聞いて! 我ら「ゆとり世代」の主張 [第5回] 子どもの主体的な姿を目指して
トピック教育課題
2023.05.15
聞いて! 我ら「ゆとり世代」の主張
[第5回] 子どもの主体的な姿を目指して
大分大学教育学部附属小学校教諭
山下千春
初めての探究活動
私が小学校中学年の頃、それまであった土曜授業がなくなり、高学年になると、総合的な学習の時間が始まりました。当時は、「総合って何だろう」と思いながら連絡帳に「総合」と書いて、その時間を過ごしており、多くを思い出しません。今、教員という立場になってみて、きっと、これが総合的な学習の時間だったのだろうと思うことが、5年生で取り組んだ米作りです。周りに畑がなく、田植えをする機会もない環境で育ってきたため、校庭の一角に作った小さな田んぼの泥の中に裸足で入り、苗を植えた初めての体験に衝撃を受けたことを今でも覚えています。
当時は「楽しい!」という思いが強かったですが、きっと、この「楽しい」は、体験したことのない心地よさであり、20年経った今でも思い出せる理由でもあると思います。「これだからゆとりは……」と、何かとマイナスな印象をもたれるゆとり世代ですが、具体的な活動や体験を通して、教科では限りのある驚きや気付きを生み、原体験としていただいた小学校の先生方にはとても感謝しています。
子どもも教師もワクワクする
私は、現在、勤務校で総合的な学習の時間の担当をし、年間70時間1単元の授業づくりを楽しんでいます。しかし、大学時代に講義もなく、採用後も総合的な学習の時間の本質を学ぶ機会も求めず、数年前までは本来の探究活動が実現できていなかったと思います。前任校において総合的な学習の時間の単元づくりや授業づくりを学び、総合的な学習の時間を通して、それまで教師の指示待ちだった子どもたちが主体的に変わっていく姿を目の当たりにしたことで、総合的な学習の時間の面白さを実感しました。
本校では、接続する附属中学校と連携し、約8年前から小中9年間で育成を目指す資質・能力一覧表を作成して、各教科等との関連を図りながら学級総合を実践しています。教育課程全体を通した教科等横断的な視点からカリキュラム・マネジメントの要であることを踏まえ、他教科で身に付けた資質・能力を総合的な学習の時間において活用できるよう7年間の探究活動を保障しています。この中に身を置き、積み重ねるにつれ、以前担任をしていた子どもたちと廊下ですれ違った時に、「今年の総合はこんなことしているよ」と紹介してくれることが増え、他の先生方の授業を参観させていただく中で目にする子どもたちの主体的な姿に、「今度はこの探究活動もしてみたいな」と、私自身がワクワクしながら日々多くのことを学ばせてもらっています。
守ろう、自分やみんなの命!
本年度は、6学年担任として、子どもたちと「防災」を単元化して進めています。大分市が今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率のあまりの高さに子どもたちは衝撃を受けていました。「実際に被災した時にどのように動けばいいのかを知って、自分の未来に繫げたい!」という思いや願いを持った子どもたちは、自分やみんなの命を守るために、「危機回避、防災プロジェクト」の学習を始めました。
地震の仕組みを知るために学校の隣にある先哲史料館の先生をお招きして話を聞いたり、学校内にどのような物が備えられているのか備蓄倉庫を見に行ったり、全て子どもたちが思いや願いを膨らませながら自分たちで学習を進めています。ゲストティーチャーの招へい依頼もドキドキしながら自分たちで電話をかけていましたが、許可をもらえたことで達成感や協働意識を味わう姿がありました。
「より多くの命を守るために、学習したことをお家の方や地域の方に伝える」という学習のゴールを常に意識しながら、より説得力のあることを伝えるためには自分たちが体験をする必要があると考え、実際に体育館で避難所生活体験を行うことにしました。それぞれが必要だと考えた物を防災リュックに詰めて登校し、寒い体育館で半日を過ごしました。何日も同じ味の非常食を食べ続けることの厳しさやトイレの混み具合、体育館の寒さや周りの人の話し声、物音のせいで寝たくても眠れないという実態から、この生活を何日も続けることはとても困難であるということに気付きました。
体験後、「お家の方や地域の方に伝えるべきこと」について話し合っていた時、「実際に被災した後の生活の不安を少しでも減らすことができるよう各家庭で備えておくべき物を伝えたい」という避難所生活体験に関する発言が多かった一方で、「被災後のことだけでなく、いつ起こるか分からない災害に備えて、まずは家族と避難ルートや避難場所を確認することを伝えるべき」という声が上がりました。探究し、体験して自身の肌で感じたからこそ、より深い学びに繫がったのではないかと感じました。
子どもの思いや願いを大切に
先日、50時間目を迎えた時、子どもたちから「もう50時間!?」「10時間増やして80時間ぐらいしましょうよ!」という声が上がりました。子どもたち自身で立てた単元計画を基に、常に70時間を意識して学習を進めてきたため、見通しとともに探究への意欲を感じる場面でした。単元のゴールを迎えた時に、子どもたちが「総合的な学習の時間、楽しかった!」「みんなで防災について学習してきてよかった」等を感じられるよう、今後も子どもたちの主体的な姿を目指して、子どもたちの思いや願いを実現することができる学習を展開していきたいです。
Profile
山下千春 やました・ちはる
1991年生まれ。小学校教育実習での担任の先生に憧れ、教師を志しました。2014年、別府市立石垣小学校から教師生活をスタートさせ、教師生活9年目です。現在は、大分大学教育学部附属小学校において総合的な学習の時間の担当として、子どもたちの思いや願いを大切にした総合的な学習の時間の授業づくりに力を入れています。
●モットー
笑顔