シリーズ・学びを変える新しい学習評価

ぎょうせい

【新刊紹介】2017年版学習指導要領の学力論―『シリーズ・学びを変える新しい学習評価 理論・実践編1 資質・能力の育成と新しい学習評価』より

授業づくりと評価

2019.12.17

(株)ぎょうせいはこのほど、新しい指導要録にもとづく学習評価が、新学習指導要領の完全実施と同じく、小学校は2020年度、中学校は2021年度スタートすることを受け、『2019年改訂指導要録対応 シリーズ・学びを変える新しい学習評価』(全5巻)を一斉刊行いたしました。

ここでは、特に『シリーズ・学びを変える新しい学習評価 理論・実践編1 資質・能力の育成と新しい学習評価』「第2章 中教審答申・学習指導要領からみる学力論の拡張」(35-38頁)から内容の一部を抜粋してお届けいたします。(編集部)

 

第2章 中教審答申・学習指導要領からみる学力論の拡張
第3節 2017年版学習指導要領の学力論

(1)三つの視点と学力の三層構造

 資質・能力の三つの柱へと至る我が国の議論の経緯を振り返りながら、2017年版学習指導要領の学力論について考えてみたい。
 資質・能力への注目は、1996年に提起された「生きる力」の中にすでに認めることができるが、「次期学習指導要領に向けての基礎的な資料を得ること」を明記して本格的討を進めたのは、2012年12月に文部科学省内に設置された「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」である。検討会は2014年3月に「論点整理(主なポイント)」を公表し、「現在の学習指導要領に定められている各教科等の教育目標・内容を以下の三つの視点で分析した上で、学習指導要領の構造の中で適切に位置付け直したり、その意義を明確に示したりすることについて検討すべき」とした。
 ア)教科等を横断する汎用的なスキル(コンピテンシー)等に関わるもの
  ①  汎用的なスキル等としては、例えば、問題解決、論理的思考、コミュニケーション、意欲など
  ② メタ認知(自己調整や内省、批判的思考等を可能にするもの)
 イ)教科等の本質に関わるもの(教科等ならではの見方・考え方など)
 ウ)教科等に固有の知識や個別スキルに関するもの
 これらは、単に検討すべき視点が三つ存在することを示す以上に、学力をこのような三層構造で考えるという新たな視座を提供したものと解釈することができる。
 歴史的に見ても、ア)の汎用的スキルとウ)の領域固有知識は、「問題解決力の育成が本質で、知識はその手段に過ぎない」とする経験主義的な立場と、「まずは知識を教えなければ、そもそも考えることすらできない」とする系統主義的な立場の間の論争を典型として、「あれかこれか」の対立図式で議論されがちであった。これに対し上記の三層構造では、イ)の教科等の本質を仲立ちとすることで、二元論的解釈に陥りがちなア)とウ)を有機的に統合し、調和的に実現する教育が明確にイメージされている。
 それぞれの教科等で指導しているいかなる領域固有知識も、元を正せば、その教科等ならではの見方・考え方に基づく探究や議論から析出してきたに違いない。したがって、一見すると多岐にわたる膨大な領域固有知識も、その教科等の本質との関わりにおいて、必ずや体系的・統合的に把握できるはずである。また、教科等の本質との関わりを意識することで、個々の知識に関する理解も深まり、結果的に定着もよくなるであろう。
 一方、汎用的スキルには、いわゆる思考スキルのような、特定の教科や領域にあまり依存しないものもたしかにある。その一方で、ある教科等の見方・考え方が、当初の領域や対象を超えて他の領域や対象に適用される場合も多い。自然の事物・現象をよりよく探究するために発展してきた近代科学の方法や原理は理科の中で体系的に指導されるが、それを社会事象や人間の理解に適用するというのは、その代表的なものである。
 このような理解に立つ時、水と油の関係に見えたア)の汎用的スキルとウ)の領域固有知識は、イ)の教科等の本質を仲立ちとして有機的に結びつき、三者が全体として調和的な一つの学力構造をなしうることが見えてくる。

(2)資質・能力の三つの柱

 その後、2014年11月に文部科学大臣から中央教育審議会への諮問があり、学習指導要領の改訂作業がスタートした。約2年間の議論を経て、2016年12月21日、中央教育審議会は答申を公表する。そして、2017年3月より順次、学習指導要領が告示されてきた。
 中央教育審議会での検討は、もちろん先の検討会の議論を踏まえて行われたが、結果的に学習指導要領は、その学力論の表現として資質・能力の三つの柱を選択する。
 三つの視点と三つの柱は、イメージする学力論それ自体に大きな違いはない。では、なぜこうも違ってくるのか。学力論とはいわば立体的な構造物であるから、その表現に際しては、何らかの角度でスライスして見せる必要がある。三つの視点と三つの柱では、同じ学力という構造物をどの角度から切って見せるか、その切断面の角度が違うのである。
 三つの柱を生み出す角度が選択された最大の理由は、学校教育法30条2項に規定された、いわゆる「学力の三要素」、すなわち「基礎的・基本的な知識・技能」「知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」との整合性であろう。もちろん、それ自体は極めて妥当な判断である。また、先に示したように、同様の整理はOECDや世界各国の学力構造論でも提起されている。つまり、資質・能力の三つの柱は、目下における学力論のグローバル・スタンダードとも言える構造を採用しており、妥当性の高いよくできた学力モデルと言えよう。
 では、改めて三つの視点と三つの柱の関係を見てみよう(図)。三つの視点の「ア)教科等を横断する汎用的なスキル(コンピテンシー)等に関わるもの」は、メタ認知をも含めた、認知的・情意的・社会的なすべての汎用的スキルを含み込む。さらに、明示こそされていないが、価値や態度に関わる学力要素もここに位置付くと解釈できよう。
 これに対し、三つの柱の「思考力、判断力、表現力等」には、主に認知的な汎用的スキルが、「学びに向かう力、人間性等」には、情意的・社会的なスキルに加えて、価値や態度に関わる学力要素が位置付くと考えられる。つまり、三つの視点と三つの柱は、この部分について、ほぼ1対2の関係でそれぞれ整理されていると解釈しうる。

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