特集 誰一人取り残さない“スクールネット”の構築 気になる子の保護者へのアプローチ 保護者支援のための気づきを起点としたネットワークの構築

トピック教育課題

2022.07.11

特集 誰一人取り残さない“スクールネット”の構築

気になる子の保護者へのアプローチ
保護者支援のための気づきを起点としたネットワークの構築

伊丹市教育委員
太田洋子

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.6 2022年3月

コロナ禍での家庭の状況

 新型コロナウイルスによる休校や生活スタイルの変化の中、令和2年度の不登校児童生徒数は19万人を超えた。さらに、児童虐待の相談対応件数やネットいじめの件数も過去最多となった。

 学校からは「不登校や特別な支援が必要な子どもたちが増え、保護者対応等に時間が取られる」という声を聞く。一方保護者の方も「家にいる時間が増え勉強しないでスマホばかり」「仕事を変わり、時間に追われて精神的にしんどい」「反抗期で子どもが親の言うことを聞かない」「イライラしてつい怒鳴ってしまう」と様々な悩みを抱えている。

 家庭相談を担当するソーシャルワーカーに現況を聞くと、「コロナ禍で経済的な困窮に陥った家庭について、コロナ給付金等の制度を紹介している。特に非正規の雇用環境が悪化し母子家庭の相談が増えている。近年マルトリートメント(不適切な養育)の問題も増えており、身体的な虐待のように表に出にくく、精神的な部分も含めて潜在化しているように思う。精神面で不安を抱える保護者も増えており、家庭訪問をしても人間関係が築きにくいこともある。ストレスからくるDVなども増えており、家庭からの情報と学校からの情報を突き合わせて何ができるかを考えながら支援していく必要性を感じている」と語ってくれた。

 このような状況を踏まえ、「誰一人取り残さない教育」を進めるには、学校が子どもの背景にある家庭の問題に気づき、組織としての対応と関係機関との連携による支援を進めていく必要がある。

「気づき」の組織化と保護者への啓発

 学校には管理職や担当者が会する校内委員会、不登校対策会議などの組織がある。担任等の「気づき」について共通理解し、「誰がどう関わるか」「どの関係機関につなぐか」等についてアイディアを出し合い実態に応じた対応策を考えていく。個別の支援計画や指導計画については、懇談等で保護者と目標や支援内容等について共有しておく必要がある。

 さらに、「インクルーシブ教育」の理念から、課題のある子どもに対する支援に係る学校の方針や考え方は、学校便りやメール配信等で発信する。日常的な家庭への働きかけが保護者の学校への敷居を低くし、心のバリアフリー化につながるのである。

傾聴スキルによる保護者への対応

 具体的な方針が決まり、保護者との面談を実施する際にも気をつける点がある。「懇談後に、保護者からの苦情が増えた」と耳にした。ストレスフルな生活の中、進路指導等への不安が不満につながることは考えられる。一方学校では若い教員が急増し、保護者の思いを受け止めるよりも、「こうあるべき」という学校の考えを伝えることに必死になることがある。「あの家庭は話が通じない」など自分の枠組みや価値観で相手に対応しようとすると理解できない保護者は出てくる。しかし、学校が保護者の気持ちに寄り添い、同じ歩調で関わることで子どもが落ち着く多くの事例を目の当たりにしてきた。

 保護者対応については、担当教員との複数での対応や具体的なケース等を使いながら研修しておく必要がある。ある学校では年度当初の4月にスクールカウンセラー等を講師として傾聴スキルについて研修を行っている。話し方や聴き方には「くせ」があるが、自分ではなかなか気づきにくい。演習を取り入れた研修を繰り返し実施することで、自身をスキャンすることが必要なのである。

対人関係専門職員等との効果的な連携

 スクールソーシャルワーカー(以下、「SSW」)、スクールカウンセラー(以下、「SC」)等の対人関係専門職の学校配置が進みつつある。貧困や虐待等の家庭の問題について、学校は避けて通れない。ケース会議等にSSWやSCが入り、教師と専門職員がつながり、的確な支援を行うことが必要である。 「弟が病気で面倒を見ないといけないから」という理由で欠席が増えた女子生徒がいた。昨年、両親が離婚し、母親は精神疾患を抱えていることがわかった。近年、このようなヤングケアラーの問題も深刻化している。「ヤングケアラーの実態に関する調査」(文部科学省・厚生労働省 令和3年3月)によると中学2年生の5.7%がヤングケアラーであったと報告されている。このケースでは、学校からの情報をもとにSSWが家庭訪問で母親との関係を作りながら、生活支援や子育て支援の部署につないだ。一方、近年はネグレクト等不適切な養育による子どもの愛着障害の問題も見られる。学校では「教師にべったりくっつく」「友達との関係が作りにくい」等、行動特徴が似ているために発達障害と捉えられてしまうこともある。SSWによる家庭状況とSCによる心理面からの両面のアプローチでの適切な支援が必要になる。 

 令和3年12月に子どもについての対応を専門に扱う「子ども家庭庁」の令和5年度内の発足等の基本方針が示された。困難を抱える子の保護者自身も幼少期に様々な困難を経験している場合も多く、課題が深刻化・複合化している。教育、福祉、医療、警察等の関係機関が力を合わせて行動していくことが不可欠になる。子どもにとって安全安心な居場所であることは学校に課せられた使命である。子ども・家庭の困り感に気づき、学校を起点としたネットワークを構築する役割は、今後さらに必要となるはずである。

 

Profile
太田 洋子 おおた・ようこ 
大阪教育大学、佛教大学大学院卒業。中学校数学科教諭、伊丹市教育委員会事務局指導主事、学校教育部長、中学校校長、伊丹市立総合教育センター所長を経て2020年度から現職。編著書に『中学校「荒れ」克服10の戦略—本丸は授業改革にあった!』(編著、学事出版、2015年)、『若手教師を育てるマネジメント』(共著、ぎょうせい、2019年)、『各教科の学びと新しい学習評価』(共著、ぎょうせい、2020年)等。

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE

特集:誰一人取り残さない“スクールネット”の構築

最新号

新教育ライブラリ Premier IIVol.6

2022/3 発売

ご購入はこちら

すぐに役立つコンテンツが満載!

ライブラリ・シリーズの次回配本など
いち早く情報をキャッチ!

無料のメルマガ会員募集中

関連記事

すぐに役立つコンテンツが満載!

ライブラリ・シリーズの次回配本など
いち早く情報をキャッチ!

無料のメルマガ会員募集中