第2特集 理科から始める新課程 科学することの面白さを伝える授業づくり

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2021.07.22

第2特集 理科から始める新課程
科学することの面白さを伝える授業づくり

武庫川女子大学准教授 
藤本勇二

『新教育ライブラリ Premier』Vol.6 2021年3月

今ない幸せをつくる子ども

 ミシン販売員、タイピスト、場立人、才取人。これらは、平成の間に消えた職業であると言う1。社会は大きく流動化している。2011年入学児童の65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就く2と言われ、予測できない変化がやってくることだけが予測されている。AIの急激な進展によって、多くの仕事がAIに取って代わられる、奪われるという悲観的な論調もある。

 しかしながら子どもたちの未来は、それほど悲観的なのであろうか。視覚障害をもつ人のためのスマート白杖「We WALK Smart Cane」のように、今はない幸せを子どもたちがAIによって形にしてくれるであろう。

 今ない幸せを確実に実現できる力を育てることが教育に課せられた課題である。学習指導要領の改訂において「答えのない課題に対して、多様な他者と協働しながら目的に応じた納得解を見いだしたりすることができる」3と人間の強みを規定し、それを最大限に発揮できるよう育成すべき学力が「資質・能力」であると明確にしているのはその証拠であろう。

 

[注]
1 中島ゆき「国勢調査から消えた『平成の職業』」立正大学地域構想研究所研究レポート、2018年
2 Cathy Davidson、2011年
3 中央教育審議会「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」2016年

有能な学び手としての子ども観に立った理科の授業づくり

 理科は、学びの主語である子どものことよりも、内容を教えることが優先されやすい。子どもにとっての科学との出合い、一人一人のかかわりとその違いを大切にした授業づくりが「資質・能力」育成の土台となる。なぜなら子どもは、身の回りの環境への固有のかかわりを通して、事物・現象に関する個別的理解を深めていく。それを繰り返しながら環境に対してより意味のあるかかわり方を身に付けていく。本来そうした主体的な存在が子どもの本質なのである。

 理科の授業づくりにおいても、子どもの学ぶ力を信頼した授業づくり、子どもの一人一人の違いを足場にした対話的な授業づくりをめざしたい。

実験をデザインする資質・能力を育てる

 写真1は、辻川暁教諭(芦屋市立小学校)の4年生「空気の温まり方」の授業の板書である。

 授業検討会の場で出された意見が、実験の精度の問題であった。むろん安全への配慮や内容の確実な獲得のために精度の高い実験は必要である。しかしながら精度だけを求め、それだけで実験をやらされている中では、主体性も対話も、深い学びも生まれてこない。主体的に学習に取り組む態度とは、「自らの学習状況を把握し,学習の進め方について試行錯誤するなど自らの学習を調整しながら,学ぼうとしているか」4の言葉どおり、科学する人になるためには、実験を計画し、その全過程に責任をもつことである。児童の発想を大切にした実験を構想し、その結果を踏まえてもう一度自分の学びを精査する、そうした資質・能力を育成する理科の授業づくりが必要となる。

 

[注]
4 国立教育政策研究所『学習評価の在り方ハンドブック(小・中学校編)』2019年

子どもの多様さを生かして対話的に学ぶ

 子どもの有能性を大切にすれば、一人一人の学びに価値があり、その違いを足場に対話することでより深い学びにつながることは明白である。その際に対話を引き出すために形態を工夫したり、協同学習の手法を取り入れたりすることはよくあるが、対話が必要となる問題意識を引き出さないで形態だけを変えるだけでは個人が責任を果たさない対話となる。

 写真2は、中西徳久教諭(西宮市立小学校)の6年生「ものが燃えるとき」での対話の場面である。底なし集気びんを使った4つの実験について、ジグソー法を取り入れた話し合いを構成した。ジグソー法とは、協同学習を促すために編み出された学習法(Aronson,E.ら、1978)である。ものの燃え方と空気の働きを明らかにするという共通の課題に対して一人一人の考えを出し合い、合意しながら解決する活動を通して、価値ある自分を発見することができるのである。

 「資質・能力」を基盤とした教育を推進する拠り所は、子どもの有能な学び手としての子ども観にある。未来をつくる資質・能力を育成するために子どもを主語にした理科の授業をより進めていきたい。

 

 

Profile
藤本 勇二 ふじもと・ゆうじ
 1962年徳島県生まれ。徳島県内小学校教員後、武庫川女子大学文学部教育学科専任講師を経て、現職。ワークショップを取り入れた授業づくりや総合的な学習の時間と連携させた理科授業の開発、ESDのためのカリキュラム開発に取り組んでいる。文部科学省「環境教育指導資料」作成委員、環境省認定環境カウンセラー。著書に『小学校学習指導要領の解説と展開 総合的な学習編』(教育出版)、『ワークショップでつくる食の授業アイディア集』(全国学校給食協会)など。

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特集:AI時代を生き抜く子供を育てる

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