第2特集 withコロナ時代いじめゼロへのアプローチ theme1 コロナ禍におけるいじめ対策 「ダブルバインド型いじめ」への注目を

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2021.04.19

第2特集 withコロナ時代いじめゼロへのアプローチ theme1
コロナ禍におけるいじめ対策
「ダブルバインド型いじめ」への注目を

千葉大学教授
藤川大祐

『新教育ライブラリ Premier』Vol.5 2021年2月

コロナいじめは大人の態度の反映である

 コロナ禍において、感染者、濃厚接触者を中傷あるいは排除したり、「コロナ」などと体調不良者をからかったりするいじめが、「コロナいじめ」として注目されている。萩生田文部科学大臣がコロナ感染症に関する差別・偏見の防止に向けて緊急メッセージを出したり、啓発動画などの教材が作られたりしている。

 しかし、コロナ関連の差別・偏見の問題は、子供の問題ではなく大人の問題として顕在化しているように思われる。例えば、内閣府の会議(2020年10月16日、偏見・差別とプライバシーに関するワーキンググループ)において三重県の鈴木知事は、以下のような事例を報告している(一部のみ示す)。

・感染者の仕事で使用する制服のクリーニングが拒否された。
・新型コロナに感染したとする貼り紙が見つかった。
・感染者が会社から雇い止めを受け、退職することとなった。
・医療従事者(感染者でも濃厚接触者でもない)の子供が学童保育や保育所の利用を断られた。
・医療従事者が葬儀への参列を断られた。
・集団感染が発生した社会福祉施設に、いたずら電話や苦情電話があった。

 このように、大人による差別・偏見と言える事例が多く報告されている。他方、子供に関しても、「お前のお母さん、病院で働いてるんだろ。菌持ってくるんじゃない」と言われたという事例も報告されているが、この事例も大人たちの話に影響されたものと解される。学校におけるコロナいじめが懸念されているが、実際に問題になっているものの多くは、大人によるコロナ関連の差別・偏見だ。子供たちの間のいじめを防止するためにも、大人の差別・偏見を抑止する必要がある。

「ダブルバインド型いじめ」に対応する

 コロナ禍は、長期間にわたって不安や不便、あるいは経済苦をもたらし、人々に深刻なストレスを与えている。こうした状況においては、直接コロナに関わるものでなくても、いじめ被害が生じやすくなるおそれがある。

 近年、いじめの積極的な認知が進み、いじめ認知件数は増加を続けている。しかし、いじめが悪いということは子供たちも当然理解している。こうした中で目立っているのが、当事者たちが「いじめ」と認めないいじめだ。

 典型的には、誰のことかわからない形でSNSに書き込まれる中傷がある。LINEのステータスメッセージ(自分の名前の下に書く一言)等に、「ムカつく」「消えてよ」「何様だと思ってるの」等、相手を明示せずに嫌な言葉が書かれるものだ。

 他にも、「いじり」とか「プロレスごっこ」がある。「いじり」は特定の者の欠点や失敗等を面白おかしく話題にする行為だが、親密な関係の中で笑わせるものとして行われる。「プロレスごっこ」も、暴力でなく「ごっこ」として行われる。

 いじめへの対応が進む中で、いじめが悪いということは子供たちも基本的に理解している。よほど開き直っている状況でなければ、自らの行為をいじめと認めつついじめを進めることはしない。客観的にはいじめとされる行為であっても、「いじめではない」という言い逃れができる状況で、時には自分でもいじめではないと信じ込みながら、誰かに苦痛を与えるのである。

 こうしたいじめは、被害者に対して二重に苦痛を与える。第一に、行為そのものが被害者を苦しめる。そして第二に、被害者が被害を訴えようとしたときに、「いじめではないと言われそう」「こんなことで文句を言うのがおかしいと言われそう」という不安を与え、被害を訴えればそうした不安が現実になる。

 この種のいじめは、このように被害者が我慢しても被害を訴えようとしても苦痛から逃れられないものであり、対応が難しい。「いじめをやめよう」「いじめの被害にあったら相談しよう」といった通りいっぺんの指導では、問題は解決しないのである。

 では、どうするか。この種のいじめに名前をつけ、問題にするのである。この種のいじめは、被害者に対して二重の拘束を与えるものなので、「ダブルバインド型いじめ」と呼ぼう。「ダブルバインド」は精神医学等の研究者であるベイトソンの概念である。被害者が被害を訴えにくいようなダブルバインド型いじめは、それ自体卑怯である。誰のことかわからない中傷、いじり、プロレスごっこ等について、これらはダブルバインド型いじめであり、こうしたわかりにくい行為をすること自体が卑怯でよくないことだということを、常識にしていくことが必要である。

子供たちを心配する温かい指導を

 2019年度、私が委員長を務める取手市いじめ問題専門委員会は、2015年に中学校で起きたいじめ事案に関する再発防止策を提案した。その柱の一つが、教育相談部会システムの構築であった。問題行動に対応することが中心となりやすい生徒指導部会とは別に、子供たちの課題を見つけ、寄り添って対応する教育相談部会を各学校に設けるものである。取手市の小中学校では現在、市教委から派遣される専門家とともに、教育相談部会において子供たちの問題への対応を進めている。

 コロナ禍で子供たちにストレスがたまっている現在、このように子供たちを心配して支える温かい指導が、学校には求められている。状況はどんどん変わっていくであろうが、どのような状況にあっても、子供たちに徹底的に寄り添うことによって、必要ないじめ防止策が明らかになるはずである。

 

Profile
藤川 大祐 ふじかわ・だいすけ
1965年、東京生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得満期退学(教育学修士)。金城学院大学助教授等を経て、2001年より千葉大学勤務、2010年より千葉大学教授。2018年度〜千葉大学教育学部附属中学校長。2018年10月〜千葉大学教育学部副学部長(附属学校担当)。2016年10月〜千葉市教育委員。メディアリテラシー、ディベート、環境、数学、アーティストとの連携授業、企業との連携授業等、さまざまな分野の新しい授業づくりに取り組む。学級経営やいじめに関しても研究。

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