Leader’s Opinion 〜令和時代の経営課題〜 今回のテーマ PTAのレゾンデートル もっと保護者の力を信じ活用しよう

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2021.04.15

Leader’s Opinion 〜令和時代の経営課題〜
今回のテーマ PTAのレゾンデートル
福本 靖+大塚玲子

もっと保護者の力を信じ活用しよう

神戸市立桃山台中学校長
福本 靖

『新教育ライブラリ Premier』Vol.5 2021年2月

PTA改革の背景にあるもの

 何年も前から、PTA活動に対する素朴な疑問や不満の声は各地にあった。しかし70年にも及ぶ歴史の中で築かれた様々な有形無形のしがらみや責任の所在を曖昧にする「あくまでも任意団体」というレッテルが障壁となり、具体的な動きに繋がることが少なかった。ところが10年前くらいからマスコミが、その理不尽さや怒りをテーマにする形で取り上げ出すと、同様の問題意識をもつ多くの保護者たちがSNS等で連携し、深刻な問題であることを全国的に広めた。そして、3年前に和解した熊本PTA裁判のように、法的な視点が議論に加わることで、是正が必須であるとの認識が急速に定着し、これまで介入に慎重であった自治体の多くも積極的に関与を始め、ようやく各学校が動き出した。この背景には、現在の公立学校における学校と保護者とのまさに「近くて遠い」関係がある。

ようやく見えてきたPTAの本質

 主に指摘されている問題点(加入の強制、個人情報の管理、会費納入方法や使途等)は、法的解釈に基づいて解決に向けた方向性がほぼ定まっている。しかし、加入を強制しない(書面等で明確に入会の意思を確認する)となると、従前の組織や活動のままでは、入会希望者が激減することが明白である。したがって、一部の学校では活動が難しいと判断しPTAそのものを廃止(シンプルな保護者会に)する動きがある一方で、存続を目指す多くの学校は、これまでの活動の見直しに取り組んでいる。具体的にはアンケートを実施し、活動の一つ一つを「子どもたちのために」という視点で検証する作業を行い、多くの保護者が不要だと考えるものを思い切って削減し入会のハードルを下げるのである。その上で、やりがいを感じてもらえるような活動(学校運営への参画)に特化する動きも出てきている。問題点を是正することから始まった取組が、結果的にはこれまでできなかったPTA 本来の意味とか保護者の在り方等を考え直すきっかけとなり、さらにその先にある新しい役割を認識することにも繋がり始めている。

学校が抱える大きな苦悩

 PTAが変わろうとしている一方で、学校も大きな変換期を迎えている。中教審が2019年1月、学校における働き方改革の方策を答申し、文科省がガイドラインの中で教員の残業時間の上限目安を月45時間、年360時間と定めた。各教委には服務監督権者として方針策定を求め、同時に登校時間の見直し、学校徴収金の徴収・管理事務の負担軽減、外部人材の活用、部活動指導時間の適正化等々の例を具体的に示している。その後、約50年ぶりに給特法が改正され、この基準に関し罰則規定はないものの法的な意味合いも兼ね備えた。しかし、現状では、新しい学習指導要領も、子どもたちの多様性に対応するべく、丁寧な個別の指導を求めており、教員定数が大きく変わらない限り、この基準を達成することはほぼ不可能である。学校現場には、乾いたタオルをさらに絞るかのごとく業務の見直しや意識改革が求められるようになっており、これまでの常識の範疇を超えるような対応が必要となっている。

コロナ禍で感じた学校運営の課題

 25年前、阪神・淡路大震災のときにも長期間の休校や様々な対応を迫られたが、当時は、例年の枠組みを意識しながら目の前にある課題に一つ一つ対応することで確実に前に進んでいる実感があった。しかし今回のコロナ禍による長期間の休校や現在も続く対応においては、そのような実感を得ることがなかなか難しい。当然、すべての問題の根底には未知のウイルスへの対応があり、簡単に先を見通すことができないことにその原因はあるが、それだけではない学校が抱える構造的な課題が露呈してきているように感じる。コロナ禍対応では、大きな行事だけでなく学校生活の細部にわたって、状況を的確に分析して迅速な対応が求められる。しかし、従来の学校現場での物事の決まり方は、あくまでも前例踏襲をベースに、教職員が話し合いを積み重ねて微調整するスタイルが中心なので、どうしても追いつかない。このことはコロナ禍後に学校が直面する諸課題、特に働き方改革等においても致命的な課題となるだろうと考える。現状の意思決定プロセスをより実効性のあるものに変えていく必要がある。

だからこそPTAが必要

 文科省は、財政的な問題もあり、教員定数を緩やかに増やすようであるが、到底間に合うものではない。また、コミュニティ・スクール等を推進して、教員以外の特に地域の人材が学校を支援するような形を模索しているが、そんな都合のいい地域人材や外部人材が確保できる保証はなく、現在でもほとんど集まっていない。現実的に考えて、最も効率的に学校に影響力を発揮できるのは、子どもにとっての最大の当事者である保護者しかあり得ない。もともとPTAは子どもたちのために保護者と学校が協力する組織であり、その原点に立ち返るだけである。その影響力がマイナスに作用することを恐れて、保護者と一定の距離を取るのではなく、敢えて取り込むような形で学校運営に参加させ、職員会議と両輪を成すような存在にするのである。そうなれば、PTAの活動が保護者にとっても大切な子どもたちの学校生活に直結し、相応の分担にも積極的に役割を果たしてもらえる。これからの時代に必要な機動力や、働き方改革として求められる大胆な変更もそのような学校運営の中でこそ実現できるものと考える。

これからの公立学校の運営

 学校にとって、PTA改革、働き方改革、コロナ禍がほぼ同時にやってきたことは偶然かもしれないが、それだけ重なったからこそ従来の在り方を根本的に見直すチャンスかもしれない。これまでのように子どもの教育に対してオールマイティの役割を果たすべく、なんでもかんでも抱えるようなことは不可能であり、また必要とされていない。価値観が多様化する時代に、数百人が集う学校で、数十人の教職員だけで決めていくのではなく、より多数の意見を反映させていくことが大切であり、そのためにPTAが存在すればいいのではないか。

 

Profile
ふくもと・やすし 神戸大学教育学部卒。神戸市内公立中学校(社会科教諭)、2008年より教頭、教育委員会事務局指導主事、校長を歴任。PTA改革、学力向上、ICT教育等で斬新な取組が多方面から注目を集める。「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2020」受賞。著書『PTAのトリセツ』(世論社)。

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