スクールリーダーの資料室
スクールリーダーの資料室 「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)〔抜粋〕
トピック教育課題
2021.06.07
スクールリーダーの資料室
●「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜(答申)〔抜粋〕
令和3年1月26日 中央教育審議会
(『新教育ライブラリ Premier』Vol.6 2021年3月)
第Ⅰ部 総論
3. 2020年代を通じて実現すべき「令和の日本型学校教育」の姿
〔中略〕
○ 誰一人取り残すことのない、持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現に向け、学習指導要領前文において「持続可能な社会の創り手」を求める我が国を含めた世界全体で、SDGs(持続可能な開発目標)に取り組んでいる中で、ツールとしてのICTを基盤としつつ、日本型学校教育を発展させ、2020年代を通じて実現を目指す学校教育を「令和の日本型学校教育」と名付け、まずその姿を以下のとおり描くことで、目指すべき方向性を社会と共有することとしたい。
(1)子供の学び
○ 我が国ではこれまでも、学習指導要領において、子供の興味・関心を生かした自主的、主体的な学習が促されるよう工夫することを求めるなど、「個に応じた指導」が重視されてきた。
○ 平成28年答申においては、子供たちの現状を踏まえれば、子供一人一人の興味や関心、発達や学習の課題等を踏まえ、それぞれの個性に応じた学びを引き出し、一人一人の資質・能力を高めていくことが重要であり、各学校が行う進路指導や生徒指導、学習指導等についても、子供一人一人の発達を支え、資質・能力を育成するという観点からその意義を捉え直し、充実を図っていくことが必要であるとされている。また、特に新学習指導要領では、「個に応じた指導」を一層重視する必要があるとされている。
○ 同答申を踏まえて改訂された学習指導要領の総則「第4 児童(生徒)の発達の支援」の中では、児童生徒が、基礎的・基本的な知識及び技能の習得も含め、学習内容を確実に身に付けることができるよう、児童生徒や学校の実態に応じ、個別学習やグループ別学習、繰り返し学習、学習内容の習熟の程度に応じた学習、児童生徒の興味・関心等に応じた課題学習、補充的な学習や発展的な学習などの学習活動を取り入れることや、教師間の協力による指導体制を確保することなど、指導方法や指導体制の工夫改善により、「個に応じた指導」の充実を図ることについて示された。また、その際、各学校において、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え、これらを適切に活用した学習活動の充実を図ることについても示された。
○ 現在、GIGAスクール構想により学校のICT環境が急速に整備されており、今後はこの新たなICT環境を活用するとともに、少人数によるきめ細かな指導体制の整備を進め、「個に応じた指導」を充実していくことが重要である。
○ その際、平成28年答申において示されているとおり、基礎的・基本的な知識・技能の習得が重要であることは言うまでもないが、思考力・判断力・表現力等や学びに向かう力等こそ、家庭の経済事情など、子供を取り巻く環境を背景とした差が生まれやすい能力であるとの指摘もあることに留意が必要である。「主体的・対話的で深い学び」を実現し、学びの動機付けや幅広い資質・能力の育成に向けた効果的な取組を展開していくことによって、学校教育が個々の家庭の経済事情等に左右されることなく、子供たちに必要な力を育んでいくことが求められる。
同答申を踏まえて改訂された学習指導要領の総則「第3 教育課程の実施と学習評価」の中で、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善について示された。
○ 新型コロナウイルス感染症の感染拡大による臨時休業の長期化により、多様な子供一人一人が自立した学習者として学び続けていけるようになっているか、という点が改めて焦点化されたところであり、これからの学校教育においては、子供がICTも活用しながら自ら学習を調整しながら学んでいくことができるよう、「個に応じた指導」を充実することが必要である。この「個に応じた指導」の在り方を、より具体的に示すと以下のとおりである。
○ 全ての子供に基礎的・基本的な知識・技能を確実に習得させ、思考力・判断力・表現力等や、自ら学習を調整しながら粘り強く学習に取り組む態度等を育成するためには、教師が支援の必要な子供により重点的な指導を行うことなどで効果的な指導を実現することや、子供一人一人の特性や学習進度、学習到達度等に応じ、指導方法・教材や学習時間等の柔軟な提供・設定を行うことなどの「指導の個別化」が必要である。
○ 基礎的・基本的な知識・技能等や、言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力等を土台として、幼児期からの様々な場を通じての体験活動から得た子供の興味・関心・キャリア形成の方向性等に応じ、探究において課題の設定、情報の収集、整理・分析、まとめ・表現を行う等、教師が子供一人一人に応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供することで、子供自身が学習が最適となるよう調整する「学習の個性化」も必要である。
○ 以上の「指導の個別化」と「学習の個性化」を教師視点から整理した概念が「個に応じた指導」であり、この「個に応じた指導」を学習者視点から整理した概念が「個別最適な学び」である。
○ これからの学校においては、子供が「個別最適な学び」を進められるよう、教師が専門職としての知見を活用し、子供の実態に応じて、学習内容の確実な定着を図る観点や、その理解を深め、広げる学習を充実させる観点から、カリキュラム・マネジメントの充実・強化を図るとともに、これまで以上に子供の成長やつまずき、悩みなどの理解に努め、個々の興味・関心・意欲等を踏まえてきめ細かく指導・支援することや、子供が自らの学習の状況を把握し、主体的に学習を調整することができるよう促していくことが求められる。
○ その際、ICTの活用により、学習履歴(スタディ・ログ)や生徒指導上のデータ、健康診断情報等を蓄積・分析・利活用することや、教師の負担を軽減することが重要である。また、データの取扱いに関し、配慮すべき事項等を含めて専門的な検討を進めていくことも必要である。
○ 子供がICTを日常的に活用することにより、自ら見通しを立てたり、学習の状況を把握し、新たな学習方法を見いだしたり、自ら学び直しや発展的な学習を行いやすくなったりする等の効果が生まれることが期待される。
国においては、このような学習者やICT活用の視点を盛り込んだ「個別最適な学び」に関する指導事例を収集し、周知することが必要である。
○ さらに、「個別最適な学び」が「孤立した学び」に陥らないよう、これまでも「日本型学校教育」において重視されてきた、探究的な学習や体験活動などを通じ、子供同士で、あるいは地域の方々をはじめ多様な他者と協働しながら、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、様々な社会的な変化を乗り越え、持続可能な社会の創り手となることができるよう、必要な資質・能力を育成する「協働的な学び」を充実することも重要である。
○ 「協働的な学び」においては、集団の中で個が埋没してしまうことがないよう、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善につなげ、子供一人一人のよい点や可能性を生かすことで、異なる考え方が組み合わさり、よりよい学びを生み出していくようにすることが大切である。「協働的な学び」において、同じ空間で時間を共にすることで、お互いの感性や考え方等に触れ刺激し合うことの重要性について改めて認識する必要がある。人間同士のリアルな関係づくりは社会を形成していく上で不可欠であり、知・徳・体を一体的に育むためには、教師と子供の関わり合いや子供同士の関わり合い、自分の感覚や行為を通して理解する実習・実験、地域社会での体験活動、専門家との交流など、様々な場面でリアルな体験を通じて学ぶことの重要性が、AI技術が高度に発達するSociety5.0時代にこそ一層高まるものである。
○ また、「協働的な学び」は、同一学年・学級はもとより、異学年間の学びや他の学校の子供との学び合いなども含むものである。知・徳・体を一体で育む「日本型学校教育」のよさを生かし、学校行事や児童会(生徒会)活動等を含め学校における様々な活動の中で異学年間の交流の機会を充実することで、子供が自らのこれまでの成長を振り返り、将来への展望を培うとともに、自己肯定感を育むなどの取組も大切である。
○ さらに、ICTの活用により、子供一人一人が自分のペースを大事にしながら共同で作成・編集等を行う活動や、多様な意見を共有しつつ合意形成を図る活動など、「協働的な学び」もまた発展させることができる。ICTを利用して空間的・時間的制約を緩和することによって、遠隔地の専門家とつないだ授業や他の学校・地域や海外との交流など、今までできなかった学習活動も可能となることから、その新たな可能性を「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善に生かしていくことが求められる。
○ 学校における授業づくりに当たっては、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の要素が組み合わさって実現されていくことが多いと考えられる。各学校においては、教科等の特質に応じ、地域・学校や児童生徒の実情を踏まえながら、授業の中で「個別最適な学び」の成果を「協働的な学び」に生かし、更にその成果を「個別最適な学び」に還元するなど、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実し、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善につなげていくことが必要である。その際、家庭や地域の協力も得ながら人的・物的な体制を整え、教育活動を展開していくことも重要である。
国においては、このような「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実の重要性について、関係者の理解を広げていくことが大切である。
○ したがって、目指すべき「令和の日本型学校教育」の姿を「全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現」とする。
○ 以上のことを踏まえ、各学校段階において以下のような学びの姿が実現することを目指す。