聞いて! 我ら「ゆとり世代」の主張 [第3回] 探究する楽しさ

トピック教育課題

2023.01.13

聞いて! 我ら「ゆとり世代」の主張
[第3回] 探究する楽しさ

北海道教育大学附属旭川小学校教諭 
菊池勇希

『教育実践ライブラリ』Vol.3 2022年9

「探究する楽しさ」への気付き

 1988(昭和63)年生まれの私は、いわゆる「ゆとり世代」です。小学校低学年においては「生活科」、中学校では「総合的な学習の時間」を経験しました。

 生活科においては、教室から飛び出し、屋外で活動することが何より楽しみだったことを記憶しています。特に、学級のみんなと一緒に校地内を歩き、校舎から離れた茂みの中に大きなオレンジ色の花を見付けてとても感動したことを覚えています。後日、その花を図鑑で調べてオニユリという花だということを知りました。そのため、今でもオニユリの花をみると、そのときの記憶が鮮明に蘇ってきます。

 また、総合的な学習の時間においては、釧路湿原を調査する活動を行うことで、環境問題について考えました。学級の仲間と自然環境を守りつつも、豊かな生活を送るためにはどうすればよいかについて熱く議論したことを覚えています。また、情報を得るためにインターネットを活用して調べ、自分の考えをプレゼンテーションソフトでまとめて発表をしました。

 振り返ってみると、生活科や総合的な学習の時間においては、魅力的な対象との出会いを通して、現行学習指導要領でいうところの「問題発見・解決能力」や「情報活用能力」の基礎を身に付けることができたと感じています。また、一連の学習活動は、「探究する楽しさ」を知ることにつながりました。

 それらのことは、教師となった今でも、
「よりよい授業のために、どうすればよいだろう?」
「まずは、書籍等で自分なりに調べてみよう」
「一度、他の先生の意見を伺ってみたいな」
「実践をスライドにまとめておこう」
といったように、自らの生活の中で大いに生かされていると感じています。

「探究する楽しさ」を実感する学習を目指して

 私は、現在、勤務校で生活科の研究を担当しています。対象と関わる活動や体験を通して、子供が自分と対象との関わりを深めることを大切にして指導を行っています。中でも、自分の存在・よさ・成長などといった「自分自身への気付き」を得て、実生活への意欲や自信をもてるようにすることは、私の生活科実践における大きなテーマです。このことは、私が小・中学校の頃の生活科や総合的な学習の時間の中で見いだした「探究する楽しさ」を子供が実感することでもあると考えます。

 昨年度、2年「うごくおもちゃけんきゅうじょ」の学習では、子供の自分や対象への気付きやそこで発揮される思考を「気付きの想定表」(表1)として整理し、子供への指導と評価に生かしました。特に、この学習では、失敗を恐れずに試行錯誤を繰り返したり、友達と協働的に学んだりしながら粘り強くおもちゃづくりに取り組むことで、「探究する楽しさ」を実感することをねらいました。

表1 気づきの想定表

 A児は「風の力で遠くまで動く車をつくる」というめあてのもと、空き箱やペットボトルキャップなどを組み合わせて車体の両側に翼の付いた車をつくっていました。風を当てると車は前に進むものの、A児はより遠くへ進むように改良したいという思いをもっていました。

 そこで、教師は、前に進むことを認めつつ、友達の様子を見たり、相談したりすることを促しました。すると、A児は、友達からのアドバイスを受け、翼として付けていた箱を半分に切り、箱の中に空気が入るように工夫することで、以前よりも車が遠くへ進むようになりました。この結果から、A児は「風を当てると車は動く」という気付きから「風がしっかり当たるように工夫しないと車は遠くへ動かない」という気付きに質が高まりました。

 また、A児はその後の学習で、「風がしっかり当たるように工夫する」という気付きを生かし、翼の工夫に加えて、車体上部に帆を付けることで、より多くの風が当たるように工夫をしました。帆の形や大きさにもこだわり、試行錯誤することで納得した動きの車を完成することができました。


 A児のつくった風の力で動く車

 そして、単元全体の振り返りでは、「最初の自分はすぐ諦めてダメだったけれど、諦めないでもう一度やる方が良いということが分かったので自分が成長したと思っています」と書き記し、「探究する楽しさ」や自分自身の成長を自覚することができました。

「探究する楽しさ」を探究する教師に

 前述のように、子供の「探究する楽しさ」を実感することを目指す学習を行う中で、私自身も子供の姿から多くを学びました。「気付きの想定表」を絶えず見直したり、この働きかけで良かったのかと振り返ったりして、私自身もより良い学習を「探究する楽しさ」を実感することができました。

 学校では「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」「『個別最適な学び』と『協働的な学び』の一体的な充実」「GIGAスクール構想の実現」など様々なことが求められています。今後も子供たちが「探究する楽しさ」を実感できる学習を行えるようにするとともに、教師である自分自身も様々な教育課題の解決に向けて「探究する楽しさ」をもちながら実践を積み重ねていきたいと考えています。

[参考文献]
・北海道教育大学附属旭川小学校『学習指導の実践研究 第69号』2022年 https://www.hokkyodai.ac.jp/fuzoku_asa_syo/study/r04kiyo.html

 

 

Profile
菊池勇希 きくち・ゆうき
 1988年生まれ。子供の未来と可能性に向き合う教師の仕事にやりがいと魅力を感じ、教師を志しました。2012年度より8年間、北海道公立小学校教諭として勤務。2020年度より現職。2021年度より北海道教育大学教職大学院在学中。生活科主任として、「思いや願いの醸成・発展」「気付きの質の高まり」などを視点に生活科の学習づくりについて研究を進めています。また、GIGAスクール担当として、一人一台端末の効果的な活用や校務の情報化・効率化について組織的な取組を推進しています。
●モットー
馬には乗ってみよ 人には添うてみよ

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