すると、「先生は、僕のことをダメな奴だと思っているでしょう」と言うのです。「どうしてそう思うの?」と聞くと、「だって、3年生にもなって九九もできないし、ひらがなだって忘れちゃうんだよ」と言うのです。「先生は、勉強ができないからって、ダメだとは思わないよ」と言うと、邦夫はポツポツと語り始めたのです。

 「ひらがなが書けないから、イライラする」「みんながだんだん勉強ができるようになっているのに、僕はちっともできるようにならない」「家で役立たずと言われるし、九九もできないバカだから救いようがないと言われる」などと涙を流しながら話してくれたのです。「じゃあ、その気持ちを詩にしてみようね」と言いながら、ゆっくりと聴き取っていきながら2時間かかって出来上がったのが、この詩なのです。

■11月の学級づくり・学級経営のポイント

「褒める教育」だけではなく、「認知能力」を高める教育を

 問題行動を起こす子どもの事例をもとに、たびたび先生方と学習会をします。すると、「いいところを褒める」「自信をつけさせる」「何か役割を与えて自己肯定感を高める」と、判で押したように答えます。俗に言う「褒める教育」です。もちろん、褒めることは悪いことではありません。しかし、こうした低学力の子どもは「認知能力に難がある」ことが多いのです。つまり、反省させようとしても、「何をどう反省していいのか?」が分からないのです。

 邦夫は、勉強が嫌いなのではないのです。やってもできるようにならないという経験を積み重ねていくうちに、あきらめてしまっただけなのです。さらに追い打ちをかけたのが、邦夫の家庭の複雑さでした(家庭で学習に集中できる環境ではない)。

 こうした子どもに対して大事なのは、きちんと学力をつけ、認知能力を高め、みんなに認められることなのです。
 私は、邦夫のことについて、次の詩にあるように、学級で取り組むことにしました。

プロジェクトX 後藤 容司郎(仮名)
 今日クラスで/水谷君の勉強ができないので、
 「水野君学習プロジェクトX」/というきかくを作りました。
 放課後の/「ひらがな」「カタカナ」「九九」などの
 担当をそれぞれ決めて/十分ごとにやります。
 今日やったけど、/すごく大変でした。
 
 子どもは、人に教えることでより分かるようになると同時に、「分からなさを理解する」ことができるようになります。この「分からなさを理解すること」が、子どもの学びになるのです。容司郎は、「すごく大変でした」と言っていますが、こうしたことの繰り返しが思いやりを育て、他者理解の能力を高めるのです。

 このプロジェクトXと私の個人指導の双方によって、邦夫もクラスのみんなも変わっていきました。邦夫は基礎学力がみるみる向上し、トラブルを起こさなくなると同時に、クラスのみんなへの感謝の気持ちをもつようになりました。また、クラスのみんなは、邦夫への理解を深めていき、仲間として迎え入れるようになりました。

 それにしても、1・2年生の担任の先生が、邦夫のイライラ感の原因が「勉強ができるようになりたい」という願いであることに気が付けば、邦夫はこんなに苦しまなくてもすんだのです。プリントをたくさんやらせるのではなく、一人ひとりの分かり方に合わせて教えてあげることが大切なのです。大人になって問題を起こす人の生育歴を調べると、小学校2年生くらいから勉強についていけなくなり、友達からバカにされたり、イジメに遭ったり、先生から不真面目と言われていたとのこと。学校は、「子どもの将来に関わる大事な仕事なのだ」と心に刻んでほしいのです。

 

Profile
増田修治 ますだ・しゅうじ
1980年埼玉大学教育学部卒。子育てや教育にもっとユーモアを!と提唱し、小学校でユーモア詩の実践にチャレンジ。メディアからも注目され、『徹子の部屋』にも出演。著書に『話を聞いてよ。お父さん!比べないでね、お母さん!』『笑って伸ばす子どもの力』(主婦の友社)、『ユーモアいっぱい!小学生の笑える話』(PHP研究所)、『子どもが伸びる!親のユーモア練習帳』(新紀元社)、『「ホンネ」が響き合う教室』(ミネルヴァ書房)他多数。

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白梅学園大学教授

1980年埼玉大学教育学部卒。子育てや教育にもっとユーモアを!と提唱し、小学校でユーモア詩の実践にチャレンジ。メディアからも注目され、『徹子の部屋』にも出演。著書に『話を聞いてよ。お父さん!比べないでね、お母さん!』『笑って伸ばす子どもの力』(主婦の友社)、『ユーモアいっぱい!小学生の笑える話』(PHP研究所)、『子どもが伸びる!親のユーモア練習帳』(新紀元社)、『「ホンネ」が響き合う教室』(ミネルヴァ書房)他多数。

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