やってはいけない外国語の授業あれこれ
やってはいけない外国語の授業あれこれ[第2回] テストで何を見る?テストを再考する
トピック教育課題
2020.10.23
やってはいけない外国語の授業あれこれ[第2回]
テストで何を見る?テストを再考する
大阪樟蔭女子大学教授
菅 正隆
(『新教育ライブラリ Premier』Vol.2 2020年8月)
1.テストの現状
教員が普段実施している英語のテストの中には目を覆いたくなるものが数多く見受けられる。英語のテストといいながら、単なる記憶力のテストになっているものから、日本語のテストになっているものまで、目に余るものが平然と行われている。そこで、今回は“ダメダメテスト”を再考してみる。
2.テストとは何か
テストは、どのようなポイントで作成し、どのような点を見取るべきなのか、今一度確認したい。
基本的には、テストとは指導計画の中にある到達目標において、子供個々が、どの位置(程度)まで到達しているかを判断するエビデンスである。これにより、以後の指導の資料としたり、支援の指針としたりすべきものである。テストをして終わりというわけではない。そして、到達目標の根本となるものが学習指導要領の目標である。最終的に、この目標に到達させるために、日々授業を行い、子供たちの到達度をテストで確認しながら、次の段階に進めるのである。また、目標を達成するためには、少なくとも授業の中で「言語活動」を行い、資質・能力を伸長させていくことが求められる。そして、この「言語活動」の中で、コミュニケーションを図る資質・能力がどの程度まで到達しているかを見取るテスト(パフォーマンステスト)を行う必要がある。これが、いわゆるPDCAサイクルのCの部分である。
3.どのようなテストで行うべきか
テストと聞けば、誰もがペーパーテストを想像する。しかし、先に述べた学習指導要領にある、「言語活動」を通してテストを行う必要性もある。例えば、「話すことができる」と到達目標を定めた場合、ペーパーテストで資質・能力を判断することは困難である。つまり、到達目標とテストとの一体性も必要になってくる。では、どのようなテストがあるか、学習指導要領を基に考えると次のようになる(カッコ内は、主に取り扱う領域)。
(1)ペーパーテスト(読むこと、書くこと)
(2)パフォーマンステスト(読むこと[音読]、話すこと[やり取り、発表]、書くこと)
(3)リスニングテスト(聞くこと)
(4)インタビューテスト(聞くこと、話すこと[やり取り])など
以上から、さまざまな領域を網羅できるのは、パフォーマンステストである。具体的には、音読(教科書や教材の音読)、発表(インターラクション、スキット、スピーチ、ショー・アンド・テル、プレゼンテーション、演劇)、作品(手紙、掲示物、レポート、小論文)などである。
4.ひどいテストの典型
そもそも、テストとは、授業で学習したことについて、知識・技能の定着度を計ったり、それらを活用して思考・判断・表現が育成されているかを判断、評価したりするものである。しかし、中にはとんでもないテストも存在する。どのようなものか例示したい。
●やってはいけない外国語のテスト
□(1)穴ぼこ、下線だらけのテスト問題(ペーパーテスト)
次のテストを見る。
【問題】次の( )に適切な語を入れ、下線部を日本語に訳しなさい。
Which do you eat( ① )breakfast, rice or bread?
More than 40 percent( ② )Japanese people eat bread. Why do so many( ② )us choose to eat bread( ① )breakfast.
これは、( )に正しい語を入れることができない子供に、さらに追い打ちをかけるように下線部を訳させている、悪い例である。しかも、適切な語を入れることができないとしても、授業で学習した日本語を記憶していれば下線部は訳すことができることになる。まさにこれは記憶力のテストであって、真の英語力を問う問題にはなっていない。英文を日本語に訳させたり、重箱の隅をつついたりするような問題は悪しき過去の慣習であり、ここから脱皮する必要がある。英語の文章(空欄や下線部の無い英文)などから、全体を読み取ることで思考力、判断力、表現力を評価しない限り、真の英語力は計れない。
□(2)記憶力テスト(パフォーマンステスト)
次のスキットを子供たちに暗記させて実演させるテストを行うこととする。
A: May I help you?
B: Yes. I want apples.
A: How many apples do you want?
B: Three apples.
A: OK. Here you are.
B: Thank you.
テストとして、このような表現をペアで発表させているのをよく目にする。これでは、単に自分のパートを暗記して、相手に配慮することなく勝手に自分のパートだけを話す子供が続出することになる。これは、思考・判断・表現を伴わない、単なる記憶力テストであって、今子供たちがこれらを活用できるようにはならない。
そこで、相手が何と言ってくるのか分からない状況をつくり、臨機応変に表現できるかを見取るテストにしなければならない。例えば、以下のスキットにする。
A: May I help you?
B: Yes. I want( ).
A: How many( )do you want?
B:( )( ),please.
A: OK.( )( ).Here you are.
B: Thank you.
Bの( )に自由に言葉を入れさせて会話をさせると、聞き手Aは、相手が言う言葉に集中し、自らもその言葉を使っていかなければならない。しかも、ペアの相手は事前に子供たちには知らせず、直前に指名することで臨機応変さや聞くことや話すことについて判断することができる。
□(3)日本語のテスト(ペーパーテスト→インタビューテスト)
英語のテストというより日本語のテストになっている例も多く見られる。例えば、
【問題】次の文を日本語に訳しなさい。
How do you say gohan in English?
ここでは、英文を日本語で理解できているかを確認しているが、実はこれは、先にも述べた記憶力テストとなっており、日本語で考え日本語で理解することから、結果的に日本語のテストとなっている。この表現の定着度を確認したいのであれば、子供に直接インタビューして、答えられるかどうかで判断すればよい。
□(4)不可解なテスト(ペーパーテスト)
かつて、ある県の入試問題に次のようなものあった。
【問題】「そのニュースは私を幸せにした。」を英語にしなさい。
これはSVOCの第5文型、The news made me happy. と書かせる問題と考えられるが、あまりにもこの日本語が不自然すぎて気持ちが悪い。このように文法中心でテスト問題を作ると、英語と日本との不具合が生じる。これらを繰り返すことから、自然な英語が身に付かないのである。「私はそのニュースを聞いて幸せだった」を The news made me happy. と書くことができるようになる指導が必要なのである。
Profile
菅 正隆(かん・まさたか)
岩手県北上市生まれ。大阪府立高校教諭、大阪府教育委員会指導主事、大阪府教育センター主任指導主事、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官並びに国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官を経て現職。調査官時代には小学校外国語活動の導入、学習指導要領作成等を行う。