シリーズ・学びを変える新しい学習評価
【新刊紹介】2017年版学習指導要領の学力論―『シリーズ・学びを変える新しい学習評価 理論・実践編1 資質・能力の育成と新しい学習評価』より
授業づくりと評価
2019.12.17
一方、三つの視点の「ウ)教科等に固有の知識や個別スキルに関するもの」は、三つの柱の「知識及び技能」ときれいに対応している。
かくして、三つの視点の側においてのみ、「イ)教科等の本質に関わるもの(教科等ならではの見方・考え方など)」が残る。学習指導要領では、これを「各教科等の特質に応じた見方・考え方」という新たな概念として三つの柱とは別建てにし、各教科等の目標の中に記載するなどして、明確に学力論の中に位置付けた。
2017年版学習指導要領では、各教科等の目標の記述様式が大幅に刷新された。具体的な表現は各教科等により微妙に異なるが、基本的な構造としては、まず第1の文において、各教科等の特質に応じた「見方・考えを働かせ、○○な活動を通して、△△する(のに必要な)資質・能力を次の通り育成することを目指す」と宣言される。そして、その後に⑴〜⑶として、資質・能力の三つの柱に基づき、知識及び技能、思考力、判断力、表現力等、学びに向かう力、人間性等に関する具体的な記述が列挙されている。
つまり、三つの視点における「イ)教科等の本質に関わるもの(教科等ならではの見方・考え方など)」から姿を変えた「各教科等の特質に応じた見方・考え方」を働かせた学習活動を通して、資質・能力の三つの柱を育成するという構造になっているのである。このように、2017年版学習指導要領の学力論、そして目標論は、学校教育法の規定等との整合性を確保しつつ、三つの視点が示した学力の三層構造の理念を発展的に継承していると言えよう。
(3)現実の問題解決に資する学力を目指して
以上見てきたように、資質・能力の三つの柱は、単に学力を構成する要素が並列的に三つあると理解されるべきではない。「各教科等の特質に応じた見方・考え方」を仲立ちとして三つの柱が構造的に結び付き、その着実な育成を通して、生涯にわたる洗練された問題解決の実行に必要十分なトータルとしての「有能さ」を徐々に高めていくと解釈することが重要である。答申でも、子どもたちに育まれる資質・能力が現実の問題解決に資する質のものとなるよう、従来に比べ、より動的で幅広いものとして描かれている。
まず、知識及び技能については、「個別の事実的な知識のみを指すものではなく、それらが相互に関連付けられ、さらに社会の中で生きて働く知識となるものを含む」(答申、p.28)とされた。また、そのために、「子供たちが学ぶ過程の中で、新しい知識が、既に持っている知識や経験と結び付けられることにより、各教科等における学習内容の本質的な理解に関わる主要な概念として習得され、そうした概念がさらに、社会生活において活用されるものとなることが重要である」(答申、p.29脚注60)と指摘されている。
思考力、判断力、表現力等についても、「物事の中から問題を見いだし、その問題を定義し解決の方向性を決定し、解決方法を探して計画を立て、結果を予測しながら実行し、振り返って次の問題発見・解決につなげていく」(答申、p.30)など、実際の問題解決過程に即した形で、その育成がイメージされている点に注目したい。思考力や判断力を汎用的認知スキルと呼ぶことがあるが、数多くの特殊具体的な問題解決過程でさまざまに思考を巡らせ判断を下した経験を足場に、そこに共通する有効なアプローチや着眼点の存在に気付く中で、認知スキルは徐々にその汎用性を高めていく。
情意に関わる学力側面としては、従来の「関心・意欲・態度」からその意味合いを大幅に拡張した「学びに向かう力、人間性等」という表現が用いられたこと自体がそもそも画期的である。そこでは、まずもって情意や態度が認知的な学習の手段や前提条件に留まるものではなく、それ自体が育成すべき重要な学力であるとの認識が大切である。また、感情や行動の自己調整を典型として意志の働きを強調すると共に、「自らの思考の過程等を客観的に捉える力など、いわゆる『メタ認知』に関するもの」(答申、p.30)をも含むことが明記された。さらに、「多様性を尊重する態度と互いのよさを生かして協働する力、持続可能な社会づくりに向けた態度」(答申、p.31)など、学習指導要領前文でいう「持続可能な社会の創り手」を強く意識したものとなっている点にも大いに注目したい。
(奈須正裕)