リーダーのためのマナーアップ講座
リーダーのためのマナーアップ講座[第4回]傾聴力でビジネス力UP
トピック教育課題
2021.01.26
リーダーのためのマナーアップ講座[第4回]
傾聴力でビジネス力UP
人財育成トレーナー
美月 あきこ
(『新教育ライブラリ Premier』Vol.4 2020年11月)
聞く姿勢を持つクレーマー
以前、とある大企業でビジネスマナーに関する講演をしたときのこと。ご出席をいただいた約100人の方々の多くが、メモを取るなどして熱心に私の話を聴いてくださりましたが、その中にお一人、難しい顔をされている方が目につきました。100人を相手に話をしていると、一人一人の顔まで認識できないようでいて、実はその逆で、よくわかるものなのです。
その講演が終わった数日後のことです。オフィスに、私宛の電話がかかってきました。電話の相手は、その大企業での講演に参加してくださった方でした。私の脳裏に、すぐさま、難しい顔をされていた方が浮かびました。確認はできませんでしたが、おそらく、その方で間違いないでしょう。
電話の内容を要約すると、「自分が知っている知識とは異なることを話していたので、合点がいかない」というものでした。いわゆる、クレームです。
クレームといえば、怒鳴り散らされたり、泣きわめかれたり……というのが常ですが、その方の態度はまったく違いました。
感情的な物言いは一切なく、常に冷静で落ち着いており、15分程度の電話のうち、7割くらいが私の話を先方が聞いてくださる、というものでした。
「聞く力」のことを、「傾聴力」といいます。クレーム対応には、この傾聴力が必要なのですが、むしろ先方の方が傾聴力をお持ちだったのです。このようなクレームは初めてだったので、驚きました。
「聴いてくれる」ビジネスエリート
私がファーストクラスのお客様から学んだ、ビジネスエリートのコミュニケーション術は様々にありますが、中でも、傾聴力に優れていた方が多かった印象が強いです。
私が働いていた頃の航空会社が使用していた機材は「B747シリーズ」と呼ばれる、大型ジャンボジェットでした。大量輸送時代で、ファーストクラスも今のように仕切りのある個室タイプではなく、オープンなスペースに座席が並んでいました。すると、お客様同士での語らいがあり、CAを交えた会話がありという、ちょっとした社交場になっていました。
CAは、くつろいでいらっしゃるお客様のお邪魔にならないよう、余計な会話はしませんが、お客様から会話を持ちかけられたら、喜んでお話をさせていただきます。この時、CAはお話を聴く側に回るべきなのですが、ファーストクラスのお客様は傾聴力に優れているため、ついついCAの方からいろいろとお話をさせていただいていました。
話し方には、二通りあります。一つは、「その話をしばらく聴きたくなる話し方」。もう一つは、「今すぐに話を聞くのをやめたくなる話し方」です。つまり、話し方が上手いか下手か、ということです。
ファーストクラスのお客様のように、相手に「ずっと会話をご一緒したい」と思わせる方の特徴は、「その話をしばらく聴きたくなる話し方」ができているか、傾聴力があるかです。
傾聴力の四つのポイント
スピーチ教室に通ったことのある方ならおわかりかと思いますが、話し上手になるためには熟練を要します。ですが、傾聴力なら、少し意識をして練習をするだけで、習慣化することができます。
傾聴力が身に付けば、話を聞いてもらいたい人たちが集まってきます。人間は、基本的に自分の話を聞いてもらいたい生き物なのです。集まってきた人の話を聞くことを繰り返すうちに、より一層聞き上手になっていき、傾聴力がアップしていく......というスパイラルができあがります。
では、傾聴力を身に付けるために、具体的にどのような点を意識すれば良いか、ご紹介しましょう。ポイントは四つです。
一つ目は、「相手の目を見ること」。二つ目は、「身体をやや前傾させること」。三つ目は、「多様な相槌と頷きを、的確なタイミングで入れること」。四つ目は、「話題に応じて、表情豊かに反応すること」です。
これら、四つのポイントを通じて、先方に対し、「あなたに興味を持っていますよ」ということを伝えます。先方は、興味を持ってもらえていることを嬉しく感じます。すると、ますます自分の話を聞いてもらいたくなり、さらに話をしてくる、というわけです。
傾聴力が身に付くと、様々な情報が集まってきます。中には、本来なら企業がお金を払って買っているような情報もあるでしょう。経営者やビジネスパーソンが傾聴力を身に付け、社交に力を入れるのは、情報収集を目的としている側面が強いです。
偉くなるほど傾聴力
偉くなるほど、歳をとるほどに、人の話を聞かなくなる傾向にあります。自分の経験値で語ろうとする人が、とても多いです。
そういう意味でも、傾聴力を身に付けておくことは、経営者やビジネスパーソンにとって必要不可欠といえるでしょう。
日本では、ユーモアセンスについてあまり語られませんが、偉くなればなるほど、周囲をリラックスさせる配慮が大切になります。
周囲は、地位や肩書きを見ています。自分よりも偉い人に対しては、「自分の話を聞いてもらうなんて申し訳ない……」と萎縮しがちです。
ファーストクラスのお客様のように、相手をリラックスさせ、前記の四つのポイントを意識しながら、あなたの傾聴力を発揮してください。
あなたに対する信頼感は、どんどん増していくはずです。経営者やビジネスパーソンとしての成長が、そこにあります。
Profile
美月 あきこ(みづき・あきこ)
人財育成トレーナー
大学卒業後、日本航空入社。国際線客室乗務員として17年間国際線に乗務。人財育成トレーナーとして接客研修・コンサルティング業務に携わる。
著書にベストセラーとなった『ファーストクラスに乗る人のシンプルな習慣』『1分でうちとけ30分以上会話が続く話し方』『15秒で口説く エレベーターピッチの達人』など、韓国、中国、台湾、シンガポールなどで翻訳語版を多数出版。
All About ビジネスマナーガイド。日本経済新聞『マナーのツボ』連載。