session 1 多様な学習者に学力を育むパフォーマンス評価

授業づくりと評価

2023.05.11

session 1 多様な学習者に学力を育むパフォーマンス評価

京都大学大学院准教授
奥村好美

『教育実践ライブラリ』Vol.5 2023年1

パフォーマンス評価とは何か

 パフォーマンス評価とは、「知識やスキルを使いこなす(活用・応用・総合する)ことを求めるような評価方法の総称1」である。中でも、パフォーマンス課題とは、「子どもたちが覚えたことを単に再生するだけでは取り組めないような課題であり、構造化されていない、型にはまっていない、または予想不可能な問題や挑戦の文脈で、学んだ知識やスキルを総合して活用することを求めるような複雑な課題2」を指す。具体的には、論説文やレポート、絵画、展示物といった完成作品(プロダクト)や、スピーチやプレゼンテーション、実験の実施といった実演(狭義のパフォーマンス)が評価される。パフォーマンス課題のうち特にリアルな文脈で力の発揮を求めるものを真正のパフォーマンス課題という。

[注]
1 西岡加名恵著『教科と総合学習のカリキュラム設計―パフォーマンス評価をどう活かすか』図書文化社、2016年。
2 奥村好美、西岡加名恵編著『「逆向き設計」実践ガイドブック─『理解をもたらすカリキュラム設計』を読む・活かす・共有する』日本標準、2020年。

 ここでパフォーマンス課題の具体例をあげてみたい。中学校社会科地理分野の小単元「中国・四国地方」の課題「広島市・高知県を住みやすくするためのアイデアを考えよう!」である3

[注]
3 奥村好美、宮田佳緒里「パフォーマンス評価におけるフィードバックのあり方に関する一考察―中学校社会科の実践に焦点を合わせて」『兵庫教育大学研究紀要』第51巻、2017年、pp.119-128。

 あなたは(A:広島市の市長/B:高知県の知事※選択)に頼まれて、もっと(A:広島市/B:高知県)を住みやすくするにはどうすれば良いか、アイデアを出すことになりました。広島市の市長は過密問題、高知県の県知事は過疎問題で困っています。学んだことを活かして、あなたの考えをレポートにまとめましょう。その際に、次の1~3を必ず入れましよう。※写真や資料を引用または貼り付けても構いません。
① (A:広島市/B:高知県)の自然や産業などの特徴
② (A:(広島市)過密問題/B:(高知県)過疎問題)により、どんな困ったことがおきているか
③ ②の問題を解決するための具体的アイデア、そのアイデアによってどんな良いことが期待できるか

 このような現実的な文脈を取り入れた、覚えたことを単に再生するだけでは取り組めないような課題は、学習が苦手な生徒には難しいと感じられるかもしれない。しかしながら、パフォーマンス課題を実施してみると、学習が得意だと思われていた子どもの意外なつまずき(例えば、紙面上の「問題を解く」ことはできても、それを学校の外の現実と結びつけて考えられていない)や、学習が苦手だと思われていた子どもが丁寧に思考しながら学び直しを行う姿(例えば、自分の興味関心に根ざして粘り強く取り組む中で知識やスキルを身につけていく姿)を目にすることがある。上記の課題でも、生徒たちは自分の興味関心を活かして様々な作品を作っていた(例:過疎化により高知県に空き家が多いことを利用して古民家カフェを開き、促成栽培で育てたナスを用いた料理を出すというアイデアが書かれた作品など)。このように、パフォーマンス課題を評価方法に取り入れることは、ペーパーテストだけでは評価できない学力を育成し評価する途を拓くとともに、子どもたちの多様性に応じることにもつながりうるといえる。

「逆向き設計」論の考え方

 パフォーマンス課題を効果的に実施するには、教師がその単元(カリキュラム)で特に重点を置く目標と対応させて課題を設定することが求められる4。そのためには、単元(カリキュラム)を「逆向き設計」論の考え方で設計することが有効である。「逆向き設計」論とは、ウィギンズ氏とマクタイ氏が創案したカリキュラム設計論である。図1のように、教育目標にあたる「求められている結果」、評価方法にあたる「評価の証拠」、授業過程にあたる「学習経験と指導の計画」を三位一体のものとして設計するアプローチである。「逆向き設計」論が、「逆向き」と呼ばれる理由は2つある。1つ目は、教育を通じて最終的に育てたい子どもたちの姿(「求められている結果」)から遡って単元(カリキュラム)が設計されることにある。2つ目は、多くの場合、指導が行われた後で考えられがちな評価方法まで、指導に先だって考えておくことにある。


図1 「逆向き設計」論の3段階4

[注]
4 G.ウィギンズ、J.マクタイ著、西岡加名恵訳『理解をもたらすカリキュラム設計―「逆向き設計」の理論と方法』日本標準、2012年。

 「逆向き設計」論では、教師が単元(カリキュラム)を設計する際に、子どもが教育目標を達成するために何をしなくてはならないかという「学習」にではなく、どのように教えるかという「指導」にのみ焦点を合わせがちであることに注意が促される。そのような単元(カリキュラム)の設計は、子どもの力を育むための「意図的設計(by design)」ではなく「希望的観測(by hope)」であるという。「逆向き設計」論を目標・評価・指導の一体化という視点のみで捉えると、目標へ向けたやや固定的な単元(カリキュラム)設計になるのではないかと考える人もいるかもしれない。しかしながら、あくまで求められている学習結果を子どもに実現することが重視されていることを考えると、むしろ子どもの実態に応じた柔軟性は必要であり、固定的な単一のレールは想定されにくくなるだろう。

 図2の左側は、「逆向き設計」論に基づいて単元を設計するためのテンプレートの概略である。「逆向き設計」論では、子どもたちが学んだことを現実世界の様々な場面で活かせるようになる(転移)ために、深く理解すること(永続的理解)が不可欠であると考えられている。そのため、「求められている結果」を考える際には、その単元(カリキュラム)における重点目標を「(永続的)理解」と「本質的な問い」に分けて記述することが求められる。これによって教師が教えたい内容を教え込むのではなく、子どもたちが「本質的な問い」を探究した結果として「(永続的)理解」に至る学習を生み出す設計が可能となる。「評価の証拠」では、「理解」と対応したパフォーマンス課題を設定することが重要である。ただし、「評価の証拠」では、パフォーマンス課題だけでなく、従来使われてきたようなペーパーテストや、インフォーマルな観察や対話、子どもの自己評価など様々な「その他の証拠」を含むことが想定されている。「学習計画」では、設定したパフォーマンス課題に子どもたちが取り組めるような力を育むために長期的な視点で計画を考えることが大切である。先述した社会科の事例は、大学教員である筆者と宮田氏が飛び込みで行った実践であるため、全4時間の小単元で実施された3。しかしながら本来は、複数の知識やスキルを学べる、より大きなまとまりの単元で実施することが望ましい。

[注]
3 奥村好美、宮田佳緒里「パフォーマンス評価におけるフィードバックのあり方に関する一考察―中学校社会科の実践に焦点を合わせて」『兵庫教育大学研究紀要』第51巻、2017年、pp.119-128。

「逆向き設計」論において「個に応じること」


図2 「逆向き設計」論において「個に応じること」5

 「個に応じること(differentiation)」を考える際には、何にどのように応じるべきか、また応じないべきかを考える必要がある。「逆向き設計」論との関連でいえば、トムリンソン氏とマクタイ氏が図2のような枠組みを提案している5。それによれば、「求められている結果」や「評価の証拠」のうち、その単元(カリキュラム)の中核にあたる「本質的な問い」と「(永続的)理解」、それらと対応する「鍵となる評価規準」は、基本的に個に応じて変えるべきではないことが指摘されている1、5。むしろ、その単元(カリキュラム)において、何が学問的に中核にあたるのか、何を長期的に子どもたちに保障する必要があるのかを明確にしておくことで、診断的・形成的評価を行いやすくなり、かえって指導を行う際に柔軟に個に応じやすくなる。

[注]
1 西岡加名恵著『教科と総合学習のカリキュラム設計―パフォーマンス評価をどう活かすか』図書文化社、2016年。
5 C.A.Tomlinson and J.McTighe,Integrating Differentiated Instruction&Understanding by Design:Connecting Content and Kids, Alexandria: ASCD, 2006.

 一方、「求められている結果」や「評価の証拠」のうち、細かな知識やスキル、また評価方法における表現のあり方については、個に応じたものにしてもよいと考えられている。「逆向き設計」論では、子どもたちは、個別の知識やスキルをバラバラに覚えていくのではなく、「本質的な問い」を探究する中で「理解」を深めながら様々な知識やスキルを身につけていくことが求められる。したがって、身につける知識やスキルのレパートリーが子どもによって変わることは起こりうる。また、評価方法については、パフォーマンス課題が「(永続的)理解」を評価する課題であるならば、表現は多様であってよいと考えられている。

 先述した社会科の事例では、広島市もしくは高知県のいずれかを選択できる課題としていたものの、小単元における「本質的な問い」「永続的理解」、それに基づくルーブリックは、共通のものを用いている。パフォーマンス課題での表現としては、「レポート」を作ることとしていたが、プレゼンテーションのための「スライド」や「ポスター」作りなど、表現の選択肢を設定することもできただろう。生徒の実態に応じて、口頭で説明したり、視覚的に描いて説明したりするなど表現の選択肢を増やすことで、生徒は内容についての「理解」を自分に合う表現で示すことができるようになる。もちろん、全てのパフォーマンス課題で選択肢を準備することは現実的ではないかもしれないものの、こうした点を意識しておくだけで、評価方法のあり方は変わりうるだろう。ただし、繰り返しになるが、この際に留意すべき点として、表現が異なったとしても、「理解」を評価する「鍵となる規準」は共通である必要がある。これを変えてしまうと、全ての子どもたちに「理解」を保障することができなくなってしまう。

 「学習計画」は、図2のように、全ての子どもがより良く学習できるよう、できるだけ個に応じたものにするべきであると考えられている。その際、多様な学習者の学習状況を把握し、指導の改善に活かすためには、診断的評価や形成的評価を充実させることが重要である。「逆向き設計」論に基づいて、事前に学習経験や指導を設計したとしても、その計画を固定的に捉える必要はない。むしろ、長期的な目標を明確にしつつ、目の前の子どもたちの実態を捉えることで、必要に応じて柔軟に計画を組み直すことが可能となる。また、パフォーマンス課題実施後に、子どもたちの作品(実演を含む)に基づいて、ルーブリックを作成することもおすすめである。作成のプロセスの中で、意外なつまずきや成果など、子どもたちの学習実態を具体的に把握することができ、必要に応じて目標自体を見直すことも含めて、短期的・長期的な指導の改善に活かすことができる。

 また、子どもたち自身が自分の学習状況に応じてパフォーマンスを改善できるようにすることも重要である。そのためには、一人ひとりに質の高いフィードバックを行うこと、そしてそれを通じて子どもたちの自己評価力を高めることが大切である。フィードバックを効果的に行うためには、「時宜にかなっていること」「具体的であること」「学習者が理解できること」「(フィードバック後の)調整を可能にすること」などがポイントとなる5、6。この時、ルーブリックを活用することもできるだろう。その場合には、評価のしやすさだけを念頭において単純化した評価指標や「素晴らしい」「良い」などの曖昧な記述語ではなく、具体的な特徴を示しつつパフォーマンスの質を伝えられるようにすることがポイントとなる。さらに、複数の作品例をルーブリックと合わせて示すことで、具体的な規準・基準が伝わりやすくなるといえる。こうして具体的なゴールや規準・基準を共有することで、子ども同士の相互評価を通じたフィードバックを活用することもできるようになるだろう。

[注]
5 C.A.Tomlinson and J.McTighe,Integrating Differentiated Instruction&Understanding by Design:Connecting Content and Kids, Alexandria: ASCD,2006.
6 G. Wiggins, Educative Assessment:Designing Assessments to Inform and Improve Student Performance,California:Jossey-Bass,1998.

 このように、子どもたちの多様性をふまえてパフォーマンス評価に取り組み、それを指導や学習の改善に活かしていくことが、全ての子どもたちに長期的に生きて働く学力を保障することにつながっていくといえるだろう。

 

 

Profile
奥村好美 おくむら・よしみ
 福岡県出身。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程を修了後、兵庫教育大学講師、准教授を経て、現在は京都大学大学院教育学研究科准教授。オランダの学校評価やオルタナティブ教育に関する研究や、日本の学校現場との共同授業研究などを行っている。主著に『<教育の自由>と学校評価―現代オランダの模索』(単著、京都大学学術出版会)、『「逆向き設計」実践ガイドブック―『理解をもたらすカリキュラム設計』を読む・活かす・共有する』(共編著、日本標準)などがある。

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