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特集 AI時代を生き抜く子供を育てる AI時代に使いこなす科学的思考力・活用力

NEWトピック教育課題

2021.07.20

特集 AI時代を生き抜く子供を育てる
AI時代に使いこなす科学的思考力・活用力

國學院大學准教授
寺本 貴啓

『新教育ライブラリ Premier』Vol.6 2021年3月

時代によって変わりつつある“学力観”

 “社会に出て求められる人”は、問題に直面した際に様々な観点から判断し、その問題に対して適切に対処できる「問題解決能力を備えている人」、物事をより便利にしたり豊かにしたりするために新しいことを発想する「創造性のある人」、周囲の状況から自分がどのように動くべきか判断できる「思慮分別がある人」、人と人をつないだり周囲を明るくしたりするような「人間関係を円滑に進められる人」、自ら目的達成のために最後まで取り組もうとする「主体的で諦めない人」などであると考えている。しかし学校教育では、勉強ができることが重視され、決められた学習範囲において多くの情報を知っており、必要に応じてその情報を抽出し、うまく活用することができる人を“賢い人”と呼んでいることが多い。

 この“社会に出て求められる人”と“賢い人”は同じといってよいのだろうか。言い方を変えれば、学校教育は社会に出て求められる人を育てるために、どのように寄与しているといえるのだろうか。

 ここ十数年で私たちの生活が大きく変化した。例えば、パソコンや携帯電話を取り巻く変化。仕事上でも必要な資料のやりとりも郵便やFAXではなく、メール等で一瞬のうちに送受信することが可能になった。スマートフォンが普及し、単に文字や音声だけを伝えていた時代から、小学生でも写真や動画に記録したり様々な情報を検索したりする時代になった。これからのGIGAスクール時代では、私たちがスマホやタブレットを使いこなしているように、自分のタブレットをインターネットにつなぎ、文具の一つとして、これまでの紙中心の教育ではできなかったタブレットならではの機能を使うようになるだろう。

 これまでの学校教育では、たくさんの本を読んで知識を増やしていく(記憶する)ことが重視されてきた。我々の世代においても、“学力”と呼ばれているものは思考力が大切と言われていたものの、実際には“知識の量”が重視されていたのではないだろうか。

 しかしこれからの時代は、知識として覚えていなくても多くの情報は検索することができる。そのため、一定程度の知識が必要であるものの、たくさんの情報(知識)の中から目的を達成するために必要な情報や信頼できる情報を抽出し、それらを活用していく思考力や情報活用能力、判断力の方が大切になってくるといえる。

 このような学力観の変化への重要性については、近年の学校教育の指針においても指摘されている。例えば、新しい学習指導要領では、これからのAI時代では学校において獲得する“知識の意味”に大きな変化をもたらすのではないかと述べられている。そして、未来社会を切り拓くために資質・能力を整理し、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」のバランスの重要性について述べられている。また、『「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現〜(答申)』(令和3年1月26日)においても、今回直面した新型コロナウイルス感染症の状況からもわかるように「予測困難な時代」において対応できる力や、Society5.0時代による社会の在り方の変化への対応の重要性が指摘されている。

 一方、令和3年1月、学力観の変化が端的にわかることがあった。大学のセンター試験から共通テストに変わり、暗記で解決できるような問題の形式から思考力が必要な問題形式へと変化したことである。理科でいえば、「知識を問う問題」から「資料を読み取り考察する問題」が増えたのである。大学入試が思考力を求める問題へとシフトしたことで、他の校種でもこの傾向がさらに進み、学校教育での指導方法の再検討が求められることになる。

 このように、近年の環境の変化や、求められる人材像から考えた際には、これまで学校教育で重視してきた知識の量を重視した学力観から、変化が激しい時代でも自ら判断し対応できるように、思考を重視した学力観への変化が求められているといえよう。

日常に活用できることが重要

 近年の学力観として、独立した知識を積み重ねるというより、複数の知識を活用したり組み合わせたりして日常生活のある場面で活用できることが重視されているといえる。例えば、平成27年度実施の全国学力・学習状況調査(小学校理科)の問題を例に挙げる。この問題は、「インゲンマメとヒマワリの種をどの場所にまくと、成長するまで両方に日光が当たるか」という日常場面を想定したものである。

 この問題を解くには、①植物の成長には太陽光が必要であること(5年で学習)、②インゲンマメよりヒマワリが高く伸びること(生活科で学習:今回は問題の中のグラフから判断できる)、③太陽は南側にあること(3年で学習)、④太陽光を物で遮ると影ができること(3年で学習)、の知識が必要で、これらの知識を組み合わせて「背の低いインゲンマメを南側に植える」という「4」の解答を導き出すことになる。

 また、今年に改訂された小学校理科の教科書においても、掲載するコラムや練習問題で、日常生活と関連させる情報を増やし、問題も日常場面を想定して解決を求めるものが増加している。

 このような傾向は、先に述べた共通テストでも見ることができ、これまでのセンター試験と比べて、様々な教科で日常の様々な場面で実践的に活用できるかを問う出題傾向が強くなっている。

 これらの事例からもわかるように、小学校から大学まで、単に知識の暗記・再生を問うのではなく、日常の場面で活用できることや、複数の知識を組み合わせて思考することが重視されているといえる。

“確からしさ”を高める科学的思考力

 科学的思考力とは、実証性、再現性、客観性などの条件を確認し、信頼性や妥当性を吟味していく力である。

 実証性とは、自然の事物・現象を科学的に検証する際に、「これから、このことを調べたい」という“問題”に対して、「このような結果になるのではないか」という“仮説”をもち、観察や実験を通して検証することが可能であることを意味する。科学的にみていくためには、観察や実験を通して検証が可能なものでなければならないため、実証性を確認する必要がある。

 再現性とは、自然の事物・現象を科学的に検証した場合、同じ条件であれば誰が行っても同じ結果が導かれることを意味する。科学的にみていくためには、毎回違った結果が出るようでは判断ができないため、再現性を確認する必要がある。

 客観性とは、検証した結果や結論が事実に基づいており、誰がみても納得することを意味する。科学的にみていくためには、一部の人の価値観や感情などで判断するのではなく、根拠をもって合意された結果や結論を導かなければならないため、客観性を確認する必要がある。

 これら三つの条件などを確認することで、自然の事物・現象に対して検証し、信頼性や妥当性を吟味していくのである。

 科学的思考力は、先に述べた思考を重視した学力観への変化や、知識の日常生活への適用と大きく関わっている。なぜならば、科学的思考力は単体の知識ではなく、あらゆる学習場面、日常場面で適用することが可能な信頼性や妥当性を吟味するための思考方法やマインドだからである。これからの情報が溢れる時代において、より確かな情報を選択する上で、この「信頼性や妥当性を吟味する力」は必要な力であるといえる。

学校教育で何をどのように育成するのか

 AI時代に使いこなす科学的思考力・活用力を育成するために、学校教育ではどのように指導すればよいのであろうか。ここでは、小学校理科の授業を例に述べる。

(1)判断の幅を拡げ、主体性を育成する
 これまでの教育では“関心・意欲”の育成が一つの柱として挙げられていたが、今回の学習指導要領では“主体的に学習に取り組む態度”の育成に変わった。言葉が変わることは、その意味が変わるため、ここではその違いについて述べる。

 これまでの“関心・意欲”の育成では、学習の一場面だけでも学習に積極的な姿が見られればよかった。例えば、自分の考えを積極的に発言している姿が見られたり、ノートに文字をたくさん書いていたりするなど、活動的な姿が見られることが“意欲がある”と捉えられていたのである。しかし“主体性”は、学習の一場面でその姿が見られるだけでは不十分である。なぜならば、主体的に学習に取り組むことは、目標をもち、解決まで関心・意欲が継続することを意味するからである。そのため、学習の一場面だけの意欲的な姿で判断するのではなく、自分自身で問題意識をもち、問題の解決まで意欲が継続しており、その姿が複数場面で見られるように指導していくことが大切になる。

 主体性を促す授業を考えると、教師が先回りして“お膳立て”をしてしまう授業は、子供たちの判断する機会が少なく、思考の幅を狭めてしまうことになる。そのため、教師主導の授業ではなく、子供たち自身で判断、試行できる幅を拡げて主体性を育成する必要がある。このことで、失敗や粘り強く考えることで耐性がついたり、自分で解決する喜びが生まれたりして、変化が激しいAI時代でも自分自身で考えることが大切であるというマインドにつながると考える。

(2)自分の考えを明確にし、他者との対話を通して「より妥当な」判断ができる力を育成する
 社会に出た際、自分だけで判断すると後から自分の知らない別の観点で問題があることに気付く場合がある。そのため、あらかじめ職場の仲間や友人と意見を交流し、より良い方法を見出していく。つまり、他者と対話することが、より妥当な判断につながるわけである。理科の授業では、他者と対話し、より妥当な結果や結論を生み出すようにしていく。学校教育でこのような信頼性や妥当性を高める方法を繰り返し行うことで、その方法を身に付けたり、マインドの育成につなげたりすることができる。そのためにはまず、自分の考えを自身で整理して、他者と対話する元となる“自分の考え”を表現できるようにすることが大切になるといえる。

 これら(1)(2)に共通することは、「自分自身で解決していくことが大切であること」「自分自身で解決できるための方法を知り、積み重ねること」「自分自身で信頼性や妥当性を吟味するというマインドをもつこと」という点である。科学的思考力を使いこなせることは、これまで以上に「予測困難な時代」において、知識の単純な適用や通常使っている対処法では解決が難しい問題に対して、「自身で何とかして最適解を判断し解決する」という意味で重要な力であるといえるだろう。

 

 

Profile
寺本 貴啓 てらもと・たかひろ
 國學院大學人間開発学部准教授。博士(教育学)。専門は、理科教育学・学習科学・教育心理学。全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員(小学校理科)、学習指導要領実施状況調査問題作成委員(小学校理科)、NHK番組委員、小学校理科教科書の編集委員等を経験し、小学校理科を中心に研究を進めている。主な著書に『小学校新教科書ここが変わった!理科』(日本標準、2020)、『“ダメ事例”から授業が変わる!小学校のアクティブ・ラーニング入門』(文溪堂、2016)などがある。

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