「学校」とは「学び」とは「生きる」とは何かを、今、考える
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2021.09.03
「学校」とは「学び」とは「生きる」とは何かを、今、考える
(株)steAm 代表取締役
中島さち子
(『新教育ライブラリ Premier II』Vol.1 2021年4月)
躍動的創造的な学びを発信
21世紀は唯一の正解がない時代だからこそ創造性の民主化時代であり共創の時代となる。21世紀の学校は、時や場や立場の境界を飛び越え、一人ひとりが多様な未来の創り手としての喜びや自信、ワクワクドキドキを育む場となる……そこでは、日本が世界に躍動的創造的な学びを発信し、つなげていくことができる。私はそう信じ、期待しています。
20世紀後半に現れたインターネットは、世界をつなぎ、各々の受発信の可能性を飛躍的に拡張させ、開いたコミュニケーションの場を21世紀に次々と出現させました。SNSもYouTubeもスマホも21世紀になって現れましたが、もはや多くの人々の生活にとって当たり前のものとなり、さまざまなオープンソースの学びや情報が共有され、人々は情報を受け取るだけでなく、自由に多様に発信し表現し共創できる社会となりつつあります。学問や芸術や産業も、20世紀に多くの新しい分野やジャンルが生まれました(ジャズもロックも20世紀に誕生)が、21世紀に入り、多くのイノベーションや最先端研究や深い表現は分野を大きくまたぎ、通底する何かを探す旅の中から生まれています。これは、職業や立場によらず、地球上のありとあらゆる場で生まれている現象です。だからこそ、「学び」や「学校」「職業」……あらゆる概念の本質が今、問い直されています。
プログラミング教育
1960年代頃よりMIT(シーモア・パパート他)などからプログラミングと教育を掛け合わせたプログラミング教育の概念が生まれました。これは構築主義(Constructionism/Learning by Making:構築する・作る体験により学ぶ)の思想に基づいており、こどもたちが“コンピュータさん”に何かを教える試行錯誤を通じて(先生はその学びの旅路をサポートする。教え方は全面的には教えない)学ぶというものです。知は、一方的に受け取るよりは、誰かに教える過程を通じてより深い理解やメタ認知が育まれます。21世紀の今では、プログラミングに限らず、人や自然やモノやコンピュータさんAIさんとのコミュニケーションの方法が爆発的に多様に生まれています。また、自分なりに考えたコンセプトの下で試行錯誤する方が、多様な個性が溢れ、自分ごととして本気になる……問いそのものが揺らぐ21世紀において、問いや世界を見る視点を自分なりに生み出す力(アート力)は本当に大切です。
同時に、コロナの問題をはじめ、世界はいまだ多くの課題に溢れています。21世紀の学びを考える際、最初におさえておきたいことは、さまざまな不安や恐怖はあって当然ということ、そして今までの学校や先生としての知恵や経験の価値はむしろ今こそ高まるということです。激しい変化の中、いろんな人が時にいろんな不安を持つのは当然であり、まず、私たちはそうした弱さを互いに認め合い、受け止め合う所から始める必要がある。ただし、知らないこと経験したことがないことは恥ずべきことでは全くない。今の時代、人より早いか遅いかは問題ではなく、唯一の正解もない。むしろ、答えがない問いに対して議論し自分の頭や心で考え感じる力、そして問いそのものを自ら打ち立てる力が大事です。そして、自ら立てた問いやコンセプトをきちんと現実世界の解決案にまで具体的に深掘りして可能ならば形作りまで試行してみることが、今はできる。それは、情報を調べてまとめて発表する、ということより一歩進んだ探究の旅路です。でも、もしかしたら本当に世界を変えられるかもしれない、今まで諦めていたりお金で購入したりしていたものが自分たちの手でデザインし創り解決できるかもしれない……ということは、大きなワクワクドキドキに繋がります。その具体への一歩は、科学や技術、ものづくり(エンジニアリング)、数学などを通じて深く刻まれるもの。こうした創造の過程の中で、従来の科目の知の価値は一層高まり、教科の意義に立ち返ることになります。ワクワクを中心に、創ると知るが循環する。20世紀の延長上に、21世紀の「今」が躍動します。
STEM教育
オバマ元大統領は、STEM教育(Science:科学、Technology:技術、Engineering:エンジニアリング、Mathematics:数学などを横断する、創造的実践的な探究)を推進する際、こどもたちに「ゲームをするだけでなく創る側にまわれ。君にはできない、と誰にも言わせるな!……未来を創るのは君たちだ」と言います。そして、絵を描く・歌を歌うという意味を遥かに超えて、世界をどう見るかという自分なりの新しい視点を打ち出すアート力(Art)、さらに社会や歴史などを踏まえたリベラルアーツ(Arts)を加えたSTEAMでは、科学や数学を学ぶこと以上に、「科学者や数学者のように考え、エンジニアやアーティストのように作る」ことが求められています。
文部科学省・経済産業省は探究やアクティブ・ラーニング、STEAMなどさまざまな言葉を用いて新しい学びのあり方を模索し提示しています。私たち一人ひとりが、言葉の「奥」にある本質や想いを俯瞰して見て考えて、私たちなりの思想と具体を改めて打ち立てることが今、求められている。わからなければ聞く。やったことがなければ、誰かの力を借りてやってみる。人よりゆっくりならば、自分なりのペースで何度も体験する。不安があれば安心できる場で誰かにそっと相談する。多様なあり方を認める。そうした環境をこどもたちに創るためには、まず先生たちがそうした文化・環境を構築する必要があります。どこにも答えも正しいルールも転がっていない時代だからこそ、一人ひとりが本質を問い直し、試行錯誤しながら自らの心と頭で感じ考え、自らの好きや専門性を大事にしながらも、自らの枠を超えてメタ視点で点と点を繋いで(異なる教科や学校も繋いで、企業や地域も大学も繋いで、学年も時に飛び越えて)掛け算をする。それが、まさに未来の学校を生み出す大きな一歩になる。日本中、世界中のあちこちでそうした一歩が生まれ、一歩と一歩が掛けあわさって線や面や立体になっていくことを祈っていると同時に、これを読んでいる貴方といつか出会い、一緒に、一人ひとりの中に豊かに眠る創造性や可能性をワクワク引き出し、多様な共創を促すための仕組み作りを模索できることを心から願い、楽しみにしています。
[参考文献]
●経済産業省STEAMライブラリー:https://www.steam-library.go.jp/
●OCW(MIT全授業公開)日本語版Asuka Academy:https://www.asuka-academy.com/mit/index.html
●MOOCS:Coursera他 例):https://www.coursera.org/
Profile
中島 さち子 なかじま・さちこ
(株)steAm代表取締役(音楽家・数学研究者・STEAM教育者)。大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー。内閣府STEM Girls Ambassador。国際数学オリンピック金メダリスト。音楽数学教育と共にアート&テクノロジーの研究も進める。